My life as a cat
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2017年07月20日(木) 共に朽ちてゆく物

引っ越しの準備で荒れた部屋で41歳の誕生日を迎えた。鏡に映るわたしは18歳の時にカルヴァン・クラインで買った半袖で膝丈のデニム・ワンピースを着ている。10代の頃から一生使えるような良質な物ばかり欲しがっていたのだから、今もその服を着ているということは不思議ではない。安い服を沢山買って毎日、毎年違う装いをすることよりも、一枚の良質な服を着続けるほうがクールだと思っていた。そしてその考え方は今も同じだ。見た目も精神もあまり変化を感じない。唯一認識している老化現象は即座に自分の年齢が思い出せないことくらいか。

数年前、手帳に書いた。

「40歳までに人生に必要な物を全部揃える」

余生は物の購入やそれにかかるお金のことに気を取られたりしないで、身近な人々とおしゃべりをし、美味しいごはんを食べるためによく働き、森や海をたくさん歩きたい。そうやって流れる時間の中ですでに手になじんだものと共に朽ちていきたい。

人が「何歳までに結婚したい」とか「何歳までに自分の家を持ちたい」とか決めるのとベースのアイディアは同じだ。

生活に必要なものを精査して書き出した。

食料1週間分
下着1週間分
鉄のフライパン 大小 1個ずつ

・・・

という具合に。破損したらその分だけ買って補充する。道で偶然素敵な物と出会って欲しくなることもある。でもその時はこれを入手する代わりに手持ちの物を手放せるかと考える。じっとじっと考えていると、たいていの"ひとめぼれ"は単なる目新しい物に沸いた一瞬の浮気心だったと気付く。

この人生のひとつのプロジェクトはベッドを購入した時に完結したという実感を得た。

それからすぐに引越しが決まった。全てをコンテナに詰めて持って行くことにした。見積り額は膨れ上がった。ベッドかキャットタワーを諦めればもう少し安くなると引越し業者はアドバイスしてくれたが、この中年の人間と猫は自分の匂いの染みついた物をあっさり棄てて新しい生活に入っていくほどの身軽な精神を持ち合わせていない。結局は引越し業者が見るに見かねて金額を値引きしてくれるという形になった。

今日は会社へ行き、荒れた家に帰り、農園で摘んだ紫蘇でジェノベーゼ風のソースを作り、段ボールの隙間でパスタを食べた。自分へのプレゼントは3日前に焼いたパウンド・ケーキ(いつもは1僂らいの厚さにスライスする)を好きなだけ分厚くスライスして食べること。フランスから宅配で届いたプレゼントの小さなキャンドル・ポットは中に新しい家のキーが入っていた。

"普通の日"だと思った。そして普通の日ほど尊いものはないとも。食欲旺盛でぺろりとパスタを平らげ、いつもより分厚いパウンド・ケーキにフォークを刺しながらニヤリとするような。健康な体と平穏な心をもってまたひとつ年齢を重ねられたことにしみじみ感謝した。


Michelina |MAIL