ひまわりさん観察日記
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2005年04月01日(金) 偶然の密会(番外編)

浅草で開催のおひさまあとりえ児童画展の最終日、会場に向かう快速電車内での出来事です。

春休みの暖かな午前中、浅草行きの快速電車はすでにとても混み合っていた。春日部駅から乗り込んだ私は、進行方向右側のボックス席の把手につかまり、文庫本を取り出して読みはじめる。

すると、私の目の前の席に座っている御夫人が、通路を挟んで反対側のボックス席の窓側にお行儀よく座っている男の子に向かって「もうすぐ一ノ割駅を通過するよ」と話しかけている。一ノ割?、我がアトリエや呑竜幼稚園の最寄り駅である。話し掛けられた男の子は熱心に窓の外を見ている・・・・あれ?良く見ると、呑竜幼稚園を卒園したばかりのSくんである。

Sくんの座っているボックス席には、隣におじいちゃんらしき男性、向いの窓際にはSくんのお兄さんらしき男の子、その隣の女性はお母さまだろうか、いや、もしかしたら全くの別人だったかもしれない。私の立っている位置からはお兄さんとお母さんらしき女性のお顔を拝見することは出来なかったのだ。そう言えば「一ノ割駅・・」と話しかけていたご婦人は、数年前あとりえの児童画展で一度お会いしたことがある、Sくんのおばあちゃんだ。

ここで解説しよう。

Sくんのお兄さん、Sちゃんは、この春小学5年生になる。Sちゃんも呑竜幼稚園の卒園生で、年中・年長の二年間ひまわりあとりえに通っていたのだ。その頃一緒にお迎えに来ていたおちびちゃん(Sちゃんは当時、弟の事を「赤ちゃん」と呼んでいた)がSくんで、あとりえのひまわりさんではないけれども、幼稚園の絵画指導(授業)で二年間おつきあい出来たというわけだ。

一度、Sくんがあとりえのおけいこを覗きにきたことがあって、「Sくんのおにいちゃんも、あとりえでお絵描きしてたんだよー」と話したことがある。その時、Sくんはどうもピンと来ないような、ふしぎそうな表情で聞いていたが。

で、ここで私の、ちょっとずるい考えが働く。

ここでSくんに私の存在を知られてしまうと、20分近く身動き出来ない快速電車の中で、一度しかお会いしたことのない祖父母さま方にご挨拶だけでなく『あとりえ』のことや『絵画指導』のことを説明しなくてはならないだろう。これは一寸難儀である。ここはいっそ、Sくんに気付かなかったことにしよう。都合良くマスクで顔半分覆っているし、いつもの作業着にエプロン姿でもないし、Sくんに背中を向けていれば気付かれることもなかろう。

・・・という考えは、甘かった!

10分ほどして、なんとなく気配というか視線を感じた私は、Sくんの存在のことを半ば忘れて、ふと背中越しに目をやると、なななんと、Sくんが私の事をじい〜〜〜〜っと見つめているのだ。私は咄嗟に、目をそらし本に戻るふりをする。

・・・・ばれたかな? マスクしてるけど。
どうやらSくんはすぐにまた窓の外に視線を移したようだが、まだ疑惑は晴れていない。


なぜなら、二ヶ月程前に、こんなことがあったのだ。

地元のホームセンターに買い物に行った時の事。
自動ドアを入ってすぐの切り花を見ていた母。私はドア付近で他の客の邪魔にならないように、ボーッと立っていた。

その時も、なにやら視線を感じて、振り返り一面ガラスの自動ドアの向こうに目をやった。

ガラス越しに、私をじい〜〜〜っと見つめる、男の子。
そう、Sくんだった。
その時は、私から手を振った。するとSくんも満面の笑顔で手を振り返してくれた。ガラス越しだったので、言葉は交わさなかった。
後からやってきたSくんのお母さんが、息子に手を振る私を見て、お互い会釈した。その時には私が誰か、分からなかったようだが、きっと後でSくんが説明してくれたことであろう。
(後日、幼稚園でSくんに会った時、「このあいだお店で会ったよね〜」と話をした。)

・・・という過去があるのだ。今日もばれてるかも。実にあやしい。


咄嗟に目をそらしてしまい、さすがの私も後悔した。
せっかく私に気付いてくれた(マスクをしてるのに)Sくんは、もう卒園してしまった。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないんだ・・

よし、電車を降りる時にまた私を見てくれたら、マスクを取って笑顔で手を振ろう。


さらに10分後、電車は北千住駅に到着。Sくんたちは下車するようだ。私は終点まで行くので、ドアの側の空いた席に座る。ここに座れば、間違いなくSくんは私の目の前を通る。

通った。Sくんはやっぱり私を見てくれている。私は慌ててマスクを取って、手を振る。Sくんも疑いの眼差しから愛くるしい笑顔に変わり、思いっきり手を振る。次の瞬間、すぐ後ろを歩くSちゃんの身体を、バシバシ叩く。「おにいちゃん、あとりえのせんせいだよ。しってるでしょ?」という無言の訴えである。

5年生になったSちゃんの顔をはじめて見る。4年ぶりに会うSちゃんは、背もスウッと高く伸び、表情もきりりと引き締まり、ニコニコ愛らしかったあの頃と比べて、ずいぶん大人びて見える。街ですれ違っても、Sちゃんだとは気付かないかもしれない。もちろんSちゃんも私が誰だか分からない様子。なぜ弟がこの人と手を振りあうのか、弟が自分の身体を叩くのか。

この間、たった数秒の出来事である。


Sくんとの、誰にも気付かれない、二度の偶然の密会。
もう幼稚園で会うことは無くなるけれど、また街のどこかで会えるような気がしてならない。

Sくんや、他の卒園生に、私だと気付いてもらえるように、よし、頑張って若さを保とう、と、くだらない気合いの入る、新学期の始まりだ。 











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