プープーの罠
2007年09月28日(金)

秋空の色

気がつけば期間がだいぶ
開いてしまいました。

月日の流れは
緩やかに、確実に
速度を上げて行く。

10月は組織変更の季節
なのでそれに乗るように
私の雇用契約は9末で終了
が確定、

今まで散々引き延ばされた
割には最後は呆気なく決まるものだ。

組織変更に先駆けてフロアが拡張され、
タカハシヒデオの席は
おいそれとは見えない
くらい離れてしまった。

それでも彼の、
電話中に立ち上がるクセは変わりなく、時々
ひょこりと頭が飛び出ているのが見える。
かなり向こう側に。

そしてその向きはあさっての方向、
今までも別に私を見ていたわけではないのだ。

早々に見る楽しみを失い、
それほどボリュームもない引き継ぎ
資料を暇潰しのように作成し
ながらカレンダーに×をつけ、
残りの出勤日を消化していく。


八木君とはあれから特に
連絡もなく、果たして私は
嫁 候 補 失 格 だった
のかなと、思ってみる
くらいしか進展はない。
不採用には通達すら来ないのだ。
厳しい世の中だ。


出向先での最後の挨拶はフロアの社員全員を集めて行われる。
自分だけのために集合をかけられたら忍びないが、
組織変更に伴い、
重役から出向社員まで、
異動 退職 栄転 左遷 に至るまで、
ありとあらゆる別れの挨拶のひとつに私も紛れこんだ。

200人以上も詰め込まれたこのフロアで
私が仕事で関わったのは両手で足り
そうなくらいの人数で、
最後の挨拶の一言目が「初めまして」
そしてさようならだ。

いたのかすら判らないような私にも
一同はぱらぱらと拍手をくれ、
ささやかな花束をくれる。
タカハシヒデオも一番前で無表情に
ぽこぽこと手を叩いている。

その定形の心遣いはありがたい
ながらも清々しいくらい
カタチだけ
で、ココロなんて欠片も入っていないから
それが当たり前すぎることだと分かっていても
えらく居心地が悪い。

所属元の会社にも終了手続きに戻り、
本来一人一人挨拶に回る
が、やはり知らない人が多く、
且つ、特殊な契約形態の私は部外者扱いなので
人事異動通知も社員には広報されない。
知っている人にだけ声を掛けて後にした。


帰りの電車に揺られながら、
私は役に立っていたのだろうか
と、ふと振り返ってしまい、

企画書の作成、
クライアントとの打ち合わせ、
制作ディレクション、
分担指示や見積書の作成など

色々やってはいたが
それは古賀さんの手伝い
でありお茶汲みのようなもので、

私の仕事は17ページの引き継ぎ資料に書いた事
だけであり、
それは暇に任せて図解までつけ
リッチに膨らませた17ページであり、
簡潔に文書にすれば
紙っぺら1枚で済むものであり、
楽な仕事だった。

私がいれば古賀さんが少し楽になる
けれど、私がいなくても他の人に頼むまでだ。

私はタカハシヒデオに会えなくて寂しくなる
けれど、タカハシヒデオは私のことなど
思い出しもしない。

そうして私は今
完全に誰からも必要とされてない状態になったのだ
と余計なことに考えが至ってしまい、
唐突に悲しくなってしまった。

今後は予定も特にない。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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