SS日記
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路地を曲がるとそこは異界だった。 真新しいペンキを塗られたばかりのそこは、常なら一人の浮浪者が住み着いている。 だが、今そこに在ったのは物体だけだった。 生きたまま両手足を切断され、達磨状となった浮浪者は、今はただ体液を巻き散らす壊れたスプリンクラーと化していた。 壁を染める赤いペンキに見えたものは、この男から噴き上がる夥しい量の血だ。
榛名は無言のまま、死体へと歩み寄った。 瞬く間に白かったシャツが朱色に変わる。
―神経が、焼き切れる程に熱い。
榛名はボールを拾う様な自然さで、水面へと手を伸ばした。 指先をねとりとした赤い滴が伝う。 紅を引く仕草で、ゆっくりと、その指を唇へと運ぶ。
触れた口元は、弧を描くかに歪んでいた。
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