ぶらんこ
index|past|will
大きなお屋敷にいる。 初めて来るのだが、どこか懐かしいような気もする。 とっても古い日本家屋といった感じ。旅館なのか、誰かのお屋敷なのか?
広い、立派な廊下をまっすぐに行くと、そこは大きなお風呂場だった。 格子戸を開けると、それほど広くはない脱衣場のような場所が手前にあり、その次の引き戸を開けると、真ん中に丸い大きな浴槽。 石で作られたその浴槽は、どこからかお湯が流れてくるようで、湯気の下、ゆっくりと渦を巻いていた。 かけ流しの温泉なのかもしれない。
ふと、いつの間にか隣に来ていた彼が「お先に」と言って、湯船に入った。 ちょ、ちょっと、、、 いいのか?わたしはここにいて、いいのか? ドギマギ。
「入らないの?気持ち良いよ」
そうだった。恋人なんだから、一緒にお風呂に入ってもいいんだった、と思い直す。 しかしながら、やはり躊躇してしまう自分。 そんなことはお構いなしに、彼は気持ち良さげに顔をザブザブとお湯で洗い、小さなタオルを頭に乗せている。 まるでどこかの温泉のポスターのような、お決まりの絵。
「で、では、わたしも・・・」
そう言って、脱衣場(らしきところ)へ戻ろうとすると、どやどやと子供たちが左側の引き戸から入ってきた。 お風呂に入るわけではないらしい。というか、何やら手に持ち、どこかへ行くところみたい。 子供たちに続いて、おじさんが2−3人、首にかけたタオルで汗を拭き拭き、通って行った。 彼らはわたしの恋人に「ヤァヤァ」なんて気楽に挨拶している。
戸惑っているわたしを見て、彼は言った。 「あ、気にしないで。ここは、ほら、通り道になっているからね」
見ると、最初に来た時には気付かなかったのだが、丸い浴槽を挟んでお風呂場の左側と右側に、それぞれ引き戸があった。 ということは、、、、 そこを閉めておかなければ、また誰かが通っちゃう、ということ?
それでは・・・と、両方の引き戸にとりあえず鍵をかけてしまおう、と、ガチャガチャやっていると、そこへまた新たな一団がやってきた。 同じように、何人かの大人が十数人の子供たちを引き連れている。 わたしの様子を見た引率者らしき男性が、「あの、、ここを閉められちゃうと、ちょっと、、、」 そう言って、同情をひくような顔でその後に続く子供たちに視線を移した。
あ、でも、、、そんなこと言われても、、、、 こんなところで裸になるわけにはいかないし、、、
わたしはちらりと恋人を見るのだが、彼は全く意に介さない。
というか、この人はわたしの恋人なのか?もしかして違うのか? なんとなく、その男性がこのお屋敷のご主人さまのような気がしてきた。 そしてわたしはこの人に好意を寄せている。その人は、それを知っているのか知らないのか。 どちらにせよ、その彼がわたしのことを好いてくれているようには見えなかった。
あああああ、片想いということか。。。
突然、そういうことだったと思い出した。 そして、あの手を握るだけでも出来たらいいなぁ、、、と密かに思う。
だが、お風呂の通り道で、そんな不謹慎な事は出来ない。 子供たちもいるし。何より、彼はわたしのことを、何とも想ってはいないのだ。
そして、何だかよくわからないが、何かを思い出して、酷くひどく、悲しくなった。
|