2004年08月19日(木) |
800字小説「ラブホテル」 |
ゴザンス800字小説。
今回のお題は(祭の翌日に/タクシーで/浴衣の女性が)です。
とりあえず、えいっと(やっぱり)投稿しました。
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「ラブホテル」
鈴木くんとはただのクラスメイトのはずだったのに。
ホテルの広いバスルームの中で熱いシャワーを浴びながら、
瑠美子は昨日の夜のことを思い出してそう考える。
祭りの灯も消え、屋台が折りたたまれる頃、突然、雨は降り始めた。
祇園祭の頃になると、必ずといっていいほど雨が降る。
「きっとスコールだから、すぐやむよ。」
鈴木くんはそう言って、缶ビールのふたを開け私に手渡した。
雨宿りをしながらちびりちびりと飲むビールは、あまりおいしいものではなく、
自然と無口になっていった。
ただ雨を見つめる時間が続く。
ふたりの間の空気が、だんだん密度を増すのがわかった。
避けられないムード。
缶ビールというものは、思いのほか酔いがまわる。
*
気がついたら、鈴木くんとキスをしていた。
雨は本降りになり、やむ気配はどこにもなかった。
それで、しかたなくホテルに行った。
京都の街は、皮肉なほど便利に出来ている。
大通りからほんの二、三筋道をそれただけで、もうラブホテルがちゃんとある。
それでも浴衣は、ホテルに辿りつくまでにあっという間に濡れてしまい、
白地に紺のあじさい模様が、体にぴたりと張りついた。
自分でも豊満だと思う胸元は、ぐっしょりと濡れて下着が透けていく。
ばたん。
と、音を立てて扉が閉まったとたん、鈴木くんに強く抱きしめられていた。
着くずれた胸元から鈴木くんの繊細そうな手が差し入れられ、
私はあっというまに鈴木くんに愛されていた。
*
なんだか妙なことになってしまった、と、浴衣を羽織ながら、瑠美子は再びそう思う。
ホテルの分厚いカーテンの隙間からは、まぶしい朝の光がわずかにこぼれていた。
まだ眠っている鈴木くんの、悪びれた様子のない寝顔を、少しかわいいと思う。
タクシーを拾って帰ろう。浴衣姿ではとうてい電車になど乗れない。
瑠美子はそう考えて、身支度を整える。
浴衣の襟元がまだ少し湿っている。
赤い巾着から携帯電話をとりだして、鈴木くんにメールを打つ。
「先に帰ります。―瑠美子」
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