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2004年03月09日(火) |
思い出は、思い出だけに |
ついに「田舎」をなくした。 祖母が独りで暮らしてきた家を、とうとう、明け渡すことになったのだ。 (注:祖母自身は、叔父たちと同居して健在) 木と、土と、水と、暗闇の匂いのする、茅葺きの平屋。 そして、祖母が丹精してきた畑。 思えば、祖父が亡くなってからずっと、私の心には、 いつかココとつながりがなくなってしまうことへの恐怖があった。 どんなに暑い日でも、この家に一歩足を踏み入れると、 ひやりとした空気が肌をなで、一瞬目の前が闇になる。 まるでそこが異界への入り口のような、不思議な感触。 その家に、もうわたしは入ることがない。
梨木香歩の作品を読むとき、 いつもわたしはあの田舎の家を思い浮かべていた。 『西の魔女が死んだ』でいちごを採るのは、あの辺り、 『からくりからくさ』で与希子が昼寝をしていた木は、あの辺りに、 みんなが食事をした部屋と、旗を織っていたのはこんな部屋で 最後に燃えてしまった家を見送るのは、こんな景色で……
さよならするのは、淋しいけれど そういう場所を持てたことを、今とても感謝している。
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