◆サイトは閉鎖しました。が◆
天竜



 オリジナル「隔世の証」十六話目アップ

さて、連載なのに随分と間が開いてしまって本当にすいませんでした。すでに前回の内容を忘れてしまっている方もいるのではないかと心配しております…。なにげな〜くさりげな〜く前作を斜め読みしてテキトーに思い出してやってくださいませ(泣)

2004年04月12日(月)



 画像モエ

さて、パソコンが新しくなったおかげでですね、今までのポンコツではダウンロードできなかった動画を色々と集めて回っているわけですが、ロード関係ではヒットが二つ。
きっとすでに観て萌えた方も多いんだろうな〜、ひとつはですね、エルフウィッグの三つ編をすべて解いたシャンプーCMキャラ抜擢間違いなし!ミムラもナタリー・ポートマンもなんのその!的さらさらヘアーなオーリィ。
あれでね〜、オーランドが馬鹿笑いをしていなければこっちも萌え放題なんですが(知るかよ)、どっちかっつーと今時の兄ちゃんっぽくなってましたね(笑)三つ編が持つ威力はスゲーと思いました。
もひとつは、写真ではよく見ていたのですが、ヴィゴの頭をいい子いい子してるオーランド。
というか、ヴィゴが素直に頭を撫でられすぎていて非常に受け受けしい。恐るべき王様。めちゃくちゃかわいかったですけどね〜。

つうことで、いい加減小説書けよ!てな話ですが(笑)、来週から隔世〜は更新していきます。アラレゴの方もできるだけ書いていこうと思ってますので、もうちょっと待ってやってくださいね〜。

2004年04月11日(日)



 ちょびっとリニュー

ちょこちょことリニューアルしました。こういうレイアウトはね〜、本当に苦手なんですよ。もうあと三年はずぇったいにしません。

つうことで、フレームを使ったので、画面サイズ800×600の方にはちょっと見にくくなってしまっているかもしれませんが(確認できないのでごめんなさい!)どうぞご容赦くださいね。

2004年04月10日(土)



 ニューパソ!

ようやくパソコン購入しました!軽くて早くて快適ネット生活満喫中ですイエー。また近いうちに隔世〜の連載も再開しようと思ってますので、もう少し待ってやってくださいませね〜。

2004年04月08日(木)



 (誰か止めて)アラレゴ第三弾

ぼくはきっと間違っていたのだろうと思う。
人間という命の期限を定められた種族のことを、心の何処かであまりに弱く、力なく、恐るるに足らない者たちだと感じていた。それは、ホビットやドワーフにおいても、同じことだった。
ぼくは過信していたに違いない。
自然と同化し、永遠に行き続けるエルフという存在に甘えていた。
見てごらん。
アラゴルンが涙を流している。
ボロミアの亡骸の前で膝を付き、嗚咽を洩らしている。
限りある命を持つ人間には、弱いからこそ強く生きようとする確固たる意志があるものだ。それは情熱。燃え尽きることを承知で、己の心に炎を灯す。消えたときの暗闇を知りながら、その瞬時の輝きにすべてを託す。
誰も教えてはくれなかった。
エルフこそが、神に愛されし種族だということ以外は。
違うと、ぼくは感じていた。
本当に神に溺愛されたのはエルフなどではなく、人の子なのだということを。儚い命を繋ぎ、誰にも支配されることなく、過分な恩恵を受けることもなく、自らの手で次々と未来を切り開いていく人間達。自分の命が果てても、その子に血は受け継がれ、またその子が亡くなれば、次の命へと血は脈々と受け継がれていく。それもまた――永遠に違いない。
そして、友が死ねばこうして涙を流して別れを告げる。
彼の栄光を称え、彼の遺志を継ぎ、額へ愛印を刻みつける。
ぼくは、涙を知らない。
傷付いた心は風が過ぎ去るように、あっという間に彼方へと流されてしまう。
だからボロミアの死に顔を見て痛む胸も、きっとすぐに癒える。
ぼくはエルフだ。悲しくなどない。
こんな非情な種族を、きっと神は愛したりなんかしない。


◆ 哀しみのエルフ ◆


旅の仲間は船路の終焉とともにオークの襲来に遭い、三方に離散した。
フロドはモルドールの火口へと向かい、どうやらサムは彼の友人として運命を共にすることを選んだようだ。メリーとピピンはオーク達に攫われたのだと、息を引き取る寸前にボロミアの口からアラゴルンが聞いた。
そしてぼくたちは、彼らの救出に向かうことになった。フロドがサム以外の同行者を拒んだことは、指輪所持者である彼自身の意志だ。小さな心に強く刻み込まれた使命感。ぼくたちは、それを尊重することしかできない。
だからこそ、彼の友人二人の救出は絶対に果たしたかった。
ボロミアが命を掛けて守ったメリーとピピンを、ぼくたちは必ず取り戻す。その決意を胸に、異種三人による追跡の旅は始まった。
ぼくが持つエルフの耳と目と衰えない体力が彼らに少しでも役に立てばいい。
それだけを思った。
流せない涙の代わりに、皆が持ち得ないぼくの能力をすべて使って欲しかった。

