薔薇

幼稚園の頃、夏に着たワンピースに小さな赤い薔薇の刺繍がついていた。
10代の誕生日には、歳の数と同じ本数の薔薇の花束を買ってもらった。
父は鉢植えと、地植えの薔薇を育てていた。
父が実家を離れると、私が水やり係になった。

この10年は、春の開花の季節が終わった頃にバラ園に行く。
誰もいないし、静かでいい。

今年初めて、薔薇の育種をしているバラ園に行った。
写真を撮らせてもらいたかった。
ゴールデンウィークが過ぎる頃に満開になるそうだ。

私が知ってる薔薇は、昭和の高島屋の包装紙のバラで
花びらがベルベットのように光沢があるものだった。
庭に植えた薔薇も真紅だった。

温室の入り口に立つと、仄かに香りが漂い
色々な思い出が甦った。
バラ園の人に許可をもらって、色とりどりのバラの通路を
ゆっくりゆっくり歩いて写真を撮った。

バラの香りは品種ごとに違う。
何百種類も品種があり、毎年新しいものを育種する。
私は何も知らなかったんだ。

鉢植えを1つ買って、父に送ろうと思った。
父にまた、薔薇を育ててもらい
写真を撮れればいいと思った。

ところが香りを嗅いでしまうとね。
私には無理だ、枯らしてしまう。
この鉢を放したくない。
葛藤すること1時間。

毎日、水をやり、数時間ごとに様子を見て
蕾ごとに写真を撮り、花びらが綻ぶ様子を眺める毎日だ。

2022年05月01日(日)

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