あたたかなおうち



 映画

実家の隣駅にあるデパートを、祐ちゃんは早足で歩く。

待って、もっとゆっくり歩いて
小走りで追いかける私を振り返ることもなく。

土日を利用して祐ちゃんの実家に来ている。
ハルとお留守番してるから、二人で散歩に行ってきたら
お義父さんとお義母さんが、にこにこと送り出してくれた。
エスカレーターさえ立ち止まることなく
どんどん進んでいく祐ちゃんの背中を
私は見失わないように追いかけることしかできない。
二人で出掛ける機会なんて滅多にないのに…

祐ちゃんがやっと立ち止まったのは、デパート内の映画館。
迷うことなく券を買う。
すぐに始まります、と店員さん。
私はあっと息をのむ。

この映画が見たいんだー
ふぅん
でもハルがいるからなぁ
CMを見ながらのやりとりを、覚えていてくれたんだ。

すでに暗くなっている中を、椅子に座りながら
祐ちゃんは小さな声でささやく。
急がないと間に合わなくなっちゃって
思わず涙がこみ上げる。
ありがとうと言いたいけど声にならない。
そんな私の頭を、
祐ちゃんが少しだけ乱暴にくしゃくしゃとなでる。

2007年12月06日(木)
初日 最新 目次 MAIL


My追加