昼間はほとんど休憩を取ることもなくオークの足跡を辿って大地を駆け抜けた。ギムリは少し遅れがちだったが、それでも必死に後を付いて来る。「おれたちの自慢は瞬発力なんだ。どんな敵が来ても一網打尽さ。敵を逃がしちまうヘマなんてしないから、こんな追いかけっこはありえんよ。だから、走るのが苦手というわけじゃない。慣れていないだけなんだ。分かるかレゴラス?」
息を荒げながら必死で言い訳をするギムリに、ぼくは笑って頷いた。
「あなたのこのがんばりは、きっとドワーフ族の語り草になるに決まっている! それはすごいことだよ我が友ギムリ!」
「そりゃありがたいね」
ギムリは丸っこい目をくるくるさせながら、甲冑に覆われた頑強な肩を大きく揺らした。
「さあもうひと駆けだ。アラゴルンはあんな先へ行ってしまったよ」
ぼくは、一日中走り続けてもいっこうに息を乱さないアラゴルンの背中を眺め、少しだけ目を細めた。黒々とした岩の間を駆け上がり、全身でオークの気配を感じ取ろうとしている。それからぼくとギムリを振り返り、「早く」という仕種をした。
一日目、ぼくたちは夜の間オークどもの追走を断念せざるを得ないことを皆で話し合って決めた。彼らの足跡が暗闇に紛れ、見逃してしまう危険性があるからだ。もし見失ってしまった場合、もう一度辿ってきた道筋を手繰り、方向修正しなくてはならなくなる。そのリスクを恐れ、ぼくたちは夜間互いに不寝番をしつつもどかしい時間を過ごした。
三日目。さすがのアラゴルンの顔にも疲れの色が見える。ギムリも気丈に振舞っているものの、かなりまいっているに違いない。ぼくはといえば、風や大地が教えてくれるオークどもの行方をただ探ることしかできなかった。
その夜は各々レンバスを齧りながら、メリーとピピンの身を案じ、フロドとサムのモルドールへの道のりが少しでも彼らにとって易しいものであることを祈った。自然と口数は減り、ギムリなどは疲労が溜まった両足を投げ出して、いつの間にかこくりこくりと寝息を立て始めた。ぼくとアラゴルンはそんな可愛らしいドワーフを見つめ僅かに微笑み合い、二人で不寝番を交代することを約束した。
どれだけ走ろうと、ぼくの躰は疲れを知らない。できることなら一晩中、いや、二人に安息の眠りが与えられるその時までひとりで寝ずの番を願い出たいくらいなのだが、それをアラゴルンは決して許そうとしない。強い責任感とリーダーシップ。そして優しさと厳しさ。彼の中には、人間の王になるべく自覚が確実に育ちつつある。
いつか、こうした彼の立派な姿を多くの人達が憧憬の眼差しを持って眺める日が来るのだろう。遠くない未来。そのときぼくは、胸を張って闇の森へ帰ることができる。そして父に、皆に、帰還を果たしたアラゴルンの雄姿を歌にして伝えよう。例えいつか愛する森を捨て、西の国に旅立たなければならない時が来たとしても、決して色褪せることがないようにぼくはいつも歌い続けよう。
共に戦い、共に傷付き、そして共に旅を続けた愛すべき人間の姿を。
いつの間にか、ぼくは眠りに落ちていた。目には空一面に輝く星が映り込む。エルフの眠りは、瞼を伏せることのない心の眠りだ。夢と現の狭間で記憶と幻が交互に揺らめき、重なり合い、融合し、離れては戻ってくる数々の夢想。
ぼくは思い出していた。
まだエステルという幼名で呼ばれていた頃の若きアラゴルンの姿を。ぼくを黒い瞳で真っ直ぐに見つめ、大人びた態度で「こんにちは、闇の森のレゴラス王子」と畏まった挨拶をした。それから瞬きを繰り返す間に彼は成長し、ぼくの知らない間にひとりの剣士になっていた。どこか世を投げ捨てた表情と、それに反し、強く熱い魂を秘めた双眸。
多くの宿命を背負ったその背中は、ぼくたちが吐息を洩らすほどの短い時間の中で、覚悟と責務に覆い尽くされていた。
助けたいと思った。もし彼に自由を与えられることができれば、エステルの瞳はその名の通りもっと希望に満ち溢れた明るいものに変わっただろう。そんな彼を、ぼくは見たかったのだ。エルフの小さな望み、いや、戯れのようなものであったかもしれない。
だがこうしてアラゴルンと旅を続けるうちに、すべては杞憂であることを知った。彼にはすべての宿命に立ち向かうだけの勇気があった。強さがあった。
それは――ぼくのような若きエルフの軟弱な手など必要としないほどに。

