煙の殺意

『煙の殺意』読了。ずっとずっと昔にハードカバーで読んだけど,構成が違う気がするので,文庫で新刊になったのを気に読み返してみた。これ読むと,ますます大阪圭吉の悪いところが見えてくるなあ。

泡坂妻夫の短編は,短いながらも魅力的な謎があり,印象的なキャラがいて,読者を引き込むプロットがあり,合理的で意外な解決がある。短編推理小説のお手本ですね。表題作『煙の殺意』には,異常にテレビが好き(殺人事件の現場でデパート火災の中継を見ている)な刑事と,異常に死体が好きな検死官が出てきて笑わせながらも,そのキャラがまた伏線になっているあたりが実に素晴らしいです。
2001年12月10日(月)

『銀座幽霊』

『銀座幽霊』読了。いやお久しぶりの大阪圭吉。大学のころ雑誌「幻影城」で「三狂人」を読んだときはかなりショックを受けたんだけど,今読むとなんてことない話だななあ。

この人は決定的にキャラが弱くて,プロットにも凝らず,事件をそのまま投げ出して,すぐ解決篇といった感じの短編ばかりですね。後半(この本では発表順に短編が並んでいる)の方になるとトリックがなくなってくるのに比例するように,話が面白くなる気がする。ミステリがつまらないのはトリックがあるからだ説。
2001年12月08日(土)

『ひきこもりマニュアル』

『ひきこもりマニュアル』を読む。別にひきこもりになる予定は無いが,クソゲーハンターこと阿部広樹が書いているので買ってみました。マジなのかふざけているのかよく分からないが,ポジティブで正しいひきこもりを目指したマニュアルらしい。いやしかし「間違ったひきこもり」の実例があまりにすごくて,そっちばっかり読みたくなっちゃうな。
2001年12月07日(金)

ピュア・ダイナマイト

『ピュア・ダイナマイト』読了。ナニをとち狂ったかダイナマイト・キッドの自伝を出す出版社があるとは。しかもエンターブレイン。よく分からん。

ダイナマイト・キッドは,20年ほど前に日本で活躍したプロレスラーで,大ファンだったんですよー。端正な顔立ちに,長い金髪,小柄だが鋼の肉体,そしてブチ切れたような過激なファイトが売りでござった。初代タイガーマスクと名勝負をくりひろげたけれど,後に全日に移籍したため,自然と見なくなってしまった。そのキッドの自伝なんだから読まないわけにはいかない。

これを読むとキッドって,ひどい悪ガキというか悪ふざけが好きなのね。トラブル・メーカーでもある。おまけにステロイドとクスリをやりまくり。最後には心臓発作を起こし,ステロイドの副作用で歩行困難になってしまう。まさにザ・自業自得。とんでもないやつなんだけど,読んでいると感動するんだよなあ。それはやはりキッドのプロレスにかける熱意のためでしょう。勝ち負けではないところでプロレスをとらえているのもいいし。日本をやたら誉めているのは翻訳されるのを意識していたんでしょうか。引退直後の肉体の衰え方は衝撃的ですな。うーむ。
2001年12月03日(月)

妖異金瓶梅

山田風太郎の『妖異金瓶梅』が復刊されたので読む。もう風太郎節全開。西門慶は金持ち&&大の好色家で,自分の邸宅に妾を6人も7人も住まわせている。この館で起きる怪事件を,西門慶の友人兼幇間の応伯爵が解決するという趣向の連作短編です。

山田風太郎の手にかかると,この馬鹿馬鹿しい設定が怪しい魅力あふれる舞台に変貌するからまったく不思議なものですな。ミステリとしても楽しく読めるし,メロ(エロ?)ドラマとしても面白い。後半は水滸伝とリンクしていくというおまけつきで,まあこんな小説山田風太郎以外にはとても書けないでしょう。
2001年11月19日(月)

ゲームの話をしよう (2)

『ゲームの話をしよう』の第二巻を読了。これは週間ファミ通で私が一番楽しみにしている連載を本にまとめたもので,よく考えれば全部読んでいるんだけど,面白いのでつい買ってしまった。

ゲーム関係者へのインタビュー集なんだけど,1つのインタビューが比較的短いのがかえっていいですね。ファミ通の編集者や,ごく一般の人へのインタビューが含まれているのが特徴で,一巻では小学生インタビューが爆笑ものだったけど,今回はまったくゲームに興味が無かったのにPS2を買ってしまった夫婦へのインタビューが笑えます。夫婦してハマリまくったゲームが初代リッジだったり。

