近くの街の桜並木を散策。
谷崎短編の「ハッサン・カンの妖術」で 谷崎が季節を愛でている情景を語った素晴らしい 文章を思い出した
「桜木町辺の、新築の家が並んでいる一廓には、ところ どころの邸の塀越しに蕾を破った梅の花が真珠のように 日に映えていた。予は何となしに、毎年季節の変わり目に 感ずるような生き生きとした喜びが、疲れた脳髄に 染み込んで行くのを覚えた。 その喜びは、図書館の前に車を乗り捨てた後までも なお暫く続いていた。予は威勢よく階段を馳せ上がって 閲覧室へ這入っていくと、まず何よりも大きな洋館の 窓の外の、紺碧の色に心を惹かれて、一番壁に近い方の 空席を占領した。そうして、外から忍び込む爽やかな気流を 深く深く吸いながら、じっと大空を仰いでいると、白い柔らかい 雲の塊が、巍然として聳え立つ図書館の三階の屋根の上を 緩く絶え間なく越えて行くのであった。予の眼は本を読むことを 忘れて、長い間それをうっとりと眺めていた。」
こういう抜粋がテキストになっている フランス語版東大教養学部のテキストがある。 詩から文学、政治まであらゆる分野が網羅されている 抜粋本。 この中の抜粋で、ロジェ・グルニエの短編を本屋で立ち読みした ほんの1ページの抜粋なのに、男女の機微が感じられる行間だった。 会話後の余韻を感じられる文章というのかな。 フランス語も比較的平易だったので、原作を今度の旅行で買い込もうと 思う。これを訳した人は山田稔氏だ。 大好きな仏文学者。こんな所で繋がっているとは、自分の 文学のアンテナに我ながら驚く。
日本語のこういう抜粋本を読んで 日本文学に興味を持つ外国人もいるかもしれない
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