過去ログ一覧前回


2025年03月21日(金) 受験生の親ができること。

TikTokを見ていたら、大学の合格発表をスマホで見る瞬間を録った動画が流れてきた。
震える指で合格者の受験番号が掲載されているページに飛ぶボタンを押す。数秒間の静寂の後、「よっしゃー!!」。固唾を呑んで見守っていた友人たちも大興奮で、私も思わず画面に向かって拍手を送った。
かと思えば、「公立高校に落ちて、私立に行くことになった。塾代を無駄にして親に申し訳ない。情けなくて涙が出る」という内容のものも。ふだん動画にコメントすることは一切ないのだけれど、とても切なくなってコメント欄を開けたら、先客がたくさんいた。
「あなたは一生懸命努力したことを誇っていい」
「親の立場からすると、元気に学校に通ってくれるだけで親孝行です」

どちらの結果にもじーんとくるのは、今年はうちにも受験生がいたからだろう。



息子から初めて志望校を聞いたのが去年のいま頃。就きたい職業があり、そこまでの道筋を考えるとその学校のあるコースに進むのが一番いいと思うと言う。
自分が行く学校だから自分で決めたらいいよと伝えていたのだが、思わず言ってしまった。
「あそこを受けるには内申点がだいぶ足りないんじゃないかな……」

担任の先生にも「当日点で内申点をカバーするには相当がんばらないと」と言われたという。
それでも志望校を変える気はないのを見て、私は自分の大学受験を思い出した。志望校は“本命”の一校のみ。ぜったいに受かってみせる、その一念だった。
わかった。だったら全力でバックアップするから、やれることは全部やろう。

受験生の親には入試スケジュールや体調の管理、勉強に集中できる環境を整えること、お金の準備などいろいろな役目があるけれど、この時期の子どもにはガツガツ関わるより一歩引いて見守るスタンスのほうがいいらしい。
「親を鬱陶しがる年頃であるし、前向きな声かけや励ましであってもプレッシャーになりうる。ほどよい距離にいて、頼られたらいつでも応じられるようスタンバイしておきましょう」
「勉強面の口出しは避け、親の役割は体調管理と精神面のサポートと割り切りましょう」
と塾や予備校のサイトに書いてある。
うん、私も娘のときはそうしていた。親がさらなるストレスを与えてどうする、だもんね。

でも、志望校が模試判定でいう安全校や実力相応校でなく「努力校」の場合はどうだろう。
『ドラゴン桜』を読んで、「情報を持っているってめちゃくちゃ強いんだな」と思ったことがある。「俺が東大に行かせてやる!!」の言葉通り、桜木先生は東大入試に特化した勉強法や受験テクニックを生徒に伝授する。こんなふうに受験勉強を“お膳立て”してもらえる人は自分で手探りでしている人より圧倒的に有利だ。
多くの受験生が毎日夜遅くまで机に向かっていても不安をぬぐえないのは、「この勉強法、勉強量でいいんだ」という確信が持てないから。どんなスケジュールで何をどう勉強すればいいのかわかったら、どんなに楽であるか。
その通りに勉強し、安全かつ最短のルートでゴールを目指す。これってゲームの攻略本を与えられたようなものではないだろうか。

しかし、現実には桜木先生はいない。
息子の志望校は公立高校の一般選抜とは試験の時期も形式も異なり、学校や塾の入試対策では通用しないと思われた。かといって、初めての受験で自分で情報を集め、実力とボーダーラインまでの距離を測り、戦略を立てるのはむずかしい……となれば、ここは私の出番でしょう。
公表されていない合格最低点のデータを口コミ掲示板から集めたら、当日点が八割五分必要と判明。成果が上がる勉強、すなわち効率のいい勉強をしないと無理だとわかり、過去問を軸に勉強するプランを立てた。十年分の過去問を使って出題傾向をつかみ、頻出分野を重点的に勉強するのだ。配点と時間配分を意識して解く練習も繰り返した。
科目別の攻略法も練った。問題数が多い上に難易度の高い数学は全問をざっと見て、解ける問題から解いていく。八割弱取れればよしと割り切り、難問にチャレンジするより見直しを優先、解いた問題は確実に得点する。
国語は長文読解の文章がとにかく長いが内容把握に時間をかけられないから、本文の前に設問に目を通す。ただし、選択肢は見ないこと。余計な情報が入ると本文をニュートラルに読めないから。
英語の試験直前の休憩時間には脳を英語モードにするために英語の文章を眺めよう。英語で点数を稼ぐ計画だけれど、もし思ったようにできなくても引きずらないこと------という具合に、作戦を息子とすり合わせした。

無駄を省かないといけないのは勉強だけではない。
マークシートを一問解いては塗りつぶしているのを見て、大問ごとにまとめて塗る方法を試してみるよう言った。視線が問題用紙と解答用紙を行ったり来たり……だと集中力がぶつ切りになってパフォーマンスが落ちる。塗るという作業も連続してしたほうが効率的だ。
マークシートといえば、筆記用具でちょっと揉めたっけ。
「本番とおんなじようにやってみる」と当日のタイムテーブルで取り組んだ過去問をシャーペンで解いていた。なぜマークシート用の鉛筆を使わないのか訊いたところ、
「慣れてて使いやすいからシャーペンにする」
という答え。鉛筆に慣れていないなら、いまから慣れればいいじゃないの。
「べつにシャーペンでいいよ、鉛筆しかダメとは書いてないし」
そういう問題じゃない。シャー芯より鉛筆のほうが線が太いから、早く塗りつぶせるでしょう?
「そんな、ほんのちょっとの差だよ」
これにカチンときた。
「ほんのちょっと」も何十回と繰り返せば、数十秒や一分になる。それで一問解けるかもしれない。
あなたがなんとかクリアしようとしているのは平均点じゃない、ボーダーラインでしょう。同じ点数の受験生が何人、何十人といて、その一点が合否を分けるんだよ。一秒を嗤う人は一秒に泣くんだよ。



試験の三週間前からR-1を飲ませ、当日はラムネとストッパ、そしてプラバンで作った家族の寄せ書きのキーホルダーを持たせた。


帰ってきて、「一年ぶりのSwitchだー」とピコピコやりはじめたのを見て、終わったんだなあとしみじみ。
自己採点をしようとしないのはどうしてだろうとちょっと心配したけれど、合格発表の後で訊いたら確信があったんだそう。
目指したところはひらりと飛び越えた。

一年間、一度も私に勉強しろと言わせずやり抜いたね。
とりあえずお疲れさま(私も)。週末、焼き肉行こ。

【あとがき】
一番神経を遣ったのは、家族全員の感染症の予防。私が持ち込まないようにしないと、と(病院勤めのため)。
試験のひと月前からは娘も遊びの約束を入れず、息子がベストコンディションで本番に臨めるよう協力してくれました。家族みんなに「ありがとう」。