心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2007年03月19日(月) アルコールの代謝

二郎さんのところの掲示板にも書いたのですが、書き直して再掲します。

人間の肝臓は、一時間あたり、体重1キログラムあたり、0.1グラムのエチルアルコールを分解する能力があるとされています。体重55Kgの人なら、一時間に0.1g×55=5.5グラムの分解能力です。
アルコールの度数(何パーセントというやつ)は、重量比だったり、容積比だったり、酒の種類によって違うのですが、高アルコールの酒は容積比が多いようなので、ここでは容積比で計算します。
アルコールの比重を0.8とすると、5.5g÷0.8=6.8ml。つまり、健康な人の肝臓は、一時間に6.8ミリリットル(=6.8cc)のアルコールを分解できるのです。6.8ccがどれくらいか想像できない人は、シアナマイドを飲むあの小さなカップを思い浮かべてください。あれは10ccですから、2/3ぐらいです。人の体が、ほんのちょっぴりずつしかアルコールをできないことが分かるでしょう。

日本酒やワインの度数は15%ぐらいです。6.8ml÷0.15=46ml。一合の4分の1です。つまり、一合の日本酒が体で分解されるのに、4時間かかります。夕方にワインボトル2本空けたならば、翌々日の午前中まで酒が体に残るでしょう。

日本酒を6合飲むと、24時間アルコールが体に残り続けます。次の日も飲めば、体も脳もアルコール浸しの状態が続いていくことになります。これはあまりに不健康なので、毎日5合〜6合飲む人を、アルコール依存症であるかどうかにかかわらず「大量飲酒者」という分類をしたのです。

最初は酒に弱くて少ししか飲めない人が、やがてたくさん飲めるようになる、いわゆる「酒が強くなる」現象があります。依存症になる人は、最初から思いっきり飲める人も結構いますけど、たいていこの過程を通ります。これは必ずしも、肝臓の能力が上がっていくことを意味しません。どちらかというと脳の反応が変わっていくのが主のようです。もともと肝臓が持っていた潜在能力以上は引き出しようがないのです。

日本酒なら5合半、ワインなら1本半、ウィスキーや焼酎なら瓶半分、ビールなら大瓶5本半、毎日これ以上飲むと、肝臓他の臓器は休まるヒマはなく、脳はつねにアルコール漬けの状態にさらされます。病気になるのも当たり前という気がします。
それでも人間生きていく強さがあるのがすごいと思います。

ちなみに精神科で出す薬は、アルコールより代謝速度が速いようで、血中濃度のグラフを見ると、短い半減期であっというまにゼロに近づいていきます。


2007年03月18日(日) 甘んじて受け入れる(ア・ドッグ・ハズ・カム)

そのうち書こうと思っていたのですが、我が家に犬がやってきています。

ともかく妻は太りすぎで、筋肉も落ちているので、体を動かさないと良くないと、医者を含む周囲から言われていました。フィットネスクラブにも通ったのですが、嫌になってしまったらしいです。「散歩でもしたらどうか」と勧めたのですが、一人でするのはつまらないと言います。犬でも飼っていれば散歩に行くのにね、という話が、ずいぶん前から出たり引っ込んだりしていました。

しかし我が家はアパート住まいなので、動物を飼うには大家(妻の父)の許可を得ないと行けません。そこで、犬はダメだが猫なら良いという話になりました。というわけで、我が家の一員に子猫が加わったのが昨年夏です。
でも、猫は散歩に連れて行けないしね。

何度か犬という話がぶり返した後、ついに大家の許可が出てしまいました。まったく、父親ってのは娘に甘いものです。たとえその娘が四十過ぎでも。はぁ〜、やれやれ。

我が家は狭いし、猫もいるので、室内犬は飼えません。必然的に、中型犬になります。でもね、犬は10年以上生きるんです。娘が成人しちゃいますよ。後になって世話ができないとか言って、人に押しつけるな、とそれだけは念を押しておいたのですが、どうだか怪しいものです。

そんな経緯で、先月我が家にビーグル犬がやってきました。スヌーピーのモデルになった犬種ですね。一番無駄に吼える犬種でもあります。無駄に高かったです。注射にもお金がかかりますし、1年間は指定の餌を与えないと行けません。

