小紫の実の粒々の枝垂れ咲くのを。せつない色だと思い。愛おしくもあり。 峠道行けば。つわぶきの花が。陽の当たらぬ岩清水のそばでひっそりと咲く。
長い髪のおんな遍路さんが。なんだか苦しそうに立ち止まり。梢を見上げていた。 むしょうに声をかけたくてたまらないのに。はっとしながら追い越していくのが。
こころに痛く。行き過ぎればつかのまのこと。杉木立のうえは真っ青な空だった。
山里はまぶしいくらいの朝の光に満ちて。真正面からその光が降ってくるのを。 ひとつ残らず受止めたい気持ちでありながら。つつと零れ落ちていくのだった。 儚いとは決していうまい。我が身のほどはいかばかりか。もうじゅうぶんな光。
おかげさま。私は忘れてはいない。何度だってそう言い聞かせてあげたい。
もうじゅうぶん。たりないものなど。なにひとつ思い浮かばないでいる。
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