ぶらんこ
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わりと大きな講堂で講義を受けている。
「これは非常に大事なことなのでしっかりと心に留めておくように! この先からしばらく呼吸不可!ですが、けっしてパニックになることのないように!呼吸が出来ないのは移動中のこの間だけですからね!」
教授は小柄な白人の女性。明るい栗色の髪を頭の高い位置でひとつにまとめている。 ノーフレームの眼鏡。細くツンととんがった鼻。うす桃色の頬。碧色の目。
講堂の床に大きな穴が開いている。人がひとり余裕で入れるほどの大きさ。 その真ん中には白い柱がほんの少しだけ突き出ていて、それはずっと下方へと伸びている。 わたしは、警報が鳴ったと同時に消防隊員たちがベッドから飛び出し、次々とするする階下へ滑り落ちていくさまを思い出す。 呼吸が閉じられてしまうのは、降りていく途中のことなのだろうか?
いよいよい最終試験がはじまる。
大きな古い屋敷の中にいる。 部屋が広く、家具らしきものがない。がらんどうとしている。歩くたびに床が軋む。 スカさんとこころも一緒にいる。こころは8歳か9歳くらいだ。 わたしは帰る方法を探している。降りてきたのがここだとしたら、わたしたちは上っていかなくてはならないのか?
上っていくための穴。柱。 柱がなければ・・・そうだった。ほうきで代用できる筈だ。 大事なことを思い出し、なんとなく気持ちに余裕が出てきた。
誰か知らない人の声が聞こえてくる。若い男女のようだ。 声のする方へ向かう。 屋敷の奥のほう。立て付けの悪い大きな開き戸をやっとの思いで開ける。
と、そこに青年がひとり寝袋に横になっていた。その向こうには同じ歳くらいの女性がいる。彼女も同様に寝袋に入っている。 とても薄っぺらな寝袋だ。それを見て、背中や腰が痛かろうなぁと同情心がわき起る。
「お休みのところ申し訳ありませんが、どちら様でしょう?お入りになる前に何かおっしゃってくだされば・・・」
ふたりはわたしの言葉が聞こえないのか、くっくっくと笑い合ってじゃれている。
「あの・・・呼吸が出来なくなる場所もありますので、本当にご注意いただかないと・・・」
やはり、何も聞いていない。 わたしはあきらめて、立て付けの悪い開き戸をガタガタと音を立てながら閉める。 そして、やっぱり管理人を雇わなきゃ駄目だよね、知らない旅人たちが勝手に寝泊まりしちゃってるんだから。 と、憤慨した調子でスカさんに話すのだが、彼はたいしたことではないだろうという表情を返す。
屋敷の外へ出る。 雑木林の間の小道を3人で歩いている。 途中、誰かが落ち葉を掃き集めているのが見えた。近づいていくと、それは森に住むCentaur(上半身は人で下半身は馬)だった。
ハロー、と声をかけるが、彼はこちらをじっと見るだけで何も言わない。けっして友好的とは言い難い雰囲気である。 しかたなく、そのまま足早に通り過ぎた。彼は作業の手を休め、何かを調べるようにわたしたちを見続ける。
小道を行きながら、穴、呼吸、ほうきについて思案している。 最終試験に受かるために、もっと何か大事なことがあったのではないだろうかと思えて、なんとも仕方がない。
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