そのとき、開いた瞳に遠く反射していた月光が揺らいだ。
ぼくが胸の上で組み合わせた指を解こうとすると、それを遮るかのようにその上から熱い無骨な手が重ねられた。
「眠っているのか、レゴラス」
優しく囁かれるその人の声。一瞬、ぼくはまだ夢の中を彷徨っているのかと思った。そして、もう少しだけこの熱い手を感じていたいと思ってしまった。動かずにいると、夜空だけを映していた瞳に、アラゴルンの顔が映り込む。頬が扱け、精悍さが増した顔つき。限りある時間を見つめる瞳は、昏く、そして美しかった。
「……ぼくは、眠っているよアラゴルン」
自然と、自国の言葉で伝えていた。ぼくの顔を見下ろすアラゴルンが静かに微笑み掛ける。
「ならば、もう少し眠るといい」
彼の口から零れたのも、エルフの言葉だった。ぼくの胸に重ねられていたアラゴルンの手が離れたそのとき、今まで感じたことのない心細さというものを感じたような気がした。背中が震えた。けれど、その手はまるでぼくの怯えを知っているかのようにすぐに戻ってきて、今度はぼくの頬をそっと包み込む。
「安らかな眠りを」
子守唄のような優しい声。
遥か遠い記憶の彼方、ぼくがこの世に生まれ出たとき、同じような声を聞いたような気がする。まるで小さな木の窪みにたまった雨水が、朝露とともに溢れ出すかのように、ぼくの唇から自然と言葉が零れていた。
「ならば、あなたからのキスを」
戦死したボロミアの額に最期の口付けを落としたアラゴルンの姿を、ぼくは思い出していた。「静かに眠れ」と囁いたあの声が、今はぼくのためにある。アラゴルンもそれに気付いたのか、少しだけおかしそうに瞳を細める。そして顔を近づけ、ぼくの望み通り額に優しく唇を押し当ててくれた。
「……レゴラス、お前は眠っている。だから、すべては夢の中のできごとだ。俺は今だけ、お前の夢の住人となろう。朝陽とともに消える、陽炎のような幻に」
アラゴルンのその言葉の意味が、ぼくには分からなかった。
彼の黒髪の向こうには、やはり変わらぬ輝きを放つ星々が夜空に散っていた。
世界が、今この場所だけ切り抜かれてしまったかのような錯覚に陥る。これが、彼らの感じる「限りある時間」なのかもしれない。
やがて一度離れたアラゴルンの顔が静かに近付いてくると、慈しむような優しさでぼくの唇に自らの唇を重ね合わせた。頬に添えられたアラゴルンの手のひらが、ほんの少しだけ体温を上げたように思えた。しかし、すべては微風のようにほんの一瞬にして過ぎ去り、アラゴルンはぼくが瞬きをしている間に視界から姿を消してしまった。
ぼくはまだ身動きができない。
彼の言う通り、すべてが夢幻なのだと感じた。
そして、アルウェンを思った。
彼女に贈られるべき一万回のキスのうちのひとつをぼくが受け取ってしまったことを、少しだけ詫びた。
しかしアラゴルンが言うようにこれは夢であるから、ぼくだけの秘密にしようと思った。きっと雲のように軽いぼくの唇は、いつかギムリにだけは囁いてしまうかもしれないけれども。
――人は強い。
こうして、他者との戯れの中に愛する人を思っているに違いない。
ぼくの唇を越えて、恋しい人に愛を囁いたに違いない。

ぼくはゆっくりと目を閉じた。
周囲が闇に閉ざされた。
眠りではなく、悲しみの意味を、ぼくは見つけ出してしまったのかもしれない。

2004年04月07日(水)



 アラレゴ小説第二弾

ガンダルフの死。泣きじゃくるホビット達と、途方に暮れる人間とドワーフ。その中で一人だけ困惑の表情を浮かべた者がいた。
若いエルフに、「死」の定義は存在しない。「消えること」「いなくなること」「姿が見えなくなること」それらが「死」とどう異なるのか、きっとレゴラスは解からない。
だから、ガンダルフが死んだことを理解できない。
不死の命を持つエルフには、受け入れられない。
死とは、「虚無」なのだということを。

