和歌山県は岩出町の山の中に、そのお店「桜の里」はある。 採れたばかりの新鮮野菜やお花が売られている小さな店だ。 日曜日にたまたま車で通りかかって立ち寄った。
60代と思しきリュックを背負った女性が、 野菜で満杯になった手提げ袋を持って、バスを待っておられた。 駐車場の警備員さんとの会話の内容が耳に入ってしまった。 JRの駅までバスに乗り、そこからまた電車に乗られるそうだ。
ついつい親切心満載の主人が声をかけた。 「もし良ければ車に乗って下さい。ちょうどJRの駅を通りますよ」 「ほんとですか! ありがとうございます。」 大喜びのその人と車内での会話も弾む。 はるばる大阪は堺市から野菜の買出しに来られたそうだ。
我が家はJRの駅のすぐ近くにある。 その人を駅までお送りするのに、何の苦労もない。
駅に着いた。 しかし、その人は車から降りようとされない。
「住所と名前を書いて下さい。」 「えっ? そんな大げさな・・・こちらは、ただのついでだったんです」 「いいえ、このままでは、私は絶対に下りることができません。」
なんとしても私達の住所と名前を教えてほしいと粘られる。 書いてくれるまで、私は絶対に車を降りない、 こんなにお世話になって、そのままで引き下がる訳にはいかない、 そう言って、デンと後ろに座ったまま、断じて動く気配なし。
「いいですよ。ほんとうについでだったんですから」 「いいえ、教えてくれるまで私は下りません」
何度、同じ会話が狭い車内で繰り返されたことか。
こんなことで、すったもんだするとは予想外のこと。 ほんとうに15分間以上、意地の張り合いが続いた。 こんなことなら、乗って頂かないほうがよかったのかな?
さて、どっちが勝ったでしょう? 私達です。 やっと諦めて下さって、車を降りて下さいました。 どっちみち、筆記用具を所持されてなかったのですから、 結果はこうなるのはわかっていましたが・・・
おかげで、太極剣の練習に遅刻してしまいました。
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