読んでいて楽しい本ですな。
2001年11月15日(木)

インターネットと宗教

だいぶ前にお茶の水を探し回ってやっと見つけた『インターネットと宗教』をようやく読了。いや,面白いっすね。ヘブンズ・ゲートのようなカルト,ペイガン(カルトのような破壊性を持たない非キリスト教の総称),そしてイスラムなどを取り上げている。インターネットとの関連はあるようなないような。

イスラムに関しては目ウロコの記述だらけ。原理主義(fuandamentalism)は,元々キリスト教原理主義を指す言葉で,"イスラム原理主義"という呼び方は正しくない。"イスラム復古主義"などと呼ぶべきである,とか。またイスラム教は寛容と共存の宗教であり,それはなによりアメリカにいる500万人のイスラム教徒の存在が示している,とか。中絶反対を叫んで中絶医を殺害するキリスト教原理主義者と,イシラムテロリズムの何が違うのか,とか。

インターネットの世界も含めて,日本から見た世界があまりにアメリカ中心(例えばインターネットを使ったとしてアメリカ以外のサーバは少ない)なので気づかないが,アメリカは先進国の中でも例外的といえるほどの大宗教国なんですね。その中でも,世俗主義と原理主義の対立があるとか,いろんな指摘がなされています。

これを読むと,今回のニューヨークテロ事件は,宗教戦争(ブッシュを支持するキリスト教右派は最初からイスラムと戦争したかった)としか思えない。ううむ。
2001年11月10日(土)

怪文書

『怪文書』読了。いやあ面白いなあ。「怪文書」とは,出所不明の誹謗中傷文書のことで,芸能ネタ,政治ネタ,企業ネタといろいろあります。筆者は元週刊誌の記者で,実際の大事件を暴くきっかけとなったさまざまな怪文書を収集・分類・解説しています。週刊誌の記者ってこんな面白いものが読めていいなあと思ったけど,怪文書だけ読んでも面白さはいまいちなんだよね。真実とつき合わせてはじめて迫力が出るというもの。こういう本の形で解説つきで読めるというのは幸せであるな。しかし,ここにも『アダルト系』で出てきた"日本でただ一人自分でブラックジャーナリストを名乗る男"登場。このおじさんなかなかいいキャラしてますね。

むかしむかし名前だけ聞いてとっても興味をそそられた「宮中某重大事件」とは,なんと皇太子妃の家系に色盲の人間がいるという怪文書の事件だったとは!
2001年10月26日(金)

レヴォリューション No.3

『レヴォリューション No.3』読了。お・も・し・ろ・す・ぎっ。電車の中でのんびり読んでいるつもりだったが,1日で読みきってしまった。もうなんといってもリズムがいいよね。読んでいるだけで気持ちよくなってくるようなリズム。『GO』はまぐれじゃなかった。在日韓国人というテーマは,この作者にとって必然ではないような気がしていたけど,『レヴォリューション No.3』を読んで感じたのは,やはりこのリズムは「日本に在らざるもの」を描くために必要となったんだろうなあってことです。ドン・ウィンズロウとかハーラン・コーベンなどの,西海岸ハードボイルドを想起させるようなビート感は,日本的なものを拒否するためにどうしても必要だったんだろうね。

三流高校のガキどもを主人公にした3つの短編が納まっているけど,全然リアルじゃないんだよね。こんな高校生いるか?って感じ。例えば「池袋ウェストゲートパーク」にあったリアル感はない。それでも面白い。こんなやつらがいたら面白いじゃんという楽しさかな。ワタシ的には文句ないっす。
2001年10月23日(火)

盤上の敵

『盤上の敵』って,エラリー・クィーンの小説にあったよね。こっちは北村薫。ミステリはミステリなんだけど,トリックというよりプロットのひねりで読ませるタイプ。

主人公の自宅に殺人犯が立てこもってしまう。自分は外にいて,奥さんが家にいる。主人公はTVディレクター。このシチュエーションから,チェスのように駒が動き出します。前半は,いったいどこに着地するのか分からないような話が続くんだけど,特筆すべきはここに出てくる悪意の塊のようなある人物でしょう。怖いっす。その人物がいったい事件と何の関係があるのか..ラストまで気が抜けないですな。作者本人が前書きで書いているように,さわやかな読後感を求める人には不向き。
2001年10月22日(月)

ま2の本日記 / ま2