この町に引っ越すことになった時、周囲の知人達は皆同じことを言った。 「○っちゃんは、絶対に大丈夫! 活発だし、シッカリしているし!」 母親の私もそう思っていた。 大人しい息子の方は少し心配だけど、娘は誰が見ても大丈夫な子。 転校しても、すぐに新しい環境にも学校にも慣れるだろうと。
小学校二年生の秋だった。 すぐに新しいお友達もできた。 転校して一週間後の運動会にも参加した。 予想通り何もかも順調に行っていると安心しきっていた。
でも、ある朝、娘は学校を休むと言い始めた。 たしかに顔色は優れない。熱は無さそうだが全く元気が無い。 ただただ「しんどい・・」と言う。
活発で元気な子、友達も学校も大好きな子だから、 ウソを言ってズル休みなどする筈がない。 きっと、いろいろな疲れが出たのだろう、と思った。
でも、家で寝ているわけでもない。 閉じこもって、所在無さ気にボーっとして過ごしている。
そして翌日も学校に行かないと娘は言った。 初めて、アレ? おかしいぞ・・・ とり合えず、近所の医院に連れて行った。 特に悪い所は無かったが、触診の後、医者は 「ストレスでしょうね。胃がカチカチに硬くなってます。」
ストレス? この子がストレスなんて・・・
原因は給食だった。 転校先の担任の方針は「絶対に給食を残さないこと」
娘は食が細くて食べるのが遅い。 昼休み中ずっと食べて、それでも残った分は、そのまま保存。 そして放課後に再びそれを食べる。全部食べ終わらないと帰れない。
知らなかった〜。
前の小学校では、残すも残さないも自由だった。 楽しく食べるということをモットーに 机を寄せ合ってグループになり、お喋りしながらのランチタイム。 担任は毎日順番に各グループの中に入り、いっしょに食べる。 「○○さんは、プロ野球は好き? どこのファン?」」 などと話しかけてくれた。
ここの小学校は、食事中は喋ってはダメ、 できるだけ、サッサと食べ終えること。 学校によって、こうも方針が違うものなのか。
娘は輪切りのコーンがどうしても食べられないと言った。 「そんなもの、コーンをかじったら、すぐにパンを押し込んで、 パンといっしょに食べればいいよ」 すると、驚くべきこたえが返ってきた。 「コーンはデザートだから、全部食べ終わってからでないと 食べたらアカンの!」
まだ、周りには全く友人も知人もいない私は、 担任に医者の証言も交えた手紙を書いた。
幸いなことに、娘は再び元気になった。 自分の食べきれる量を自分でとる、という方法になったそうだ。
すぐに解決して下さったことに感謝もするが、 私はその後、娘の担任が変わる度に、先生にその話を愚痴ってしまった。
それは、決して給食を無理強いしないで欲しい、 給食のせいで登校拒否になることだってあるのです、 と言いたかっただけなのだが、 かなり、恨みがましい口調だったと思う。 今でも根に持っているくらいだから。 もう、二十年近く経つというのに・・・
でも、最近その話が出た時、娘は言った。 「私はね、いつも、あの子は絶対に大丈夫、 と思われることが一番イヤだった」
そういうことだったのか。 いつも無理して、必死に頑張らなければいけなかったのね。 ほんとうのストレスの原因は、意外なところにも潜んでいたのね!
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