 
◆永遠と刹那 ◆


「レゴラスはどこだ?」
「ガラズリムたちのところへ行ったきり戻ってきてないぞアラゴルン。久しぶりに仲間にあって、里心が付いちまったのかもしれんな」
そう答えたギムリは少しつまらなそうな顔をしながら、自慢の斧の手入れを続ける。ロスロリアンの辿り付き、ガラドリエルとケレボルンへの謁見を果たした後、エルフ達が噴水の近くに張ってくれた大きなテントの中で、旅の仲間達は失ったガンダルフへの哀悼をおのおの噛み締めていた。フロドは口数が減った。サムはそんなフロドの側から離れようとしない。メリーとピピンは元気に振舞ってはいるものの、その小さな瞳には親を失った幼子のような不安や戸惑いを常に浮かべていた。ボロミアも同じだ。だが彼はそれ以上に、ガラドリエルの存在を強く意識していた。心の中で葛藤を続けているのだろう。彼自身、自分が日に日にフロドが持つ指輪の力に吸い寄せられていることを強く自覚しているのだ。抗いたい気持ちと、世界を覇する指輪を手に入れたいという甘美な欲望。ゴンドールの栄光を誰よりも強く願うボロミアだからこそ、どうしようもない焦りと苛立ちにさいまれているのだろう。傍らにいるアラゴルンには、それが痛いほどよく分かっていた。
そのボロミアは今、テントの中で静かに仮眠を取っている。彼の眠りが、今この時だけでも安らかであることを祈りたい。
「あいつは……もう旅に加わらないかもしれないな。そう思わんか?」
ボロミアの眠るテントを眺めていたアラゴルンを見上げ、ギムリが斧を研ぎながら言った。彼もまた、ガンダルフを失った戸惑いを押し隠し、武器に磨きを掛けることで彼の弔いを果たそうとしている。強い男だ。
「あいつ? ボロミアのことか」
「違う。尖がり耳のエルフのことだ。裂け谷でエルロンドが言ってたじゃないか。この旅は決して定められたものじゃない。抜けたくなればいつでも抜けていいってな。あの王子様には、少し辛すぎる旅になっちまったんじゃないのか。エルフってのは死なないんだ。死ぬってことがどういうことなのか分かっちゃいない。ガンダルフが逝っちまったときのあいつの顔覚えてるかいアラゴルン? ありゃショックを受けたというより、何がなんだかわけが分からなくなっちまった顔だ。見知らぬ場所で突然置いてきぼりをくらった子供みたいにな」
「あんたは優しいな」
アラゴルンが言うと、ギムリはふんと鼻息を荒くした。
「とにかく、あいつにはこれ以上旅は無理だ。おれはそう思うがね」
「俺も無理させるつもりはないよ。彼の意志を尊重しよう」
「これでやっとせいせいするわ」
それが強がりだということは、彼の淋しそうな顔を見ればよく分かる。アラゴルンが知らないうちに、彼らは誰よりも強い友情を深めていたのだろう。アラゴルンは斧を研ぎ続けるギムリの肩を軽く叩いてテントの外に出た。
美しいロスロリアンの森。陽光よりも優しく、月光よりも暖かな光がきらきらと辺りの深き緑を照らし出し、幻想的な景色をより一層荘厳なものに見せていた。指輪の恩恵を得た森の姿だ。何度か赴いた闇の森も息を呑むほどの美しさがあったが、そこに住むエルフ達には優雅さよりも強さが際立ち、天恵の力を借りずとも自らの手で森を守り抜く潔さが存在した。
アラゴルンはそこから生まれた若きエルフの姿を探した。
まだロリアンへの滞在は幾日か続きそうだったが、それほどゆっくりとしている暇もない。できれば、早いうちに彼の意志を確認しておきたかった。
共に旅を続けるのか。あるいは――ここに残るか。
しばらく北方へ向かい歩き続けてみたが、時折西方の言葉で歌われたエルフの声が響き渡るだけで、レゴラスの姿は見当たらない。上ばかりを見て歩いていたために、首も痛くなった。
アラゴルンは仕方なく一息吐くと、少し声を高くして「レゴラス」とその名を呼んだ。エルフの耳にならば、このくらいの声は風に乗って届くだろう。案の定、さほど待つこともなく木々の間から金色の髪が覗いて見えた。
「ぼくを呼んだのは君だねアラゴルン」
「どこにいた?」
「ハルディアと一緒に北へ。悪しき者達の気配が強かったから」
歌うようにそう言ったレゴラスは、手に持っていた弓を背に差しながら近付いてくる。ロスロリアンの森にも愛された北方の国のエルフは、今まで以上にその美貌が際立っていた。金色の髪は綺麗に結い直され、彼の動きに合わせ波のように麗らかに靡いた。
「少し話しがあるのだが」
「針路の相談ならば、皆とともに聞こう」
「そうじゃないんだレゴラス。お前のことだ」
「ぼくのこと?」
不思議そうに小首を傾げたレゴラスだったが、「じゃあ、あの辺で話そうか」と樹木の間に開かれた野の窪地を差し示す。アラゴルンは頷いて、彼に従った。
レゴラスは背負っていた矢筒を傍らに置くと、太い木の根にちょこんと座る。アラゴルンはレゴラスに向かい合うようにして腰を下ろした。
「話っていうのはなに?」身を乗り出し、無邪気に訊いてくるレゴラスの姿を見ていると、彼がガンダルフの死を忘れてしまったのではないかと少し心配になる。ギムリと話したことはすべて杞憂だったのか。しかし、仲間の死を全く意に介さない人間を、今後仲間として呼んでいくことができるのだろうかと、新たな不安が胸を過ぎる。
「レゴラス、お前は最近みんなを避けてないか?」
「避けてる? なぜ?」
「ロスロリアンに着いてから、ほとんど姿を見かけない。こうして名を呼ばないと、話すことすらできない」
「それは……」
初めてレゴラスが口篭もった。やはり、図星なのだろうか。
「ガンダルフが死んだことを、お前はどう思ってる?」
「もちろん悲しいよ。悲しいに決まってるじゃないか。彼はぼくたちの先導者だった」
「じゃあなぜ、旅の仲間と悲しみを分かち合おうとしない」
「待ってアラゴルン」
レゴラスはそう言うと、透き通るような蒼い瞳でアラゴルンの顔を見つめた。こんなに間近で彼をまともに見るのは初めてだった。白い肌と、神が創作したとしか考えられない美しい相貌。レゴラスは長い睫毛を僅かに震わせた。
「あなたは、ぼくを誤解しているね。ぼくが若いエルフだから、人間の痛みが分からないと思っている。死ぬということを理解できないから、ガンダルフの死を悼まない。あなたはそう思っているんだ」
「そういうわけじゃない」
レゴラスは小さく首を振った。
「嘘はあなたらしくない。確かに、ぼくは君たちと比べたら、死ぬということを身近に感じられないかもしれないね。けれど、胸を締め付けるこの痛みは君たちとなんらかわるところはないよ。誰かを失うということは、とっても悲しいことだもの。辛くて、辛くて、息もできなくなるくらい」
レゴラスは膝の間で両手を重ね合わせ、何かに耐えるようにぎゅっと握り締めた。
アラゴルンは、彼を誤解していたことに気付く。陽気で天真爛漫な普段の彼の姿とは掛け離れたその悲痛な声は、決して贋物などではなく、彼の心もまた自分達と同じように深い哀しみに満ちていることを思い知らされた。
「……すまないレゴラス。実を言うと、お前が旅を止めてロリアンに留まりたいと思っているんじゃないかと、それを確かめにきたんだ」
「なんてひどい! ぼくが皆を裏切ると思っていたのかい?」
「裏切るとか、そういう問題じゃないんだ。この旅への参加は自由意志と決まっている。もしお前じゃなくて他の誰かがリタイアしたとしても、それは決して責められることじゃないし、もちろん後ろめたく思うことでもない。だから」
「アラゴルン、あなたは」
言葉を遮るようにレゴラスが声を上げた。「あなたは……ぼくが前に言ったことを覚えているかい? どんなことがあっても、あなたを守るといったぼくの言葉を、あなたは忘れてしまっているの?」
「もちろん覚えてるさ」
アラゴルンはそう言って、真っ直ぐに見つめてくるレゴラスの瞳を受け止めた。
「エルフは一度交わした約束を決して破らない。永久に生きる種族には、嘘も偽りも何の意味も持たないからね。真実だけを伝えるためにぼくたちの声はあるんだよアラゴルン」
「レゴラス……」
「ぼくはアルウェンにも約束したんだ。君と友に旅に出ることができない彼女のために、ぼくがこの手であなたの愛する者を、国を統べるべき王としてお返しすると」
レゴラスはそう言うと、僅かに視線を足元へと落とした。組み合わされた手は、関節が白く浮き出るほど強く握り締められている。いつかの夜、アラゴルンは彼の手がひどく冷たかったことを思い出した。
なぜか今、それを確かめたくなった。アラゴルンは伸ばした手で、レゴラスの手に自分の手のひらを重ねる。触れた彼の手はやはり痛いほどに凍えていた。
「……どうして、お前の手はこんなにも冷たいのだ」
呟くような、問い詰めるような声になった。
「それは……」
レゴラスは戸惑ったような顔をして、その先の言葉を飲み込んでしまった。アラゴルンは、黙って彼の手をぎゅっと強く握り締める。多くの弓を引き続けても決して痛むことのないしなやかな指先が、この時だけは壊れてしまいそうなほど脆く思えてならなかった。王になるべく自分を守ると言い張るレゴラスだったが、アラゴルンは自分の中で彼が守り抜かなければならない存在に変化しつつあることに気付く。
大切な旅の仲間のひとりとして。
そしてこの冷た過ぎるエルフの手を、いつか自分の手で温めることができるように。
今の弱い自分の両手では、まだ何もしてやることができないから。
「――レゴラス、共に戦い、共に生きて戻ろう」
アラゴルンの言葉に、ようやくレゴラスは端麗なその顔に微笑を浮かべた。
「この手は、あなたを待ち望む多くの人達のために捧げておくれよ」
アラゴルンの手から自分の手をそっと引き抜いたレゴラスはそう言うと、木の幹からすらりと立ち上がった。
「ギムリがお前をひどく心配していた」アラゴルンはそんなレゴラスを見上げて言う。
「彼ったら。ぼくが親友を置き去りにするやつだなんて思っていたら、ひどく怒ってあげなくちゃ」
「そうだな」
「これからは出来る限り皆の側にいることを約束するよ」
アラゴルンも立ち上がり、少しだけ低い位置にあるレゴラスの透き通った瞳を見つめて言った。
「ああ、これからは出来る限り皆の側に――そして、俺の側にいると約束してくれ」
含んだ言葉に気付かないレゴラスは「もちろんさ」と笑い、そのまま仲間のいるテントに向かって軽やかな足取りで帰っていった。
残されたアラゴルンは、金色の陽射しに映える若木のような後ろ姿を見送りながら、ひとつ小さく吐息を洩らした。手のひらには、握り締めたレゴラスの細い指先の感触が残っている。自分の中に決して存在してはならない天秤が静かに揺れ始めたことに、アラゴルンは気付いてしまい、それを理性により無理やり押さえ込むことを選んだ。いや――選ぶことしか彼にはできなかったに違いない。
それが、王としての定めなのだから。

