Rocking, Reading, Screaming Bunny
Rocking, Reading, Screaming Bunny
Far more shocking than anything I ever knew. How about you?


全日記のindex  前の日記へ次の日記へ  

*名前のイニシャル2文字=♂、1文字=♀。
*(vo)=ボーカル、(g)=ギター、(b)=ベース、(drs)=ドラム、(key)=キーボード。
*この日記は嘘は書きませんが、書けないことは山ほどあります。
*文中の英文和訳=全てScreaming Bunny訳。(日記タイトルは日記内容に合わせて訳しています)

*皆さま、ワタクシはScreaming Bunnyを廃業します。
 9年続いたサイトの母体は消しました。この日記はサーバーと永久契約しているので残しますが、読むに足らない内容はいくらか削除しました。


この日記のアクセス数
*1日の最高=2,411件('08,10,20)
*1時間の最高=383件('08,10,20)


2008年11月20日(木)  Lola

昨日の日記を読んで、「げっ、何この女。美しいなんて普通お世辞でしょ?」って思ったブス女性の方へ。
・・・当たり前だろ。
*最近いなくなったけど。以前はああいうこと書くと、怒って苦情メール寄越す女とかいたんですよー。そういうヤツって、例えお世辞でもああいうこと言ってもらえないのね。うんうん。
大人同士は社交辞令があるので、大人の男は、大人の女なら結構なブス相手でも平気で「お美しいですね」くらいは言う。
私はブスではない筈だが。でも「美しく」もない。うつくしいという言葉は、もっとうつくしいものの為にあるのだ。例えばポール・オースターの'Ghosts'や「偶然の音楽」、フォークナーの「サンクチュアリ」、マラマッドジャン・コクトー

例えばキンクスの"Lola"。
こんな歌は、レイ・デイヴィスにしか作れない。最初にメロディを作ったのは自分だとデイヴが言っているらしいが。いずれにしろデイヴ一人ではこの半分も優れたものは―――うつくしいものは出来上がらなかった筈だ。
うつくしいうつくしいと言うが。私は、美しさは主観だと信じる。なので、美を喜ぶ心に「自己の主観的自我だけが関係するような個人的な条件を見出すことは出来ない」と述べるカントの考えには到底同意できない。
そして、私個人が何をうつくしいと思うかは、'Lola'の中に全部あると思う。

"Lola"は、1970年に出た"Lola versus Powerman and The Money-Go-Round Part One"という長いタイトルのアルバムに入っている。(ちなみにこの前後のアルバム、"The Kinks Are The Village Green Preservation Society"と、"Arthur or the Decline and Fall of the British Empire"の3枚のタイトルが言えるのが、私の最も無意味な自慢である)
この歌は、若い男の子がクラブで出会ったいわゆる「オカマ」―――聞えよくいえばトランスヴェスタイトの男性を相手に、初体験をする歌だ。
日本人でこの詞の内容を知って「イメージが壊れた」という人もいるが。とんでもないと思う。私が知る限り、こんなにトランスヴェスタイトを真面目に高らかに歌い上げた歌はないからだ。
これを、イギリス人特有の真顔の皮肉と取るのは簡単だ。だが、これを聴いてみてほしい。私には、これはどうしても真摯な賛美にしか聞こえない。

最初この男の子は、彼女が男だと気づかない。だから、"I can't understand why she walked like a woman and talked like a man"(なんで彼女は、歩き方は女らしいのに、男みたいな喋り方なんだろう)と言ったりする。"When she squeezed me tight she nearly broke my spine"(彼女が僕をきつく抱きしめたんで、背骨が折れるかと思った)というコミカルな歌詞もある。
でも、この女性経験が皆無な男の子は、何の予見も偏見もなく、「ローラ」に飲み込まれていく。

この歌には「まがいもの」がいくつか出てくる。ローラと会ったクラブでは、シャンペンを頼むとコカコーラの味がするという。そして二人は、電気製のキャンドルの下で踊る。「ローラ」もまがいものの女だ。彼はそれにだんだん気づきながらも、やがて性差を含む一切は混じりあい、しまいには世界を揺るがすまでになる。ゆるく始まったメロディは、次第に高まり熱をおびてくる。
まがいものや、間違えることのうつくしさが、ここにはある。先ほどのカントの言葉のもっと前の部分に「美しいものが呼び起こす喜びは、あらゆる利害というものと無関係である」という箇所があって、これには非常にうなずける。私をこれをもっと進めて、「美は完全に無益である」と言いたい。私が十代で到達した結論は「文学は飢えた子供を救わなくてもいい」だが、飢えた子供を救うのでは、文学の孤高の美は成り立たないのだ。

これだけのものを、ポップミュージックの世界でつくってしまうレイ・デイヴィスというひとは凄いと思う。

そしてこの独りよがりの"kink"(ひねくれ)こそが、Kinksというバンドの真骨頂である。だから、現在の日本で、いかにもヒット狙いの単調なラヴソング(基本的にレイは普通のラヴソングを歌わない)である"You Really Got Me"だけでキンクスというバンドが広く知られているのは残念だ。
しかし本国においては、"You Really Got Me"はチャート1位になったが、"Lola"も2位にまでなったのだ。そして今でもキンクスは人々に愛されている。ロンドンの本屋に入れば店主がハタキがけをしながら"Waterloo Sunset"を鼻歌で歌い、地下鉄がビクトリア駅に停車すれば男の子が"Victoria"を歌いだす。

―――またロンドンに行きたくなってきたなあ。

Lola (ローラ)  *Kinks の曲。(1970)



前の日記へ次の日記へ