暗号化
スティーブン・レビィの「暗号化」をようやく読了。サイモン・シンの「暗号解読」と合わせると,暗号に関する歴史と技術と人物について,だいたい抑えることができます。スティーブン・レビィは「ハッカー」の著者でもあり,テクノロジーと人間のかかわりに深い関心を持つライターです。
「暗号化」では"公開鍵暗号"と呼ばれる,現在広く使われている強力な暗号技術の話が中心です。アメリカにはNSAという暗号技術を専門に扱う政府の組織があって,暗号に関しては理論を発表したり関連特許が使えない時代が長かったとはね。これがつい二十年ぐらい前の話とは思えない。暗号理論の研究者はみんなNSAに雇われてしまうので,民間ではろくな研究もできなかったわけですが,それが公開鍵暗号の発明によって崩れていくわけです。公開鍵暗号は在野の研究者により発明されたので,この技術の公開を巡り(インターネットが深く関わっている),政府と民間の戦いが始まります。
「犯罪者が強力な暗号を手にしたらどうなるのか」という政府の主張と,「国民は自分のプライバシーを守る権利がある」という民間の主張。ドラマの背後にいる人間を中心に描いていくのはスティーブン・レビィの得意技ですなあ。
2002年08月23日(金)
遠き神々の炎
ヴァーナー・ヴィンジの「遠き神々の炎」読了。厚めの文庫で上下巻なので通勤読書では,けっこう時間がかかった。銀河の片隅で遠い遠い昔に封印された邪悪な意識体を復活させてしまい,こいつが銀河全体を危機に陥れるという,これだけ聞くと昔のSFみたいな話です。
魅力的なのは,銀河は中心から外側にむけて大きく3つのエリアに分かれ,それぞれのアリアで空間の性質が異なるという設定でしょう。中心に近い「無思考深部」では,物質は高速に移動できず,コンピュータもまともに動作しない。中間の「低速圏」(地球もここに含まれる)では光速の壁がありコンピュータは高度なアルゴリズムを実行できない。外側の「際涯圏」では超光速移動が可能で,コンピュータも賢いのですんごい文明が発達している。いやまあデタラメといえばデタラメな設定なんだけど,これが面白いですね。文明は外へ外へと向かうわけです。で銀河の外側は「超越界」で,上位際涯圏に到達した文明が"超越化"した"神仙"の住む場所になっています。
邪悪な意識は際涯圏を浸食して,超越界まで脅かすようになります。そして邪悪な意識と一緒にその対抗策が封印されていたのでないかという推測の基に,邪悪君の封印を解いたところから脱出した宇宙船をめぐって大活劇が始まるわけです。なぜか主人公は女性と二人の子供と集合意識を持つ犬型宇宙人とスケボーにのったワカメみたいなやつ。一体どういう話になるんだかと思いつつガンガンと読めてしまう。キャラがちょっと類型的なのが気に食わないけど,これはストーリーが複雑なのをカバーするためかな。
2002年08月20日(火)
NHKへようこそ
ひきこもり小説「NHKへようこそ」読了。実に不思議な小説ですね。表紙なんかのイメージからSF的な展開(「ワダチ」とか。古いか)をなんとなく予想していたのだけど,全然そうではなかった。
主人公はひきこもりの大学生。唯一の友人が同じアパートの隣に住む二次元ロリの男。ある日新興宗教の勧誘にやってきた岬ちゃんという少女が,主人公のひきこもりを治すと宣言するのが始まり。主人公の行動があまりに馬鹿で笑ってしまう(それもインターネットを駆使した今時の馬鹿なのがよい)んだけど,それだけといえばそれだけの小説。でもけっこうおもろい。評価に困るね。
2002年08月17日(土)
どこよりも冷たいところ
アイルランド人のおっさんと中国美少女の探偵コンビシリーズも早いものでもう四作目。今回はジョン・スミスがメインです(一作ごとに主人公が後退するシステムなのであった)。
ジョン・スミスが潜入するはビルの工事現場。ここで捜査をするためにレンガ工として働くわけです。うーん働く喜び。そこで相棒の若者にうさん臭い目が見られながらもレンガを積むジョン・スミスがなかなかよいです。彼は労働に敬意を払っているからね。工事現場では次々と事件が起き始め,スミスの相棒はスミスを疑い始める..
