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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2006年04月26日(水) 空と君のあいだに(その3) お昼に集まってホテルに荷物を預け、夕方まで各自スキーを楽しむという段取りでした。
ところが彼女は「私は行かない」と言うのであります。ほとんどスキーはやったことがないし、板もウェアも持っていないからできないと言うのです。
そんな物は借りれば済むことだし、第一やらなくては上達しないよと誰かが説得して、みんなでゲレンデに向かいました。上から下まで全部レンタルの手はずがついて、初心者用のゲレンデの上から下まで一回滑り降りるまでは、みんなが付き添って面倒を見ていました。
が、スキーのうまい人ばかりで、しばらくすると皆は上級者用のゲレンデに移っていってしまい、いつの間にか僕と彼女の二人だけ取り残されました。
仕方ないので二人で半日滑りました。
だんだん彼女もスキーがうまくなって楽しめるようになりました。
ペアリフトにも乗りました。
滑る周期がずれて、リフトに乗った彼女が、僕が滑っている頭上で手を振って呼んでくれたりしました。転んでいる彼女を、僕が滑って行って助け起こしたりなんかして、彼女はどう思っていたか知りませんが、僕としては気分は恋人同士です。全身黄色のレンタルウェアの彼女は、ゲレンデのどこにいてもよく目立ちました。
時々上級者用ゲレンデから誰かが様子を見に来ても、「大丈夫、大丈夫」と言って追っ払いました。
何より楽しかったのは、彼女が楽しんでいる様子だったからです。
「ひいらぎぃ、こんなに楽しいのは生まれて初めてだよ。生きていて良かったなぁ」
そう言って笑った笑顔を一生忘れないと誓ったはずでした。
また来年も一緒に滑ろう。
君には幸せになって欲しい。それが僕の役目じゃなさそうなのは、ちょっと残念だが。
そんなことを思った記憶があります。
夕方になってナイターへの切り替えのアナウンスがあり、みんな大松の麓に集まってきていました。
ところが彼女の姿が見あたりません。どこへ行ったのか。トイレなんじゃない? そんな話をしながら待っていました。
彼女が2〜3人の男たちに囲まれて滑り降りてきました。遠目にも顔色の悪いのがわかりました。
「あっちに仲間がいるから」
そう言った彼女に、「すかしてんじゃねよ、ブス」と男たちが罵声を浴びせて去っていきました。
「どうしたの?」
「ひとりでいたら、絡まれちゃって、無理矢理誘われちゃって」
泣きそうでした。いや泣いていたのかも知れません。
守ってあげられなくて、ごめんなさい。そう言って謝らなければいけないはずでした。一日一緒に遊んでもらって、最後にドジを踏んでしまったのは僕でした。
でも、僕は心の中で彼女を守れなかった言い訳を必死で探しました。(ひとりでふらふら、どっかへ行っちゃった君が悪いんだよ)・・これは責めてるみたいでまずいな。
そういえば妻と一緒にスキーに行ったとき、彼女は同じような状況を「あっちに旦那がいるから」と言って追い払っていたっけ。
「そう言うときはさぁ、下に彼氏とか、旦那が待っているって言えばいいんだよ」
僕が言ったのはそんな言葉でした。結局彼女が悪いみたいな言いぐさです。もちろん何の慰めにもなりませんでした。
みんなで大丈夫だからと安心させて、宿へ帰りました。
(続きます)
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