2004年12月05日(日) |
転生学園SS、あります。 |
なんでも話によれば、 雑誌「ASUKA」にて、 転生学園幻蒼録の漫画連載が始まったらしいですな。
コミックスが刊行されたら買うかもしれないですが、 ゲームの内容が内容だっただけに、どういう展開になるんか?と…、やや不安です。 あのEDはどう考えてもバッドエンディングだとしか思えない! (もー!頼むからラギー!その声のノリでそういうセリフを吐かんでくれ!) (千石の目が見えなくなったかのように聞こえる!)(泣いたさ)
漫画化記念というわけじゃないですが、 フォルダを整理していたところ、 たまたま、書きかけの転生小説が発掘されましたので、完成させて、下に置いておきます。ただの道楽ですな。
内容としては、綾結(九条×紫上)です。ノーマルカップリングです、一応。
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九条家の分家である、 紫上の家に、長女として生を受けた私は、 産まれたその瞬間より、お仕えすべき方が定められていました。 その方に、初めてお目通りが叶ったのは、 私が、六つになった頃のことです。
時節は、皐月。 その日は、めでたくも、かの方が七度目の生誕日を迎えられ、 本家にて、祝賀の宴が催されたのです。
「こちらが九条執柄家、ご嫡子の綾人様にあらせられる」
幼心に、私は、 とても緊張を感じていたことを覚えています。 そう、この方こそが、宗家。 私のお仕えすべき唯一の御方なのです。 ここで何かしら粗相があっては、父にも母にも、申し訳が立ちません。
「綾人様。 こちら紫上の娘御殿に御座います」
家老の言葉を受け、 私は、上座にお座りになられている綾人様へ、 畳に擦り付けんばかりに深く頭を下げました。 この日のために、どれほど祝いの言葉を練習したか分かりません。
「おはつにお目にかかります、神子さま。本日はおまねきいただきまことに…」
「堅苦しい挨拶はいい」 「……は?」 「紫上のむすめだと言ったな。名は?」 「……え。……はい、結奈です」
「そうか、では…結。 おまえは雅楽が得意だと聞いた。 おれも多少、雅楽をたしなんでいてな。 …もっともおれは、楽に対してさっぱりセンスが無いらしいが。はっはっは」
これが、 幼き日の、私と綾人様の出会いでした。
転生学園幻蒼録SS 魚の水あるがごとし
「総代!……失礼いたします!!」
私は、生徒会執務室に立ち入りました。
本来ならば、これは、入室の許可を待たなければなりません。 私の行為は、無礼以外の何物でもないのです。 ですが…
「どうした?血相を変えて」
ご自分の机で、書類に目を通していた御仁。 ―――天照館高校 自治生徒会執行部34代目総代 九条綾人様。
顔を上げたその動きにつられて、 無造作に束ねられた髪と、肩に付けられた総代章が揺れました。
「何だ、結。なにをそんなに怒っている」 「怒りもします!」 「ちょっと待て。今日は俺はサボらずに公務を…」 「そのことではありません!」
綾人様は、決して、不真面目な方ではありません。 不真面目ではないのですが、 総代としてのご公務を、よくサボられます。 ……いえ、ですから、不真面目な方なのではありませんよ。 ただこの方は、 堅苦しいことが嫌いなのです。理由の無いものは、特に。
「ならばその怒りは何に対してのものだ、結。 ………思い当たる節が多すぎて、どれだか思いつかんな」
「榊原君への、歓迎会での一件です」
「ああ!………ばれたか」
綾人様は、ばつの悪そうな顔をされました。 「結は、耳が早い」と笑っておられます。
先日、この天照館高校へ、一人の転校生が来ました。 名前は、榊原拓実君。 綾人様みずから才能を見抜き、編入を勧めた人物です。 そして、 私の知らぬところで、 彼への、ささやかな歓迎の宴を開いたというのです。 …そのこと自体は、大いに結構なことだと思います。ただ。
「飲酒とは何事ですか綾人様!」
「はっはっは。なかなか楽しい酒宴だったぞ?」 「なんということを…未成年なのですよ」 「鼎さんは、すでに年齢では成人だ。高校生だがな」
「綾人様もお飲みになられたのでしょう?」 「持ち出した本人が、飲まんというわけにはいかないだろう」 「まさかっ…!用意されたのは綾人様なのですか!?」 「しまった。これは失言だったな」
眩暈がしてきました。