+++

「お前はどうしようもない大馬鹿の意地っ張りエルフだ」
「なんてひどい言い種! ギムリ、ぼくは最初から決めていたことだよ。どんなに辛くてもこの旅は続けるってね」
レゴラスに誘われ、共に美しきロリアンを散策していたギムリは、背の高いエルフを見上げるようにして不満げに鼻を鳴らした。顔半分を覆うたわわな黒髭がぶるりと震える。
「アラゴルンはご法度だぞレゴラス。あの男はもう、心を捧げる女性がいる。それも、種族を越えた尊い愛がある」
「何を言っているのギムリ? おかしな人だね。アラゴルンは大切な仲間だよ。あなたや、フロド達と同じように」
そう高らかに言うレゴラスの声が、静かな森に響き渡る。
「それは、エルフ王スランドゥイルの息子の名にかけてか?」
ギムリの言葉に、レゴラスは何も答えずただその端麗な顔に微笑を浮かべただけだった。
「ああ、我が親友よ……」ギムリが空を仰ぐ。
「ぼくはあの人を守ることができる今が幸せだ。それ以上を望むことなんてあるはずがない。アルウェンが永遠を捨て彼のために生きるというその強さは、ぼくには得られないものだもの。二人が一日でも早く幸せに結ばれることをぼくは心から祈ってる」
「だけどお前さんは、エルフの代表として永遠の命を掛けてこの旅に参加している。それも強さに違いない」
「あなたって人はなんて優しい!」
「茶化すんじゃないよエルフの旦那。とにかくおれは忠告したからな。あとはお前の問題だ。旅が終わるまでにその病が綺麗に治っていることをおれは願っているがね」
「エルフが病気になんかなるものかい」
レゴラスはそう笑い、ギムリの肩を拳でトンと叩いた。
兄弟のような絆を持ち始めたこの若いエルフは、少し自信過剰なのかもしれないとギムリは思う。ほら見てみろ。蒼い空を見上げるその同じ色をした瞳がやけに切ないじゃないか。エルフにとって人間の一生など瞬く間に過ぎていくものだろう。すぐに跡形となく消えていくその一瞬の情火に胸を焦がすのは、あまりに哀れじゃないか。その恋が最初から実らぬものだと分かっていればなおさらだ。
ギムリは先を行くレゴラスの細い背中を見つめた。
我が友よ。
なあ、そう思わんか?
その瞳が追うお人は、あんたのものじゃない。
あんたのものじゃないんだよ、レゴラス。

この時ほど、ギムリは自らの生がエルフとともに永遠に続かないことを悔やんだことはない。彼には、きっといつか深く傷付くだろうレゴラスを慰めていくだけの時間が欲しかったのだ。
叶うことのない願いが、この世には多すぎる。
ギムリは少しだけ肩を落とし、レゴラスの後を追った。
ロスロリアンの優しい風が、そんなドワーフの背中をそっと支えていた。


2004年04月05日(月)



