りえるの日記

2007年04月13日(金) 季節を愛でる

近くの街の桜並木を散策。

谷崎短編の「ハッサン・カンの妖術」で
谷崎が季節を愛でている情景を語った素晴らしい
文章を思い出した

「桜木町辺の、新築の家が並んでいる一廓には、ところ
どころの邸の塀越しに蕾を破った梅の花が真珠のように
日に映えていた。予は何となしに、毎年季節の変わり目に
感ずるような生き生きとした喜びが、疲れた脳髄に
染み込んで行くのを覚えた。
その喜びは、図書館の前に車を乗り捨てた後までも
なお暫く続いていた。予は威勢よく階段を馳せ上がって
閲覧室へ這入っていくと、まず何よりも大きな洋館の
窓の外の、紺碧の色に心を惹かれて、一番壁に近い方の
空席を占領した。そうして、外から忍び込む爽やかな気流を
深く深く吸いながら、じっと大空を仰いでいると、白い柔らかい
雲の塊が、巍然として聳え立つ図書館の三階の屋根の上を
緩く絶え間なく越えて行くのであった。予の眼は本を読むことを
忘れて、長い間それをうっとりと眺めていた。」

こういう抜粋がテキストになっている
フランス語版東大教養学部のテキストがある。
詩から文学、政治まであらゆる分野が網羅されている
抜粋本。
この中の抜粋で、ロジェ・グルニエの短編を本屋で立ち読みした
ほんの1ページの抜粋なのに、男女の機微が感じられる行間だった。
会話後の余韻を感じられる文章というのかな。
フランス語も比較的平易だったので、原作を今度の旅行で買い込もうと
思う。これを訳した人は山田稔氏だ。
大好きな仏文学者。こんな所で繋がっているとは、自分の
文学のアンテナに我ながら驚く。

日本語のこういう抜粋本を読んで
日本文学に興味を持つ外国人もいるかもしれない


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