振り返る7
2019年、3月 妹の誕生月に消えた。

妹は晩年、目が見えなくなっていた。
なぜかわからないが、メガネを2つ重ねてかけていたそうだ。
飛んだ時にかけていたメガネは警察から父に戻された。
それをなぜか、私に渡そうとする。
いらん!と吐き捨て持っていた手を振り払った。
バラバラに壊れた2つのメガネを見て、父はまた泣いた。
白内障かもしれないからと説得して、手術を受ける予定だったそうだ。

ベッドの近くの2つの寝袋は、妹が使っていたそうだ。
どこに寝ても全身が痒くなる。
この部屋は虫が湧いてると言っては、ベッドと寝具を買い替え
それでも痒みは治らず、寝袋を買い、
それでも痒みは治らず、近くのホテルに何泊もしたそうだ。
ホテルのベッドは痒くならなかったそうだ。

痒みは更年期障害のせいだと思う。
私も全身掻きむしり、眠れなかったから。
ミミズ腫れと掻いたせいで湿疹ができ皮膚がボコボコになった。
皮膚科でアレルギーの痒み止めをもらい、飲み出してから痒みは止まった。
飲まないと痒くなるから治ってはいない。
原因はわからない、いろんなケースが考えられます。
皮膚科の医師は、こう言った。
待ち時間が長いから、同じ薬をネットで買って飲み続けている。

妹は父と散歩した。
帰りがけに、コンビニで500mlの水を2本父が買い部屋まで運ぶ。
部屋の前で受け取り、妹はドアを閉める。
そんな毎日だったそうだ。

部屋の片付けで妹の部屋にいた時、冷蔵庫を開けた。
冷蔵室には何も入ってなかった。
冷凍室に小さなおにぎりが1つか2つあった。

晩年、妹は水とおにぎり以外食べられなくなっていたそうだ。
何を食べても飲んでもアレルギーが出た。
ガリガリに痩せていたそうだ。

目も見えず、全身痒く、食べられず。
衣装部屋の押し入れの奥に、日本画の道具一式があった。
そして妹が描いた絵が何枚もあった。
一緒に暮らした時よりずっと上手になっていた。
花を生けることもできず、お茶を点てることもできず。
母の形見の茶釜が、日本画の横に置いてあった。








2021年06月08日(火)

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