一橋的雑記所

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2006年03月31日(金) 何年振りかという…■ホントは201204278.

続いてます。
つか。
どうすんだ、これ。←





思っていた以上に疲れていたのかもしれない。
気付けば、うとうとしていたあたしが目を覚ました時には、日はもうずいぶんと傾いていて、差し込む西日が眩しかった。

「あ、起きちゃいました?」

流れている音楽は、あたしに無断で聴いたことあるような無いような、ゆったりした歌のない音楽になっていて、ふうん、こんな曲も聴くんだあ…なんて、薄ぼんやりした頭で考えながら、何度も瞬きを繰り返していると、そっとひそめるような声が隣から聴こえてきた。
運転に集中してるのか、振り返りもしない横顔が、逆光のせいで暗くて、ちょっと知らない人みたいで、一瞬だけびくっとする。

「……ゆかりさん?」

気遣わしげな声が聴こえて、ううん、と頭を振る。

「まだ、遠い?」
「え?」
「目的地」

久し振りに出した声は吃驚する位かすれてたけど、知らんぷりで続けると、あの子は、ええーと、ともうすっかり聴き慣れた唸り声を上げた。

「あともうちょっとです。下の道も、思ったほど混んでないみたいですから、15分もかからないかも」
「ふうーん」
「まだ眠いです?」
「ううんー、だいじょぶ」

下の道、とか、車運転し慣れてる人っぽいよねえ、とぼんやり感心する。そういえば、誰かが、ちょっと前に、あの子と何処かに遊びに行ったんだか旅行に行ったんだかってって話をしてたことを思い出した。思いついたら即実行。お出迎えから何から全部お膳立てしてくれて、いつもとは想像つかない位オトコマエだったって。素顔は子どもみたいなのにって。

ていうか。
なんで忘れてたんだろ、その話。
ていうか。
なんで今、思い出して、良く分かんないもやもやした気持ちになってるんだろ。

どうしてだか、一気に目が覚めたような気がした。


あの子の予言通り、車は、15分するかしないか位で、目的地らしいお宿の前に到着した。

「……なんか、凄くない?」

海沿いの道路に面した、大きな木造の一階建の建物。その向こうに、お洒落なホテルみたいな建物もあって、なんていうか、バブリー?多分きっと、お部屋に温泉とかもありそうな。そんな高級そうな旅館の玄関に、あの子は平気で車を乗り付けた。

「凄くないですよぉ」
「でも、お高いんでしょ?」
「それが、平日だしこの時間からのチェックインだしで、全っ然そんなことなかったんです」

もちろん、急に連れてってなんて言い出した手前、自腹切る覚悟はあったけど、持ちネタとかじゃなく、自然に口走ってしまった言葉に、あの子はむしろ誇らしげに応える。ホントにぃ…って続けたい気持ちをやっと堪えた所で、お宿の玄関から、何人かの人がお出迎えに出てくるのが見えた。

「……本格的じゃん……」
「普通ですって」

笑ってさっさとドアを開けて出て行くあの子に、え?と慌てるばかりで身動きも取れないでいたら、助手席のドアが静かに開いた。

「さて、到着しましたよ、お姫さま」

ドアの向こうでにっこりしていたのは、まごうことなきあの子で。
あたしは、吹き出したら良いのか、感心したらいいのか決めかねて、「あ、そう」としか呟けなかった。





落とし所、捜索中……(ぇ。


2006年03月30日(木) 徒然なるままに。(ホントは091013)



喫煙の習慣は、自分に取って幸せな記憶と結びついているのかもしれないと思う。

足下に、ほんの少しの寒さが立ちこめる時期になって、久し振りにパッケージを開く。小さな台所の小さな明かりの下で、ノベルティのガスライターをスライドさせて、小さな炎を灯す。濃い味と香りを胸一杯に吸い込んで、薄くなった煙を換気扇に向けてはき出す。口の中に残る苦みが、あまりに一度にいろんなものを脳裏に浮かび上がらせるものだから、何一つ確かな形を結ばない。

久し振り過ぎて強く感じる刺激に軽い目眩を覚えながら一本吸い終え、蛇口から滴らせた水で消火する。何かのおまけで手に入れた陶器の器に吸い殻を仕舞い、素焼きの小皿で蓋をすると、その上に長い梅の薫りの線香を立てて火を点ける。立ち上る甘い香りが懐かしい。

懐かしい筈だな、とふと思い至る。
自分にとって一番懐かしい人が纏う薫りに、それはとてもよく似ていることに、今更、本当に今更、初めて気づいた。

悔しいので、絶対、教えてやらない、と心に決める。


<091013.>


2006年03月29日(水) ホントは20090227.

続いているかもしんない。




誰にだったら救われると思っているのだろう。
そんなの、好きって言わない。
言えない。



あたしたちを乗せた黒くておっきい車は、知らないけど広くて長い道をどんどん走っていく。
乗り物、特に人の運転する自動車はそんなに得意じゃないと思っていたけど、少しも気持ち悪くならなかった。

「ねえ、何、この音楽」
「えーと、私の好きなグループっていうか」
「ふうん、変な声」
「な……! 変とか言わないで下さいよ! 良い声じゃないですかっ」

何処かで聴いた覚えはあるけど、低過ぎてあんまし上手には聴こえない単調な声が、だらだらと何か喋るみたいに歌ってる。そんなにしんどいならキーもうちょっと上げたら良いのにって思ったけど、鼻歌みたいに合わせて歌ってるあの子がご機嫌だったからそれ以上は言わない事にする。あたしって大人、なんて考えながら窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺める。
何処まで行くんだろう。
訊いたってきっと、良く分かんないから訊かないでいるけど、何にも説明しないあの子もあの子だと思う。

