SS日記
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2004年10月30日(土) 空の境界 7


名を呼ばれ、榛名は振り向いた。


いつの間に近付いたのか。
背後に見るからに人の良さそうな笑みを浮かべた、少年が立っていた。
恐らく同学年だろう、背格好は榛名とさして変わらない。
眼鏡の奥の瞳が、穏やかに榛名を見つめる。



―誰だっけか



確かに見覚えがあるのだが、榛名は思い出せない。

「阿部君に、会いに行くのかい?」

返事がない事に、別段気を悪くした様子もなく、少年が尋ねた。
阿部が他校生で、何故彼が阿部の事を知っているか等気にならない程自然に。

「―別に。んなんじゃねぇよ」

榛名は拗ねた様に返すと、少年から目を逸らした。

「嘘吐き。今だって、電話しようとしてたんだろう?」

無意識に、手の中の携帯電話を、強く握り締める。



なんなんだ、コイツは。
妙に癪に障る。



「うっせぇ!」

怒鳴り声と共に、未だ笑顔を張りつけたままの、少年の顔を思い切り睨め付ける。

「嫌だな。八つ当たりするなよ」

少年は片眉を軽く上げるだけのリアクリョンを返すと、一歩、榛名に近付いた。

「八つ当たりはいけない。
 いけないよ、榛名。何にしてもこの前のはやり過ぎだ。
 バラバラにし過ぎて、人かゴミかもわからなかったじゃないか」





― 何 を コイ ツ は 言って るんだ?



この前―あの夜。

件の陸橋下。

光る刃―ナイフ。

人が。
服が。
全てが。

赤く、赤く、染まって。






目眩。
膝から力が抜け落ちて。
少年が、榛名に一歩ずつ近寄る―



ピルルルル



間抜けな、電子音が響いた。

手の中の携帯が、けたたましく自己主張を繰り返している。

我に返った様に、榛名は顔を上げた。



辺りを見回しても、そこにはもう少年の姿は無かった。



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