 腐女子的感動映画

パソコン崩壊でヤケくそになった天竜さんは昨日DVDを借りて部屋に篭ってひとり鑑賞会してました。
その中でお薦め作品。
まずはフランス映画「メルシィ!人生」
ゲイじゃないのにゲイだとカミングした冴えない中年男のサクセスストーリー。めちゃくちゃ笑えました。フランスコメディ侮れぬ!昔ですね、ほんとに一時期ですがフランス映画に嵌ったことがありまして、コメディといってもいつものようにシュールな作品なのかな〜と思っていたのですが、ずぇんずぇん違ってですね、ほんとにお腹痛いくらい笑いました。画面に向かって突っ込みまくりです。

もう一本、これはチェコとイギリスの合作映画になるのかな?結構有名な作品だと思うのですが「ダーク・ブルー」1940年代の戦争もの(パイロットもの)です。これはね〜もうね〜、主役の中年パイロットフランタと、新米パイロットのカレルの二人の関係が、ヒイヒイ言っちゃうくらいステキでした。ドイツ軍に支配されたチェコスロバキアの空軍基地から、イギリス空軍へ移り、空を飛ぶことを決めた男二人。結局、ひとりの女性を好きになってしまうことで関係がぎくしゃくしてしまうのですが、それでも互いに互いを想い合う気持ちに胸キュンです。泣いちゃう泣いちゃう。
私のお気に入りのシーンは、爆撃を受け農場に不時着したカレルを、自分の操縦する一人乗り用飛行機に無理やり乗り込ませ、二人で空を飛ぶ場面。カレルを膝の上に乗せて、「計器が見えん!ごそごそ動くな!」と文句を言いながらも楽しそうに操縦するフランタがかなりエロオヤジっぽくて可愛かったです。カレル役の俳優も坊や坊やしていてコンチクショーってなくらいキュートでした。
そもそも、わたくしチェコの男にはからっきし弱いのであります。

つうことで、興味のある方はゼヒ!どうせ男同士がイチャイチャしてる映画しか観ていないけどさ!

2004年04月04日(日)



 ショック!

すいません、とうとううちのパソコンがブチ壊れました(泣)
えっとですね、今メールの受信ができません。申し訳ないですが、ご用件やご連絡のある方は掲示板にカキコしてくださいませ。

今週中にでも急いで買い換えようと思っているのですが、小説の更新がちょっと危ういです。何週間かネット落ち状態になるかもしれません。とりあえず、日記だけは会社からでも書けるので、何かあればここに書いてゆきます。どうぞちょくちょく覗いてやってみてください。場繋ぎアラレゴ小説だけは書けたらここにアップしてゆきますね。

2004年04月03日(土)



 オリジナル「隔世の証」十五話目アップ

さ〜て〜、隔世十五話目アップです。今日は仕事でムー民とスナフ禁に囲まれていたので心はメルヘンです。しかし、小説の内容には反映されていませんのであしからず。

2004年04月01日(木)



 ヴィゴ再来日記念!

ヴィゴに「ハルウララタスケテネ〜」とか言わせてる場合じゃないですズェ!!<ちょっと笑っちゃったけどさ!

ということで、ヴィゴがヒダルゴのプレミアで再来日しました。嬉しいですね〜。髪の毛がちょっと伸びて受け受けしいことこの上ないのですが(笑)、相変わらずカッチョイイです。武幸四郎になればヴィゴに花束渡せるのかと思うと、今から乗馬クラブにでも入ろうかと考えてしまいます。というかその前に頑張れダイエッツ!

ああ〜、違うんです違うんです。こんなアホなことを言いたかったわけではなく、ヴィゴ来日記念!つうことで書きましたよアラレゴ小説イエー!<関係ないし。
(中途半端に読んだ)小説と映画がごっちゃになって、キャラがこれ以上ないほど曖昧ですが、まあそれはそれこれはこれ。
お目汚しですが、よろしければどうぞご一読。
とりあえず始まりということで。