「……ゆかりさん?」
「ん?」
「あの、音楽止めた方が良いですか?」

なんで?、ってあの子の横顔に視線を向ける。鼻歌もいつの間にか止んで、真剣な顔してフロントグラスを真っ直ぐに見てる、アーモンドみたいな形の目がちょっと細くなってた。

「良いよー別に」
「や、だって、」
「余計な事考えないで、運転に集中ー」
「えー……」

困ったように眉根が下がる。いつもそうだな、って思う。あたしはあの子の事、いつもいつも、困らせてばかりだ。分かってるのに、でも。

「じゃ、あの、他のにします?」
「他のって?」
「ゆかりさんの、とか、」
「却下」
「えー!」

反省し掛けた気持ち、却下。何考えてんだ、こいつ。

「なんで自分の歌とか聴かされないといけないの、冗談じゃなーい」
「え? だって、ほら、ゆかりさんの歌、好きですし私」

何言ってんだ、こいつ。

「つーか、奈々ちゃん、あたしのCDなんか積んでんの?」
「勿論ですよっ」
「……抜いて良い?」
「や! だ、駄目ですよ、勝手に触らないで下さいっ」
「奈々ちゃん、前見て、運転に集中して」

慌ててこっち見ようとするから、びしっと言ってみたら、生真面目に視線が前に戻る。

「……すみません」
「何謝ってんの?」

いえその、とかごにょごにょ言って、ほんのちょっとあの子は小さくなって、あたしは溜息を零しながら、窓の外に視線を移した。
歌うのは、好きだ。でもそれは多分、あの子が歌うことを好きな気持ちとは全然、全く違う気持ちなんだと、それは凄く感じる。あの子は、歌も好きだし、自分の歌も好きだろうし、歌ってる自分の事もきっと、大好きなんだろう。食べることや旅行や、声のお仕事すら、あの子には大好きで括れちゃうものなんだろうけれども、それとは全然比べ物にならない次元で、歌が好きなんだろう。あの子のちっちゃな身体の真ん中にそれは物凄く確かな形で存在して、だからこそ、いつでもきらきらしているし、想像もつかない大きなステージでも堂々と、全力で歌えるんだろう。他の何を奪われても、多分、歌さえ残っていれば生きていける。そういう人なんだろう。
でもね、だからって歌う事を好きな人、全部が全部、そうじゃないこと位、分かって欲しいな、とか、そんな勝手な事を考えてしまう。
それが、少し前は何だかとても、悔しかった。悔しかったけど、そんな風に思うこと自体、無意味なんだって気付いてしまった。あの子のその気持ちに張り合おうなんて、あたしは最初っから考えていなかった、その事に気付いたから。

「……じゃ、奈々ちゃんのCD、掛けようよ?」
「……え?!」

何気なく言った言葉に、奈々ちゃんが酷く大きな声を上げたから、あたしの方が吃驚する。

「え?!って何、え?!って」
「え、や、あの、ええと」
「いいじゃん、ゆかり、奈々ちゃんの歌、聴きたいなー」

駄目、なんて、ルームミラー越しに、奈々ちゃんに向けて小首を傾げて見せる。何、今更動揺するんだろう。自分の歌、大好きな癖に。

「何でも良いよ、今直ぐ掛けられる奴なら」
「あ、あの……」
「知らない人の歌より、ゆかりは奈々ちゃんの歌、聴きたいな」

冗談めかして言ったつもりだったけれども、フロントグラスを凝視していたあの子の横顔が、何故だか少し、強張った気がした。

「……奈々ちゃん?」
「わ、わかりました、掛けます」

ほんのりと薄っすらと、あの子の頬に赤みが差して、慌しくその手がオーディオに伸びる。がしゃんがしゃんって音がして、CDが入れ替わって、少ししてがりがりっとしたギターの音が流れ出した。これ、知ってる。お正月のアリーナのコンサートのオープニングで歌ってたあれ。とか思っていたら、あの子の手がもう一度オーディオに伸びて、音量が少し絞られる。

「何してんの?」
「や、ええと、音、おっき過ぎたかなあって」
「んーん、大丈夫、平気」

ぶるん、と首を振って見せたら、あの子の手がちょっと躊躇うようにしてヴォリュームボタンから離れて行った。
狭い車内一杯に響き渡るバンドの音と、あの子の声は、正直確かにちょっとうるさい感じだったけど、でも別にそれはそれで構わなかった。遠慮なくガンガンと響く音に負けない位、ガンガンにかっ飛ばしてるあの子の声。相変らずかっけーよな、って思う。ライヴで聴きたいとは思わないけれども。生でこんな音に囲まれたら、多分、あたしの耳は一発で駄目になるに決まってるから。
そんな事考えながらあの子の声に耳を傾けていたら、忘れた振りをしていたあの事が、不意に甦る。やってやれない事はない。けどでも、こんな強い音と歌声に囲まれて、あたしが同じ事が出来るとは到底思えない。

「……ゆかりさん?」

気遣わしげな声がして、ふっと意識が引き戻される。

「何?」
「ええと、大丈夫、ですか?」
「何が?」

我ながら不機嫌だなあと分かる声。なんでだろう、あの子の前なのに、それともあの子の前だから、だろうか。自分でもいらいらする位、剥き出しの気持ちが露わになってしまう瞬間が、ある。

「えっと、あの、すみません」
「……奈々ちゃん」

だからこそ、こんな風に敏感に、謝られても、困るんだけど。

「言ったでしょ、運転に集中!」
「うっ、はいっ!」

窓の外の景色は気付けばうっすらと夕闇色に染まり始めてた。







時間切れ(何)。
もしかしたら後から続けるかもです。
あくまで、もしかしたら、ですけど(何々)。





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