心臓の鼓動が鬱陶しかった。 生きている証に腹立った。 正気で考えれば、すでにおかしなことで、でもまぁ、その時は本気でそう思った。 左胸の上部、躊躇いもなく剃刀を引いた。 血が止まらなかった。 だから一晩中、起きていた。 眠れば何らかの形でバレる。そう、確信したから。
朝一で病院へ行った。 もう通い慣れた。 付き添ってくれた彼女、どうもありがとう。 待ってるのはどきどきする、とただそう笑っただけで。
「どうして」と泣く祖母や、いっそ死んだら―…と叫ぶ母親 それを抑える父親と、関せずの弟。 あたしの家族はこんなもんで、 いちばん過ごしやすい状況を、そしていちばん反省する状況をくれるのは いつも他人だ。
縫うしかない、との判断で横になった私は、何となく腕で眼を塞いだ。 自分が情けなさ過ぎて。
やっぱり麻酔は余り効かない。 効きにくいらしいと云われてるから、小さく痛いと口にはするけど、どうしても仕方ない。 先生、男前。で、声にすると 呆れたように、「40もきたら、それがお世辞かどうか判るわ」と云われ。 けれど、やっぱり男前な感じ。 けれど胸元の傷なので、無い胸を見られて少しショック。 心臓が完全な左にあるわけでもなく、刃先が届く訳もない。 そんなのは理解ってるんだけど。
いっそ 心臓を、切り裂きたかったんだ。
今日は3つ、ヤなことがありました。 その代わり、 今日は1つ、とてもいいことがありました。
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