心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2009年12月07日(月) 偏食

普段のミーティングでは、説教くさい話になるのを避け、なるべく自分の酒やステップの体験を話すようにしています。しかし、いつもそうできるとは限りません。
昨夜は仲間のバースディミーティングで、本来であれば少しおめでたい話でもして、(誰だって自分の酷かった頃のことは忘れるので)以前のその人の姿を知るものとしてチクリと一言クギを刺すぐらいにしておこうかと思っていたのです。ところがご本人の話が「○年AAをやっても、自分はこれしか回復していなくて・・」という暗ぁ〜い話だったので、思わずむかっ腹が立ってしまい、僕の順番の時に「今日はお説教(をする)ね」と断って始めてしまったわけです。

アラカルトというのはメニューの中から自分の好きな料理を選んで食べます。またバイキング料理(スモーガスボード)では、セルフサービスで自分の好きな料理を取り分けて食べます。最近は安ホテルの朝食はもっぱらこれです。AAもそんな風に自分の好きなことを選んで楽しむ?ことも可能です。好きな仲間とだけ付き合い、お気に入りのミーティングやイベントにだけ参加していても、それなりのボリュームが確保されていれば、十分努力しているように見えます。
けれど好きなものだけ選んで食べていると偏食になります。体は正直なので、必要な栄養素が足りなければ不健康になります。AAも同じです。病気は正直なので、必要な栄養素が足りなければ心が失調します。真面目にAAをやっているつもりでも、結果を見れば不足があるのは明らかで、それを自己憐憫のネタにしていては、今後も同じことが続くばかりです。

何年か前、僕は東京で一人のメンバーと会いました。彼は「何年経っても惨めなソブラエティを送っているヤツは人殺しだ」と言うのです(彼はどこでもはばからずにそれを言うようです)。
僕はAAに来るまでは最高でも一ヶ月半しか断酒が続きませんでした。「いつでも酒がやめられる」と思っていたものの、心の奥では一生酒をやめるなんて無理だと思っていました。そんな自分にとって2年、3年酒をやめ続けているAAメンバーは天上の人みたいなもの。もしその天上人たちが「何年酒をやめてもちっとも回復せず辛いばかりだ」と話していたら、僕は「ほらやっぱり酒をやめても何も解決しない」と諦めて、死んでも構わないから飲み続けることにしたでしょう。東京で彼と会ったころの僕は、酒はやまっていたものの、会社が倒産し、子供は不登校になり、自分はうつが悪化して酷い状態でした。避けられない運命があるにしても、それを乗り越えていくステップの強さと希望が話の中になければ、「他の人が酒をやめる手助け」どころか「人殺し」のスピーチである、これがおそらく彼の言いたかったことでしょう。

酒を飲んでいると不幸が押し寄せてきます。回復すれば自業自得の不幸はなくなりますが、誰にでも訪れる不幸は酒をやめてもやってきます。幸せとは不幸が訪れないことではなく、不幸を乗り越えられる手応えみたいなものではないかと思います。栄養の足りた肉体が病気を乗り越えていくように。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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