************

◆その指先に生まれる気持ち◆

無邪気で奔放。どこまでこの指輪を捨てる旅の深刻さを理解しているのか傍目には分からない。草一本さえ生えぬ不毛の大地を歩き続けても、躰の骨という骨を芯から凍らせてしまうような吹雪の中でも、近付く悪鬼に道を塞がれようとも、この闇の森のエルフは時折場違いとも思えるような涼やかで穏やかな笑顔を見せる。
汚れることのない金糸のような髪を揺らし、まだ幼さすら残る美しい顔で空を仰ぎ、若木のようにしなやかな肢体で軽やかに歩き続けるエルフ。アラゴルンは知らず知らずのうちに、そんなレゴラスの後ろ姿に見入ってしまっていた自分に気付き、思わず苦笑を浮かべる。
「どうしたのさアラゴルン、思い出し笑いなんてしてのんきだね」
敏感に他人の視線を感じたレゴラスが振り返った。そう言った本人が誰よりものんきそうな表情をしているのだが、アラゴルンは大人の分別でそれを受け流した。
「そろそろ陽が落ちる。できれば距離を稼ぎたいが、みんな疲れているようだからな」
「休めそうな場所、探してこようか?」
どこに敵が潜んでいるか分からない。ひとりで行くなとアラゴルンが口を開こうとする前に、レゴラスはボロミアと一緒に先頭を歩いていたガンダルフに声を掛けながらさっさと列から離れていく。まったく、この若いエルフは人の話を最後まで聞くということを知らない。何度言っても直らない。
「まったく落ち着きのないやつだ。あんなエルフは中つ国じゅうを探しても一匹だけに違いない」
アラゴルンの言いたいことをすべて代弁してくれたのは、隣を歩いていたドワーフ族グローインの息子ギムリだった。エルフとは犬猿の仲だが、レゴラスを相手にすると少々勢いを削がれてしまうのか、不満そうな声の中に険悪さはそれほど含まれていない。
アラゴルンは微笑んで、そんなギムリの肩をポンと叩く。
しばらく歩き続けると、前方に見える小山の頂に細い影が揺れた。
「みんな早くおいでよ! この下の緑は深くて暖かい」
決して声を張り上げているわけではないのだが、風に乗ってレゴラスの声はよく通る。その声を聞いたピピンとメリーが先を争うように駆け出していった。サムはフロドの後ろを歩きながら、たっぷりと食材の入った荷物を背負い直す。ボロミアは一度レゴラスの姿を確認すると、列から離れて木立の中へと入っていく。薪を拾いに、あるいは食料になる獲物を探しに向かったのかもしれない。ガンダルフは杖をふりふり頂を目指し、ギムリもレゴラスに先を越されたのか悔しいのか、小走りにその後をついていく。
しんがりを務めるアラゴルンは一度立ち止まり、周囲に怪しい気配がないことを確認してから、頂までいっきに駆け上がった。
「ガンダルフ、辺りを少し見てきます」
警戒してしすぎることはない。早速愛用のパイプを燻らせはじめたガンダルフは、もじゃもじゃした眉毛を動かしながら、「用心してゆけよアラゴルン」とだけ答える。彼の頭の中は、今後の針路のことでいっぱいだ。皆をできるだけ早く、できるだけ安全に導く魔法使いは、思案顔のまま煙を勢いよく吐き出した。
アラゴルンはひとり丘を駆け下りると、地面にそっと手を置いた。不穏な動きは感じられない。眼にも、耳にも、引っ掛かるものはない。今夜は久しぶりに充分な眠りを皆に取らせることができそうだ。
夕闇に閉ざされ始めた霧ふき山脈を横目に、アラゴルンはもう少し辺りを探索しようと草薮の奥へと入っていく。鳴神川からは幾分東にきてはいるが、端流でも見つけることができれば、水を汲むことも、躰を洗うこともできる。
次第に深くなる草薮をくぐり、アラゴルンは先へ進んだ。後ろを振り返ると、控えめながら細い煙が上がっている。さっそくサムが食事の支度を始めたらしい。荒野で火を使うことはできるだけ避けたいが、最初から皆の安らぎをすべて奪ってしまっては、厳しい旅は続けられないだろう。
しばらく歩くと、徐々に足元の石が丸みを帯びてきた。いい兆候だ。だが、アラゴルンが駆け出そうとするのと同時に、その行く手を遮るように前方の岩陰からひらりと何かが舞い降りた。
「抜け駆けはずるいな」
悪戯をしようとした我が子を見つけた母親のような笑みを浮かべたその人は、両手を腰に当ててアラゴルンの目の前に立ち塞がる。
「人聞きが悪いなレゴラス。周囲にひそむ者がいないか確認をしているだけだ」
「水はなかったよ。残念ながら」
アラゴルンの言葉を先回りして、レゴラスは小さく肩を竦める。「川が流れていた跡はあったけどね」
「そうか。水があればいい休息になると思ったんだが」
「朝露で喉を潤せばいい」
アラゴルンは笑う。「皆がエルフであればな。ホビットもドワーフも、それじゃあとても物足りないだろう」
「まったく不便な生き物達だ」
神に愛された種族は、そう言って優雅に身を翻すと、皆が集まっている頂とは反対方向に進んでいく。
「どこへ行くつもりだレゴラス」
「あなたが欲しいというのなら、もう少し水を探そうかと思って。湧き水ならばどこかにあるかもしれない」
「無理をするな。いくら疲れを知らないといっても、皆が休んでるときはお前も休め」
「それはこっちのセリフだよアラゴルン。人間は人間らしく、ゆっくりと休んでいればいい。君は少し頑張り過ぎている。そしてぼくを頼らないなんてどうかしてる」
レゴラスはそう言うと、青い瞳を少しだけ細める。怒っているのか? 珍しい。
「臍が曲がってるぞ」
「失礼な。見たこともないくせに」
まるで子供相手の喧嘩だ。二千年近い年月を刻み続けてきたであろうその双眸に、年輪や老齢の陰は微塵も見られない。誰よりも冒険好きで、好戦的で、好奇心旺盛なこの若いエルフは、ある時は人間以上に人間くさい言葉を発し、すました顔をしている。手に負えない。
「いいから、戻ろうレゴラス」
「皆のもとへ? それならばひとりでお帰りよアラゴルン。ぼくはもう少し探してみるから」
「その我が儘な口を糸で縫い合わせるぞ」
「できるもんならしてみなよ」
つんとした顔で言い返したエルフは、そのままふわりと飛び跳ねると、現れ出たときと同様、一瞬のうちに姿を消してしまった。
アラゴルンは溜め息を吐く。
エルロンドがなぜ旅の仲間にこの年若きエルフを加えたのか、理解するのにはもう少し時間が掛かりそうだ。草木に守られるように姿を消したレゴラスの姿を見つめながら、アラゴルンはしばし途方に暮れた。

