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彼女を作る三つの要素(Fate/凛とアーチャー)(その他)。
2006年09月05日(火)
お砂糖とスパイスと何だか素敵なもので出来ている。
イングランドの古い民謡では、少女というのはとにかく「甘くてステキなもの」であるらしい。
しかし、こと遠坂凛に限っては、間違いなく別物だと彼女の従者は心の底から思っている。
「……まずいなー。このままじゃほんっとまずいわー」
未成年の一人住まいにしては豪奢すぎる調度品に囲まれた居間で、遠坂凛はその白い額に皺を寄せて考え込んでいた。
背中まで届く黒曜石のような髪、きめ細かく透き通るような白い肌、何も塗らずとも艶やかな唇に、聡明さと意志の強さを反映して輝く双眸。物腰には威厳すら漂う。ただの学校制服すら、彼女が着れば輝きを増す。まごうとこなき美少女である。
「…しょうがないわ。アーチャー、ちょっとアンタそこらへんの家の金庫から百万ばかりちょろまかしてきて」
見目麗しさが泣くような軽口を叩くマスターに、サーヴァントと呼ばれる元死人の騎士は思わずこめかみに指を当てた。
「…凛、いくら金銭的苦境にあろうとも、サーヴァントに窃盗をさせるとはあんまりじゃないか」
「それほど切羽詰っていると理解なさい。…ったく、何だってこの国はこんなに税金ばっかり取るのかしら。固定資産税なんてクソ食らえよ」
「……凛」
「あーはいはい、わかってるわ。品がないこと言いましたごめんなさい」
大理石のテーブルの上に、凛は管理台帳を投げ出す。
遠坂家はこの街の管理者だった。一般社会に生きる人々とは異なる世界、魔術の世界においての管理者だ。ゆえに決してこの街すべての土地を法律的に管理しているわけではない。しかしそうでなくとも『遠坂』名義の土地屋敷は決して狭いものではなく、しかもその名義人は未成年で稼ぎはゼロに近しい。
魔術社会は一般社会と隣り合わせで共存しているが、だからといって社会的な税金支払いの義務が消えるわけではなかった。
象牙色の肌に白い髪をした彼女のサーヴァントは、頭を抱えて唸りそうになっている凛の背後で、小さく息を吐いた。
「意外と困窮しているのだな」
「…外で言うんじゃないわよ」
低い声で言いながら、凛は布張りのソファに深く身を沈めた。何代か前の当主が、何かの仕事の報酬で受け取ったという名のある工房で作られた年代物のソファだ。定期的にクリーニングと修繕に出しているだけあり、その布の風味も刺繍の色も褪せていない。
こういった家具や調度品のメンテナンスだけでも、現在の遠坂家には結構な痛手となる。そうでなくとも屋敷すべてが年代物で溢れており、いっそ文化遺産に登録したほうが安く済むと考えたことすらある。
「笑っちゃうわね」
「笑うより、対策を考えるほうが君らしいのではないか」
「わかってるわよ。…あーこれでしばらく宝石も買えないわね」
身を起こし、細い顎に手を当てながら遠坂の当主である少女はひとりごちる。
彼女の心に浮かんだのは、同じように広い屋敷で一人住まいをしている同学年の少年だった。
「…士郎のところはどうしてるのかしらね。あそこんちだって結構広いでしょうに」
「衛宮の家には他にも管財者がいる。おそらくは藤村の家の者が代行しているのだろう」
「ふーん」
ちら、と凛はソファの斜め後ろで立っている己のサーヴァントを見やる。皮肉さと、純粋な好奇心のまなざしで。
「お詳しいことで。セイバーからでも聞いたの?」
「…………」
アーチャーと呼ばれる弓の騎士は、すぐに答えなかった。
かといってたじろぐわけでもなく、視線を逸らすわけでもない。彼は彼女の不穏げな視線を真っ向から受け止めていた。
見つめ合ったままの数秒にも満たない無言の攻防は、少女の「ふん」という小さな声で破られた。
「知ってるわよ。アンタ、見回りのついでにセイバーと茶飲み友達にでもなったの?」
「…凛。君の言い様は、まるで夫の浮気を追及する妻のようだな」
「誤魔化すんじゃないの。飼い犬が他所の犬のところに行かれちゃ飼い主の立場がないってだけよ」
どっちもどっちの喩え話をしたところで、凛は首の角度を戻し、アーチャーに背を向けた。
