なんか書かにゃと思いつつ、なんとなくやる気が起きない でろ〜ん=■●_
『レテの岸辺』
ある死神が海の波打ち際に座り、茫洋と蒼い空を映す水面を見ていた。空は高く美しく、白い雲が次々と千切れ、天女の羽衣のごとき形をとり、飽く事もなく流れていく。水辺には多くの鳥が群れている。 ひと際目立つのが鷺に似た首と足の長い水鳥の大群で、その薄紅色の羽は朱鷺色とも呼ばれた、現世での絶滅種である。ニッポニア・ニホンの名をももったその鳥は、もう誰に怯える事もなく、繁殖を強制される事もなく、悠々と飛び戯れる。 ふと朱鷺の大群は羽ばたき、飛び立っていく。岸辺に座る黒い死神の姿をすり抜けて、夢の様な朱鷺色が一瞬岸辺を埋め尽くし、飛び去っていった。 ここは人があの世と呼ぶ世界故、見える現象は物質を伴わず、意をもって現れる。この美しい空は荒れる事がない。死んだ者達の、せめてあの世は美しいものを見たいと言う、切なる願望が支えているのだろう。
彼岸に咲くは十万那由他の仏花草
蓮華の下の沼地の現世 妙音鳥鳴くよ 若空無我常楽我浄 若空無我常楽我浄 ……
時折、石を積む子供の姿が数人、幻覚の様に現れる事がある。 ふと哀れに思う事もあるが、こちらは死者の魂を運ぶだけの事。 救うは仏のなさる事。 神と名は付いても、所詮輪廻の輪から逃れられ身であり、場所である。 尸魂界の有様を見れば、死んだ者達はさぞ納得のいかない事でろう。 ここは彼岸の地であるが、浄土ではないのだ。 ただ十万那由他ほどではないが、現世では見る事が出来ない花が咲いている。 水辺にはり出した岩場の上、草地の中にまごう事なき青い百合が咲いている。 白い百合と混じり合い、まったく赤みを含まぬ青に咲く百合の群生は 人であった者に仏花草と言えば信じるかもしれない。
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