その夜、最初の不寝番を申し出たボロミアに、次は自分を起こすように声を掛けたアラゴルンは、すでに寝仕度を始めた仲間の輪の中に入り、擦り切れたマントを毛布代わりにして草の上に寝転がった。
レゴラスはあの後、一時間ほどして戻り、残念ながら辺りに汲み取れるほどの水がなかったことを皆に報告した。その顔はちょっとむくれていて、アラゴルンとは眼を合わそうとしなかった。意地っ張りなエルフだ。
今は少し離れた場所で、彼も眠りに付こうとしていた。月に照らされた白金の髪が、無造作に横たわっている。
アラゴルンは目を閉じた。躰の疲れを感じるよりも先に夜の闇に誘われ、大きな使命感という重責が胸に沸きあがり、僅かな息苦しさを感じた。命を懸けて守るとフロドに誓いを捧げた瞬間から、自らの運命の歯車は確実に動き出している。野伏として過ごしてきた日々とは比べものにならないほど、アラゴルンは己の宿命というものを実感せずにはいられなかった。そして同時に、裂け谷に残してきた、愛する者の面影が蘇る。アルノール王国とゴンドール王国の統治、それを果たしたとき、彼女を妻として迎えることが許される。だが、それは彼女にとって不死の命を捨て、人間として限りある生を選ばせることになる。彼女が永遠の命を引き換えにするほどの価値が自分にはあるのだろうか。今、アラゴルンには己にそれだけの自信も資格も備わっているとは到底思えなかった。
この旅で、どれだけ変わることができるのだろうか。
答えは、夜の帳に攫われていくだけだ。
やがて、穏やかとは言えないまでも、夜の静けさがアラゴルンのもとへと眠りの気配を連れてくる。抵抗することをやめ、アラゴルンはその自然の意志に自身を委ねていった。

夜風の動きで目が覚めた。
ちょうど、ボロミアがこちらに向かって歩いてくるところだった。アラゴルンは今まで自らが横たわっていた場所を眠たそうな顔をしたボロミアに譲り、見通しがきく頂に腰を下ろした。不穏な気配も、今はまだ何もない。
神経を周囲に張り巡らせたまま、アラゴルンはパイフを咥えた。メリーから分けてもらったパイプ草の甘い香りが鼻腔を擽り、瞼に纏わりついていた睡魔も自然に成りを潜めていく。闇に向かって煙を吐き出しながら、そのゆるやかな流れを目だけで追った。
「アラゴルン」
そのとき、不意に背後から声を掛けられた。アラゴルンは咄嗟に剣の柄を握り締めたが、振り返って声の主を確認すると、溜め息とともに強張っていた躰の力をすぐに抜いた。
「後ろから声を掛けるな」
「びっくりしたの?」
「もう少しでお前の首が飛ぶところだったぞレゴラス」
そう言いながらも、万が一自分が剣を振り翳したとしても、彼であればやすやすとその刃を交わすだろうことは想像がついた。レゴラスは笑いながらアラゴルンの隣にちゃっかりと腰を下ろす。
「まだお前の番じゃないだろう」
アラゴルンが再びパイプを口に咥えながら言うと、レゴラスは抱えた自分の膝に顎をちょこんと乗せ、上目遣いにアラゴルンを見上げた。
「アラゴルン、君は寝なよ。今晩はぼくが不寝番をつとめるから。夜が明けたらみんなを起こすよ」
「いいかレゴラス。何度も言ってるだろう。例えお前が皆と同じように疲れを感じなくても、休めるときに休むのは悪いことじゃないんだ」
「でも、水を見つけられなかった。サムはスープを作れなくて残念がってた。メリーやピピンは服が臭いって文句を言ってた」
「そりゃ自業自得だ」
アラゴルンは苦笑しながら言う。だが、レゴラスは薄く眉間に皺を寄せ、爪先にある小石を軽く蹴飛ばした。
「それに、君はぼくをちっとも認めちゃくれない。ぼくは君たちの力になりたいと願ってるんだ。君と、それにアルウェンの。二人とも大好きだから」
「それはありがたい」
「アラゴルン、あなたは……」
レゴラスはそこで言葉を止め、アラゴルンの瞳をじっと見つめる。それから、ゆるゆると頭を振り、まるで無理に貼り付けたような彼らしくない屈託のある笑みを浮かべた。一瞬、泣き出すのではないかと思えるほど、それはひどく弱々しい笑顔だった。
「あなたは、一日でも早く人間の王にならなくちゃね。そうすれば、すべてがうまくいく」
「簡単に言うんだな」
「簡単さ。君が王になりたいと願えば、きっと立派な王になれる。それは君に与えられた命運なんだ。誰にも譲っちゃいけない、大切な使命だね」
金色の髪が、雲間から覗いた月に照らされきらきらと輝いた。
「ありがとう、レゴラス。こんなふうに励まされるとは思わなかった」
エルフ語で告げた言葉に、レゴラスは「どういたしまして」と同じ言葉で返した。「あなたがフロドを守ると誓ったのと同じ強さで、ぼくもあなたを守ると誓うよアラゴルン」
レゴラスはそう言うと腕を伸ばし、白く細い指先で髭に覆われたアラゴルンの頬をそっと撫でた。冷たい、指先だった。裂け谷を去るときに握り締めたアルウェンの優しい手とは比べものにならないほど、その手は凍えあまりに脆弱に思えた。
その冷たすぎる指先を暖めようと腕を伸ばしたアラゴルンから逃れるように、レゴラスはすっくとその場に立ち上がった。
「ぼくは南を見張ることにしよう。エルフの耳と目で」
微笑んだその顔に、月光が降り注ぐ。
そこには、彼が手にする弓のように、しなやかで凛々しい戦士の顔を持ったエルフがいた。レゴラスはもう一度笑顔を見せると、軽やかな足取りでアラゴルンから離れていく。なぜか引き止めたいと思ったその気持ちは、行き先をなくし夜の暗がりに溶けていった。

アラゴルンが願う己の変化が、まったく思いもしない場所から生まれ始めていたことをこの時の彼はまだ知らない。
願わくは、誰にも気付かれぬうちにその小さな息吹が朝陽に溶けて消えてしまうことを。生まれたばかりの長く悲しい恋の歌は――あまりに美しく、皆の心に残り続けるだろうから……。


************

長くて読みにくくておまけに勢いだけで、ほんとにすんまそん(泣)

2004年03月30日(火)
初日 最新 目次 MAIL