ぶらんこ
indexpastwill


2010年11月17日(水) 最終試験

わりと大きな講堂で講義を受けている。

「これは非常に大事なことなのでしっかりと心に留めておくように!
この先からしばらく呼吸不可!ですが、けっしてパニックになることのないように!呼吸が出来ないのは移動中のこの間だけですからね!」

教授は小柄な白人の女性。明るい栗色の髪を頭の高い位置でひとつにまとめている。
ノーフレームの眼鏡。細くツンととんがった鼻。うす桃色の頬。碧色の目。



講堂の床に大きな穴が開いている。人がひとり余裕で入れるほどの大きさ。
その真ん中には白い柱がほんの少しだけ突き出ていて、それはずっと下方へと伸びている。
わたしは、警報が鳴ったと同時に消防隊員たちがベッドから飛び出し、次々とするする階下へ滑り落ちていくさまを思い出す。
呼吸が閉じられてしまうのは、降りていく途中のことなのだろうか?


いよいよい最終試験がはじまる。






大きな古い屋敷の中にいる。
部屋が広く、家具らしきものがない。がらんどうとしている。歩くたびに床が軋む。
スカさんとこころも一緒にいる。こころは8歳か9歳くらいだ。
わたしは帰る方法を探している。降りてきたのがここだとしたら、わたしたちは上っていかなくてはならないのか?


上っていくための穴。柱。
柱がなければ・・・そうだった。ほうきで代用できる筈だ。
大事なことを思い出し、なんとなく気持ちに余裕が出てきた。


誰か知らない人の声が聞こえてくる。若い男女のようだ。
声のする方へ向かう。
屋敷の奥のほう。立て付けの悪い大きな開き戸をやっとの思いで開ける。

と、そこに青年がひとり寝袋に横になっていた。その向こうには同じ歳くらいの女性がいる。彼女も同様に寝袋に入っている。
とても薄っぺらな寝袋だ。それを見て、背中や腰が痛かろうなぁと同情心がわき起る。


「お休みのところ申し訳ありませんが、どちら様でしょう?お入りになる前に何かおっしゃってくだされば・・・」

ふたりはわたしの言葉が聞こえないのか、くっくっくと笑い合ってじゃれている。

「あの・・・呼吸が出来なくなる場所もありますので、本当にご注意いただかないと・・・」

やはり、何も聞いていない。
わたしはあきらめて、立て付けの悪い開き戸をガタガタと音を立てながら閉める。
そして、やっぱり管理人を雇わなきゃ駄目だよね、知らない旅人たちが勝手に寝泊まりしちゃってるんだから。
と、憤慨した調子でスカさんに話すのだが、彼はたいしたことではないだろうという表情を返す。



屋敷の外へ出る。
雑木林の間の小道を3人で歩いている。
途中、誰かが落ち葉を掃き集めているのが見えた。近づいていくと、それは森に住むCentaur(上半身は人で下半身は馬)だった。

ハロー、と声をかけるが、彼はこちらをじっと見るだけで何も言わない。けっして友好的とは言い難い雰囲気である。
しかたなく、そのまま足早に通り過ぎた。彼は作業の手を休め、何かを調べるようにわたしたちを見続ける。


小道を行きながら、穴、呼吸、ほうきについて思案している。
最終試験に受かるために、もっと何か大事なことがあったのではないだろうかと思えて、なんとも仕方がない。










marcellino |mail