「…セイバーとどんな因縁があるのかは知らないけど、わたしの知らないところで勝手に仲良くされちゃ困るのよ」
凛の長い髪は微動だにせず、また彼女の口調には感情というものが全く入っていなかった。
彼女の言は、管理者としてのものだった。侍る従者を管理する者、そして歴史ある家柄の当主として、彼女は己が支配するものの領分へのけじめを忘れない。魔術師としての実力以上に、遠坂凛という少女は責任感が強い。
「…これといって仲良くしたつもりはないのだが」
「ほら、それこそ浮気の言い訳じみてるわよ。アーチャー」
くすりと、年齢より大人びた笑みを少女がこぼす。
しかしそれは揶揄するものではなく、生真面目に答えた従者の返答をおもしろがる女主人のそれだった。
彼女は鷹揚に右手を振り、背後の彼に恩赦を与える。
「ま、本来なら私の許可なしに他のサーヴァントに接触しておいてそれを隠すなんて、あってはならないことだけど、今回は勘弁してあげるわ」
「今は資金繰りで頭が一杯だろうしな」
「…ったく、減らず口ね。じゃあその口で、セイバーに応接室の円卓売りつけてきてよ。上座も下座もないアレ。彼女ならぴったりでしょうし?」
「……………」
「冗談よ」
件の剣士と、彼女が指定した代物の関係性。剣士の真の姿を悟っているのだと暗に告げる凛に、アーチャーは彼女には見えない角度で目を瞠る。
しかし凛はそんな彼のことなどお見通しなのか、驚かせたことに少し嬉しそうだ。管理台帳を見ないまま、横顔が確かに笑っている。
彼女を構成しているのは、管理者としての責任、魔術師としての誇り、そしていつも強気に微笑むその精神のしたたかさだ。
「それで、アーチャー、貴方は誰のものだっけ?」
許すと言いながら、自分のものは自分のものであることを譲らない気高さ。
凛々しく、華やかなそのすがた。
彼も自然を背筋をただし、騎士の礼のごとく主人の髪をひとふさ持ち上げる。長い髪は彼の口元まで引き寄せられ、手の甲の代わりに口付けられる。
「君のサーヴァントだ、凛」
「…そうよ。私のアーチャーなんだから」
そのぐらい理解して行動なさい。
耳の付け根あたりを薄紅に染めながら、まだ年若い彼の主人は早口でそう言い、気恥ずかしそうに豪奢なソファに沈んだ。
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こ、これでどうですかーーー!!!!(一部へ)
ってわけで、Fateです。とりあえず弓凛(っぽいもの)をがんばってみた。
ひそかに前回の続きっぽいのはご愛嬌。
少し前の笛ネタで書いた帳簿ネタは、実はもともと遠坂さんちをイメージしていたのでした(しかし上手くかたまらなかったので渋沢に転用)。
Fateですが、とうとう桜ルートまでクリアしました。
「ゲーム二次創作はEDを見てから」が基本的な信条なので(前回はセイバールートクリアを盾に特例)これでおおっぴらに出しても、己の正義を貫けます(Fateらしく言ってみた)。
で、弓凛。
凛さんは、私にとっては非常〜に(書くのが)むずかしかったです。お嬢さん元々かっこよすぎ。あのゲームの中で誰より男前だと思います。ブラバー。
原作であまりに男前すぎる女の子は、逆に書くのが難しいです。セイバーさんもそれに近いものが…。ぜーったい書いてて楽なのは桜だろうなー…と思いながらプレイしてました。
凛とアーチャーの関係は私にとっては、凛の「私のアーチャー」という言いっぷりに表現されていると考えています。
で、弓凛(二回目)。
私のFateの入手先である小姐さんに、遅くなった誕生日プレゼントということで今回の小ネタを捧げまする(イメージ違いとかあったらごめん!) むしろ小ネタで申し訳ないですが…。
弓凛(っぽいもの)とか言いつつも、しょっぱなからイングランドだったりセバやんのネタ振られてたりと、微妙に私の趣味で何とも。
セイバー語るなら円卓だろう! …というネタも考えていた名残です。
嗚呼これでFateに関する宿題を果たした爽快感で一杯です。
あと身内リクはちまちまと出来るだけ消化していきたい所存。
みんな、リクエストならネタつきでおくんなましよ…。
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