Rei's column
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2005年09月09日(金) Fin

夏が終る。


少し前からふいっと季節が変わったように思う。
・・蝉の声が消えて虫の音がするような夕暮れ時。

夏の終わりが来るといつも何かが終ったような気がしている。
今年の夏は何を得て、何が終ったんだろう。
めまぐるしく変わっていく何かにいまだに軽く目眩を覚えてしまいそうになる。


信号待ちをしていたスクランブル交差点の向こうからふと
ギターの音色がしていることに気がつく。

情熱的でどこか儚げな異国の旋律。
惹かれるように歩いていくとスパニッシュ系の男性がクラッシックギターを奏でていた。
ストリートミュージシャンなんて歩けばあたるほどいるこの街で
私が足を止めたのは振り返ってもまだ2回くらいしかない。


ふと思う。

情熱とはたしかに儚さと背中合わせなのかもしれない。
身を焦がすような情熱はいつまでも続くことはない。
その終わりが来るとき、残るものとはいったい何だろう。


何度終わりの哀しさに晒されても情熱は私の中で消えることがない。
何も知らなかった若い頃のように無防備に身を任せることはなくても
今でも青白く静かな炎がふつふつと・・ たえまなく揺れては何かを呼び起こす。



そう。。 終っていくことなど本望なのだから。

何かを得るときに何かを無くさなくてはならないのなら
無くすことを怖れることなど出来はしない。

私はただひとつをずっと求め続けている。
その想いが自分を破壊するギリギリの激しさで。


自分すら、無くしてもかまわないと思う。
それほどまでのものに巡りあえるのなら。

より大きなものを無くして私は完成されていく。

すべてを知った上で私が私を完全に無くすその瞬間へ。



それなのにいつも
終ることの寂しさにどこか打ち震えていた。

何かの代償のように剥ぎ取られていくものが
大事であれば大事である程に。



気がついた。

夏が終ると同時に
私の中で儚さが消えていく。

情熱が冷めて、宿命へと変わる時。
悲しいまでに堅固なものへと姿を変えることへの、その決意。


負ければすべてが崩れさっていってしまう。
退路を絶って立ち向かうしか私はすべを知らない。
儚さが消えて沸き立ってくる底知れない力に本気で怯えながら。



ここまで、やっと来た。

そう思うと涙が止まらなくなる。

やっと私はこの域まで無くすことが出来たのだと。




見えている世界が変わっていく。今まで見えなかったものが姿を現す。
確実に、ステージが変わったという恐怖と高揚感。


更なる上の領域へそしてもっと深い水域へ・・・

その最後の瞬間に私が完成し、消えていけるなら。



演奏は続いていた。
ひとり、ふたりと足を止めては聞き入っている。

一瞬触れた感性を留めておくことにさしたる意味はない、と今ならもうちゃんとそう思える。
時には感傷的になることはあるのだろうけれども。

近くにいるスタッフの女性にお金を払いCDを買い、その場を離れた。



そのCDのタイトルにはこう書かれていた。
「Alone with you」



・・・Alone with you.







★Peter Dickson 〜 Alone with you★


PeterDickson website http://www.peterdickson.com




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