名前は偉大なるドラマーの名前をもらって「ポン太」としました。ポン太はまだ子犬なので室内のケージの中にいます。人間が散歩に連れて行く時と、遊んでくれる時だけケージの外に出してもらえます。
僕の主治医からは、「奥さんはともかく、あなたに負担がかからないか心配だ」という話をもらったので、なるべく犬には関わらないことにしています。妻は毎日午前午後と散歩に行って、体重も体脂肪率も減ってきているようです。

去年妻が入院した時に「私の通帳を持ってきて」と頼まれ、(見てはいけない)とは思いながらついつい中を見てみたら、残高は僕名義の通帳より一桁多かったです。その後二桁多くなり、現在は三桁多い状態です。別に妻の貯金がうなぎ登りに増えたワケじゃありません。まあ、今月の給料日まで、もう引き落としはないはずだから大丈夫でしょうけど。

僕には妻は変えられない、と最近つくづく思います。いかに口うるさく言っても、変わらないものは変わりません。
無力とは諦めに似ているとAAの仲間が言っていました。その時、諦念という言葉も出ました。accept には「受け入れる」とか受容という言葉をあてますが、「甘受」という訳語もあります。背中に「金づる」という言葉を書いた紙を貼って歩いた方がいいのかもしれません。


2007年03月17日(土) アイ・サレンダー・トゥー・ユー

よく使われるミーティングでのテーマ(ようこそAAへ)の中に「無条件降伏」ってのがあります。これは英語のsurrender(サレンダー・降伏)を訳したものです。

なんで日本語に「無条件」がついたのか知りませんが、おそらく太平洋戦争で日本が連合国に無条件降伏したことが影響しているんでしょう。
僕は戦争の時は生まれてもいなかったので、当時の時代の気分は分かりませんが、想像するに「もう負けました。何でもいいからもう戦えません。どうとでも好きにしてください」という感じだったのかもしれません。そして、鬼畜米英に乗り込まれて、これから日本はどうなっちゃうんだろう? という不安に占められていたのかもしれません。でも、日本は焼け野原から復興を遂げました。
いつまでも、国の誇りにこだわって戦い続けたら、こうはならなかったと思われます。

だから僕らも、つまらない(役に立たない)プライドは捨て、酒と戦うのをやめ、自分以外と(も自分とも)戦うのをやめ、「どうとでも好きにしてください」とハイヤー・パワーに申し出るのが良いんでしょう。日本国民が、戦時下の情報統制の中で英米のことを何も知らなかったように、僕らもハイヤー・パワーのことなんて何も知りませんでした。知らないものに身をまかせるのは、不安でしかたないものです。

でも「神さまは悪いようにはしない」と聞かされますし、さまざまな意味で復興を遂げた先ゆく仲間の姿が、それを証明してくれます。だから、どーんと大船に乗った気持ちで、この身を委ねてみるしかないのでしょう。

もちろん戦後日本の復興は、日本人の勤勉さに支えられていたでしょうから、僕らのステップ3にも、その後のステップに取り組む「やる気」が求められているのは当然です。降伏した後、だらだらしてちゃいかんよと。

もちろん現在中東で起きていることを見れば、戦争に負けることが良いことだとはとても言えません。やっぱり人の集まりは神になり得ないし、変わってもしまうものであります。まあ、最近AAのミーティングで「無条件降伏」というテーマが出てくるのを聞いたことがないのが不安であります。

アフターミーティングで仲間と話した中に、以前と比べてAAにやって来る人の軽症化が進んでいるという話題がありました。たとえば、禁断症状の中で幻覚幻聴を体験した話は、以前はありふれたものでしたが、最近はあまり聞きません。底つきの底を浅くしようという、いろいろな人の努力は、確実に実を結んでいます。
しかし、受け入れる側にとっては、以前の方法論が通用しない面もあります。状況に合わせて自分が(自分らが)変わっていかなければならないのは当然でしょう。

ispired by a post on big foot net meeting mailing list. thanks :-)


2007年03月16日(金) お祭りではなく日常がプログラム

僕はそんなに頻繁にAAミーティングに通うタイプではありません。

AAに来て最初(スリップ以前)は、現在のホームグループに週一回と、地元で月一回やっていたミーティングに出ていただけでした。再飲酒して、精神病院から戻ってきて、現在のソブラエティが始まるのですが、それでも月・水・土と週に三回のミーティングが基本でした。