こういう呼んでいて気持ちのいい小説だと,ミステリーの要件は最小でもいいことが分かりますね。派手なトリックがなくてもちゃんと成立するもの。
2002年07月02日(火)
仮面ライダーSpirits
あまりに熱い「仮面ライダーSpirits」の3巻。このへんに登場するライダーは,ストロンガー,スーパー1,スカイライダーと本放送を一度も見ていないものばかり。それでも読むと感動しちゃうんだよなあ。懐かしむわけでもなく,勝手な話をつくるわけでもなく,それでいて熱い。いやあ素晴らしいです。仮面ライダーに対する愛があるよね。
2002年06月30日(日)
傀儡后
ホラーSF「傀儡后」読了。いやなんとも気持ち悪かったなあ。
大阪が舞台なんだけど,隕石の直撃を食らったので,その周辺は立入禁止になっている。踏み込んだ人間は誰一人帰らない。麗腐病なんつー病気がひろまったり,歯の中に埋め込んだ音声装置でインターネット(のようなもの)をアクセスしたり,仲間うちだけで声を出さずに会話したりする「コミュ」とか,美貌の殺人者(ミーとケイ)を引き連れるヤクザの親分とか,街の風景を文字として認識する「街読み」とか,いろんなキャラが出てくるので誰が主人公かって感じですが,息をもつがせない展開で面白いことは間違いない。キングのノリで行くかと思ったら,最後は意外にSFする展開でびっくりしましたです。
2002年06月25日(火)
リンダ リンダ ラバーソウル
大槻ケンヂの「リンダ リンダ ラバーソウル」読了。十数年前アラシのように日本を襲った「バンドブーム」を描くエッセイのようなノンフィクション(のような小説?)。
イカ天ブームの洗礼を受けている身としてはなんとも懐かしい名前がぞろぞろ。氏神一番とか池田貴族とかクスクスとかね。プロバンドは,ブルーハーツ,有頂天,電気グルーブ,じゃがたら,その他たくさん。大槻ケンジの彼女のコマコとか,グルーピー(ファック隊と言うそうな)の女の子が妙に悟ったセリフを吐くのがおかしい。大槻ケンヂはひたすら情けない。
2002年06月22日(土)
クリプトノミコン 1
ニール・スティーブンスンの暗号SF「クリプトノミコン」の1巻が登場。2ヶ月に一冊のペースで,全4巻の予定らしい。今のところ,どこに話が行くか全然わかりませんな。第二次世界大戦の暗号をめぐる話(重要なキャラとしてアラン・チューリングも出てきます)と,現代のIT起業家の2つの話が交互に語られます。どっちの話もニール・シティーブンソンらしくディテイルが面白すぎるですな。あらゆるところで語られる暗号理論の話もまたオモロイです。最近2巻が出ました。
2002年06月15日(土)
地球・精神分析記録
うーん懐かしい。山田正紀の傑作「地球・精神分析記録」を再読。徳間デュアル文庫はこうした過去の傑作を続々復刊しているので楽しみです。
人類が集合的無意識を失ってしまった未来,それを補うために4体の神話ロボット(悲哀,憎悪,愛,狂気)が作られた世界..という設定で痺れまくった記憶があります。今読んでみると「狂っているのは自分なのか世界なのか」という自己認識がテーマとなっていることに気づいたりして(読んだのは中学生とかですからね)。エンターテインメント性はいまいちって気もするし,ところどころ古臭い記述もあるけど,こんな誰も書いたことの無いSFを平気で書いちゃうんだもんなあ。やっぱり山田正紀はすごいや。
2002年06月10日(月)
銀河英雄伝説外伝 2,3
「銀河英雄伝説外伝」の2巻と3巻を読む。これぐらいだったら1冊にまとめて欲しいところなどと文句をいいつつ一気に読んでしまった。若きラインハルトとキルヒアイスの活躍を描くシリーズだが,ここではついにヤン・ウェンリー登場。やがて本編へと続く盛り上がりを予感させている。しかし,なんだなあ。田中芳樹は,ラインハルトとかヤンのような萌えキャラもヴついが,なんといっても嫌な奴を書かせると天下一品ですな。これだから主人公キャラがひきたつというものです。
2002年06月01日(土)
ま2の本日記
/ ま2