「よもやとは思いますが、榊原君にも…?」 「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ………あいつは思いのほか酒癖が悪い」
頭痛がしてきました。
…昔から、この方はこういう性分なのです。 どれほど厳格な方なのか、と畏れていた私が、あまりにも拍子抜けするくらい。 気さくで、気のよい、おおらかな方。 古い体制や慣習を何よりも嫌われ、 九条嫡子だというそれだけで、他人から、かしずかれることを善しとしない方。
「総代としての誇りはどこに行かれたのですか、綾人様…」
「ふむ、拓実にも同じ事を言われたが、 誇りなど、持つべきときは持てばいいし、 持たずによいときは捨て置けばいい。柔軟に使い分ければそれで足りる」 「綾人様…」 「そう堅いことを言うな。結。悪いことをしているという自覚はあるのだから」 「…はぁ、しかし」 「な?」
当初の、私の怒りはどこへやら。 何か、とても上手く言いくるめられてしまったような気がします。 嗚呼。そもそも、私がこの方を諭そうとすることそのものが、 間違いなのかもしれません。 どうあっても私は、綾人様には適わないのです。
「くっくっく。結も、もう少し寛容になったほうがいい。 そんなに堅いと、嫁の貰い手がなくなってしまうぞ?」
「私は、綾人様にしかるべき女性が現れるまで、 嫁ぐ気など毛頭ありません!」
「それは困った」
綾人様は、おかしくてたまらない、と言った様子でひとしきり笑った後、 ふいに席を立たれました。
「しばし休憩だ。茶でも淹れるか」
「…あぁ、なら私が」
「お前の場合は、茶を立てる、だろう? 結の茶は旨いが、いかんせん退屈でいかんよ。 何度やっても俺は正座というやつが好きになれない」
先日もそう言って、 私の茶会を逃げられましたね、綾人様。 しかも、伊波君をうまく丸め込んで、身代わりにされて…
「……ふむ、そうか。どうせ茶を飲むなら奥津小路まで出るか。 結も来るだろう?…俺のおごりだ」
「ご公務はよろしいのですか?」
「構わんぞ。どうせこんなもの形式上だ。 後は、参事であるお前が読んでおいてくれれば問題ない」 「綾人様っ!!」 「そうと決まれば、さあ行くぞ結」
……困った方です。
綾人様は、総代としての自覚も、宗家としての自覚も、 きちんとおありでいらして、それが故に、深く悩まれることもあって、 私はそんな綾人様を見て、 ときおり不安に駆られることもあるというのに… この方はあまりにも直情的すぎる、と。
そんな私の不安を吹き飛ばすように、 いつも綾人様は、「杞憂だ」と、明るく笑われている。
……ふふ、本当に仕様の無い、私の主君。 幼き頃より、少しもお変わりになられない。
逃げるようにして執務室をお出になられた、 綾人様の後を、私は静かに追いかけ出したのでした。
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元ネタは、転生オフィシャル本「完全キャラガイド」から。 あれで、マジで酒を出してきたあげく、 「さ、飲みましょう」と言い出した、 生徒総代(生徒会長)九条綾人に衝撃を受けて書いた話。 プレイ前は、 九条を「どんな堅い厳格な性格なんだろ?」と思っていましたが、 九条自身はかなり話のわかる気のいい兄さんでした。むしろ堅いのはヒロイン、紫上結奈のほう。
今でこそ、 カップリングと呼べる域で好きな、綾結ですが、 ゲーム開始早々、九条が紫上を「結」と呼んでいるのを聞いて、 なぜか「あんたら仲良すぎ!」とジェラシーに燃えたのですが、 それは九条に対して嫉妬していたのか、 紫上に対して嫉妬していたのか、今でもどっちなのかよく分かりません。
だってよう橘さん!! (転生には実際に「橘さん」がいます) (コウちゃんとの仲は断固として認めねえぞチクショー) 主人公(=伊波)は俺だというのに、なんなんだこのいきなりフラれたような哀しさは! 主人公は俺だ!俺が神子だ!俺が世界の中心のはずだ!! やってらんねーよ、誰も彼もみんな「九条九条」って…!(←イヤな主人公だなオイ) いや、わたくし、九条総代ダイスキですけども。
といいますか、これを書きながら、 次第に切ない気分になってきました。 ……なんで、死んだんだ九条…!(泣)
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