「当時の長野県ではAA会場が少なかった」という理由は言い訳ですね。事実その頃、毎日ミーティングに参加している人もいました。月=松本、火=篠ノ井、水=上田、木=佐久、金=更埴、土=諏訪、日=信濃病院という組み合わせだと聞きました。
僕は妻のお腹の中に子供がいたり、お金がなかったりという理由で三回でした。退院してすぐに仕事を再開したのも理由のひとつでしょう。
現在は、基本的にホームグループの週二回しか出ていません。

最初の一年は、AAのイベントにはまったく行きませんでした。でも、病院メッセージには月に1〜2回行っていました。だから知っているAAメンバーの数はいっこうに増えませんでした。でも、うつが酷かったので、たとえたくさんのAAメンバーと出会ったとしても、彼らと心の触れあう交流なんてできなかったでしょう。
こつこつと自分のルーチンワークをこなしていた、それがかえって良かったと今では思えます。

二年目からは、毎月第四土日に皆で泊まるイベントに、毎回参加していました。経験の長い仲間の話を聞き、同じぐらいの時期の仲間と青臭い議論を朝までしたりしました。その頃から少しずつ週末のAAイベントへの参加が増えていきました。でも、せいぜい年に数回です。毎月どこかに出かける人や、ほとんど毎週出かけている人もいて、うらやましくもありましたが、僕には家庭の事情もあって、それほど家を空けるわけにも行きませんでした。

最近すこし子供が大きくなってきたので、ちょこちょこ出かけています。昨年を数えてみると、1月、4月(3回)、6月、7月、8月、10月、12月と出かけています。泊まったのは8月の安曇野だけですが、意外と多いですね。そういう時期なのでしょう。

でも、AAで出かけても、あまりAAプログラムをやっているという感じはしません。AAプログラムは、ミーティングで仲間に会うのが1/3、一人で取り組む部分が1/3、霊的な目覚めを伝えていくのが1/3だと思っています。真ん中が抜けている人が多いような気がします。真ん中が抜けていれば、最後の1/3もどうだか怪しいし。

行けば楽しい。しかし行くだけで満足してしまうのが、恐ろしい気がします。イベントから帰ってきた日常のほうが、AAプログラムでしょうから。
イベントに行くためにミーティング場を休止にしてしまう神経が僕には理解できません。それってチェアマンが飲んでミーティング場を開けられない事態と、同じじゃないですか。ああ、だから別にそれでもいいのか。なんだそうか。気にすることはないか。


2007年03月15日(木) 飲酒によるストレスの拡大再生産

恋愛している時の、天にも昇るような幸福感は、いずれ消えていきます。大切な何かを失った悲しみも、時間と共に薄れていきます。

なぜなのか?

人間の体には恒常性維持(ホメオスタシス)という仕組みがあります。中学か高校で習ったはずです。たとえば体の水分が不足すれば喉が渇いて水を飲み、水を飲みすぎればおしっこがたくさん出るようになっています。こうやって体の中身を一定の状態に保っています。

人間の心にも同じような仕組みがあると考えるのが「相反過程説」です。恋愛の多幸感も、喪失の悲しみも、脳にとっては大変なストレス状態で、それを平穏な状態に戻そうとする働きがあるという考え方です。
ストレスがあると、脳の中である種のホルモンが分泌され、それが体をストレスに対処できる状態に調整します。このホルモンは同時に、人の気分を不安や憂鬱に導きます。

面白いのは、依存性のある薬物を体に入れると、この「ストレス対処のホルモン」が分泌されるというのです。薬が体から抜けていくことがストレスであるようです。酒を飲んで気持ちよくなっても、酒が抜けていくと気持ち悪くなるという経験は、誰にでもありますね。要するに、薬で気持ちよくなると、脳は気分が悪くなるように自己調整するわけで、相反過程が上手く説明できます。

気分が憂鬱である、あるいは仕事でストレスを感じているとします。
それを、酒を飲んで気分を晴らすことにします。
いったんは気持ちよくなりますが、やがて酒が抜けてきて、ストレス対処のホルモンがでて、憂鬱あるいはストレスが強まります。酔いは短時間でなくなりますが、ホルモンは長いこと出続けますから、飲む前より状態は悪くなり、気が晴れず、ストレスも強く感じることになります。
そこで、次回はもっとたくさん飲んで、沈んだ気分を盛り上げようとします。
たくさん飲んだぶんだけ、もっと憂鬱になります。
そうやって、デフレスパイラル的に、どんどん悪化していくわけです。

憂鬱な気分やストレスを解消するために酒を飲むと、依存症になりやすいのです。そして、依存症者が「ストレス解消のために飲む必要がある」という言い訳を用意したとしても、そのストレスは実は自らの飲酒によって拡大再生産したものに過ぎないのでしょう。

