今日のおたけび または つぶやき

2007年09月08日(土)  「憑神」 /天狗は芸の行き止まり



9号はかなり派手に通過なさいましたよ。そしてすでに10号も発生ですと?

うちのマンションは裏が林(お隣さんの敷地)なので、強風だと木々のざわざわがものすごいのですが、

朝起きたらベランダに葉っぱの山が。


で、駐車場の車も、葉っぱまみれというか葉っぱまぶしというか、ものすごいことに。

ご近所のお庭でも折れた木とかが道路にはみ出していましたよ。

小さな林だけでもこの惨状だから、河や山が近いお家は本当に大変ですね。



その葉っぱのほとんどが笹なので、あたり一面笹のいい香りが漂っていて

軽く森林浴気分になれるのは良いのですが、ほっとくわけにもいかず。

働き者の管理人さんが、今日は3時間半かけてでっかいゴミ袋8袋に落ち葉を

詰め込んでおられました。おつかれさまです。


さて、そんな台風一過な昨日、新橋演舞場へ「憑神」を観てきました。

友人がご招待券を当ててくれましてん。とても面白かったです。

3階二列目からの観劇でしたが、花道奥以外はちゃんとよく見えるし、

誰のお顔が観たいということもないので全く無問題。


妻夫木くん主演の映画もありますが、わたしは観てないので全くストーリーを知らず、

出演者も中村橋之助氏と鈴木杏ちゃんと、「スシ王子!」の対戦相手のひとり、まぐろう(違)こと

葛山信吾氏がいらっしゃる、程度の知識だったのですが、いやー、面白かった!



いつもヒネクレた舞台の観方をしていることが多いものだから、

こうやって何の予備知識もなく、「どうなるの? どーなっちゃうのー?」と

ストーリーに純粋に引き込まれながら、役者さんたちの一挙一動にしんみりしたり

笑わせてもらったりするのは本当に楽しい。


橋之助はそういえばコクーン歌舞伎でつい最近初めて観て、その時もすごく良かったけど、

今回の、真面目で人が良くて損ばかりしている、でも腕も立つし侍の魂もがっつり持っている

彦四郎役もとてもとても魅力的でした。



「絶対手を合わせちゃいけない」と言われていた古い祠を、たまたま拝んでしまったことから

貧乏神、疫病神、死神に次々ととり憑かれてしまう彦四郎。

神さまたちとの色々なすったもんだのあげく(これが最高に笑える)、彦四郎が最後に

「武士としての生き方」を見事に全うしてみせるラストはかなり感動的で、

わたしの大好きな笑って笑ってほろり、なパターン。


3人の神さまたちが、風体といい性格といいとても個性的で面白くて、

そこいらの人間よりはるかに人間くさくて楽しいったらありゃしない。

彦四郎を取り巻く人たちも魅力的で、お顔も名前もまったく知らない役者さんたちも大勢いたのに、

観終わる頃には全員にすごーく親しみを持ってしまったという、

まさに「役者の力量ってこういうことね」と納得の舞台だったのでした。

浅田次郎の原作もいつか読んでみましょ。



やっぱり歌舞伎役者は凄い。伝統芸能出身の人は凄い。

脈々と受け継がれている芸って、やはり生き残るだけの理由があるよな、としみじみ思うのでした。

そしてそんな世界に生きている人たちの言葉も重みがある。



と、無理やりつなげたところで本日も貞水師匠のお言葉紹介〜。


人から誉められたことは早く忘れた方がいいです。

 逆に、失敗したこと、人から叱られたことは、

 一生覚えてなきゃいけません。



 これは話術に限らず、あらゆる技術の上達について言えることだと思います。

 誉められたことというのは、できるだけ早く忘れた方がいいです。

 人から誉められるほど上手くできたことというのは、そんなに努力しなくても、

 またできますから。それをいつまでも覚えていて、その喜びに浸ってばかりいると、

 慢心につながります。どんな達者な人でも、慢心すると、それ以上は上達しなくなるものです。

 それどころか、だんだん技術が荒くなって、下手になっていく。


 我々の世界でよく「天狗は芸の行き止まり」と申します。

 慢心して天狗になったら、それ以上の成長はないんです。」


(「心を揺さぶる語り方 人間国宝に話術を学ぶ」 一龍斎貞水著より)



とはいえ、凡人はなかなか誉められることもないから、唯一誉められたことだけを

心の支えにして頑張るわ! という気持ちでいることの方が多いように思うのですよ。

誉められたトコだけとにかく伸ばしていけばどうにかなるのではないか、なんて。

でも、そんなピンポイントでがんばっていても、ちょっとデキる人気分になって

まさしく「慢心」した途端に大失敗、というのもよくある話で。ああ耳がイタイ。



慢心したり天狗になってしまったりした時、それをちゃんといさめてもらえるのは

本当はすごくありがたいことで、伝統芸能ではそのあたりの土壌は堅固なのでしょうね。

そのおかげであんな楽しい舞台を楽しませていただけております。


わたしの大好きなオトコマエたちにも、もしや万が一にも天狗になりそうなことがあったら

容赦なく鼻をへし折ってもらって、さらに素敵なオトコマエになっていただきたいです。


 < 過去  INDEX  未来 >


ふー [MAIL]

My追加