前の日に具っする眠れて気分が良く、ストレスも感じていなくて体調がいい休日・・・そういう時を選んで酒を飲んでいれば、依存症にはならなかったかもしれませんね。


2007年03月14日(水) 問題飲酒者に共通の性格

いわゆる典型的アルコホーリクの特徴は、自己愛的自己中心的な核であり、万能感に支配されていて、どんな代償を払ってもその内的完全さを保とうと熱中していることである。
(略)
ジルマンは次のように報告している。彼は、問題飲酒者に共通の性格構造のアウトラインを識別できると言い、この一群の性格を名づければ「挑戦的反抗的個性(defiant individuality)」と「誇大性(grandiosity)」というのが最も合っていると言う。私見では、これは正確な表現である。内面ではアルコホーリクは、人からであれ神からであれ、どんなコントロールも我慢できない。彼はみずからの運命の主人であり、そうでなければならない。彼はこの位置を守るために最後まで戦うのである。

このような性格特徴が多かれ少なかれ持続的に存在することを認めれば、その人にとって神と宗教を受け入れることがいかに困難なことかは容易に理解できる。宗教は神の存在を認めることを個人に要求するが、そのことはアルコホーリクの本性そのものに対する挑戦となるのである。

しかし他方では、ここがこの論文の基本点なのであるが、もしアルコホーリクが自分より大きな力(Power)の存在を真に受け入れることができれば、彼はまさにそのステップによって、自分の最も深い内的構造を少なくとも一時的に、おそらくは永続的に修正することになる。これを恨んだりもがいたりすることなしに行うならば、その時には彼は典型的アルコホーリクではなくなっているのである。

そして不思議なことに、アルコホーリクがこの受け入れの内的感情を持ち続けることができると、以後の人生を飲まずに過ごすことができるようになる。

友人や家族から見れば、彼は宗教に入信したことになる! 精神科医から見れば、彼は自己催眠なりなんなりにかかっていることになろう。アルコホーリクの内部で何が起ったにせよ、彼は今や飲まずにいることができる。

「アルコホーリクス・アノニマスの治療メカニズム」ハリー・M・ティーボー博士
(AA成年に達する〜より)

自分の人生の主役は自分自身ですが、脚本は誰かが書いているんでしょう。いいじゃないですか、主役なんですから。脚本まで書きたがることはないですよ。主役なりにがんばれれば十分では?


2007年03月13日(火) 12個のステップを一言で表す

ということを考える人は、結構いるのでしょうか。

これは英語のメダルに書かれていたものです。

1. Powerless - 無力
2. Believing - 信じること
3. Surrender - 降伏
4. Inventory - 棚卸し表
5. Admitting - 進んで認める
6. Readiness - 準備が整う
7. Humility - 謙虚
8. Willing - やる気
9. Amends - 埋め合わせ
10. Continuing - 継続
11. Meditating - 黙想
12. Awakening - 目覚め

ステップの文章そのままって感じですか。でも、ステップ3は「降伏」。
もうひとつ別のメダル。

1. Acceptance - 受け入れる
2. Faith - 信仰
3. Surrender & Trust - 降伏と信頼
4. Honesty - 正直
5. Courage - 勇気
6. Willingness - やる気
7. Humility - 謙虚
8. Forgiveness - 許すこと
9. Freedom - 自由
10. Perseverance - 根気強く
11. Patience - 忍耐
12. Charity & Love - 思いやりと愛

こちらもステップ3は「降伏」です。日本語は適当に辞書を引いただけですので、あまりアテにしないように。

話は変わりますが、僕がAAに最初にやってきてから、酒が止まるまでに1年と2ヶ月かかりました。その間に、僕が「お前はもう来るな」と言われて追い出されていたら、僕は今AAにはいなかったでしょう。飲まなくても迷惑な存在だったでしょうに。
ただ、「酔っぱらってくるのはもうやめてくれ」とは言われましたけど。
新しい人に不寛容な自分を発見すると、昔を思い出して恥ずかしさが募ります。

「AAの12の伝統」が教えてくれることは、私たちAAメンバーは、その規範を守れていないということです。

下りのエスカレーターを逆に上っている例えは、なにも個人の回復(ステップ)ばかりじゃなく、グループ(伝統)にも言えることですから。立ち止まると下ってしまいます。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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