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diary
2006年05月24日(水) xxxanyside rainbow
〜わたしは、わたしは、あなたしか愛していない
それでも、わたしは、あなたしか愛していない〜
古いシャンソンを口ずさむ。たしかこういう意味だった。けれど、それが本当にそういう意味だったかは、わからない。おれは日本人だし、それをうたってくれた女のひとはアメリカ人で、フランス語を少しも知らなかったから。だから、彼女がよくうたっていたそのうたの意味を聞いたとき、彼女が教えてくれたことも、でたらめだったかもしれない。彼女が気持ちを勝手に意味として教えたのかもしれない。そして、まったく意味はなく、ただ、言ったのかもしれなかった。どちらにしろ、ここは日本で、彼女はもういなくて、おれはひとりで、どことなく、つらかった。
少女が現れたのはそんなころで、おれはひとりでギターを弾いてうたをうたっていた。少女というほど少女の年齢ではなかったけれど、無邪気な感じは少女そのものだ。
少女は、鈴が鳴るような名前だった。
覚えてないけど。
「あなたは強くてあなたは弱い。お望みならば、側にいましょう」
そして、望んだ。
少女はおれの痛みも苦しみも、なにひとつ知らず、ただ、暖かくてやさしい。それだけの存在として、側にいた。痛みも苦しみも、知って欲しい種類のものと、そうでない種類のものがある。けれど、それに関わらず、少女はそれを知らないでいた。知らせなかった。それは酷く醜くて、それは酷く自己中心的だから。結局、こわかった。結局。
少女は誰に対しても同じように、あたたかく、やさしく接する。
「そうすると、みんな好きだって言ってくれる。そうすると、うれしい」
打算ではなく、無邪気で、本気。少女だから。
側にいて欲しいと思ったが、衝動は。
ある日おれは神様にお祈りを捧げる。少女があなたの使わしたものならば、おれの元から去らせてくださいと。
そうして、少女は去ってしまった。
そこにはなんにも残らなかった。
「偉かったねぇ。大切だったのに、失くしたんだねぇ」
「あれはね、傷つけちゃいけない。おれにだって、そのくらい、わかるんだ」
「だけど、衝動は」
「だから。犯しちゃいけないものだろうと、欲ってのは・・・・・・抗えないことがあるんだ」
「癖を治さなければ、エンドレスだよ」
「また、同じことが?」
「・・・・・・だって、うたうんだろ?」
〜わたしは、わたしは、あなたしか愛していない
それでも、わたしは、あなたしか愛していない〜
「うたを失くしたら、なにが残るかな」
「なんにも残らないさ。なんにもね」
誰かを傷つけて、無垢なものを知らずうちに汚していって、耐え切れず、切り離したり。
意味はあるの?
意味なんて、いるの?
そして、空に、虹。
本当に欲しかったのは、星空だっけ。
2006年05月19日(金) くちかず
「『なんか言えよ』ってことばなんか言わないオトコがいいわ」
彼女はうたうように言った。
「今のひとも前のひともその前のひとも、ぜったい言うの。ううん、普段は言わないわ。だからわからないのよね。でも、オトコノヒトってぜったい言うの。いつ言うかって?自分が都合悪くなるといつだって!!!」
相変わらずうたうように、でも、心底腹をたてているように、そしてどこか悲しそうに淋しそうに、彼女は言う。
「『なんか言えよ』なんて、変なことば。言うことないから黙っているのに、言うことあれば、いつだって言うのにね。オトコノヒトって、可笑しいわ」
そう、本当に、オトコノヒトっておかしい。
今のひとはおふとんのなかで言った。
「なんか言えよ、なんか話せよ」
そうしてあたしがなんにも言わないと、仕舞いに泣き出した。こわいと言った。
前のひとは新宿駅のホームで言った。
「なんか言えよ、なんでもいいよ」
そうしてあたしが飛行船が飛んでいるねと言うと、それがどうしたと怒り出した。あたしは取り残された。
その前のひとは神社の境内で言った。
「なんか言ってよ、声を聞かせて」
そうしてあたしがあなたの奥さんはと言いかけると、言わないでとそのままあたしの唇をキスで塞いだ。
「矛盾してないのは今のひと。やさしかったのはその前のひと。でも、必要だったのは、前のひと、なんだわ」
「オトコノヒトって嫌ぁねぇ。可笑しなことばかり言うんだわ」
彼女はぽつりと呟いた。
「オンナノコってでも、もっと可笑しいね。そんな可笑しなオトコノコのこと、どうしたって必要なんだもの」
嫌になっちゃうわ。ふぅと大きくため息を吐いて、彼女は下を向く。
「なんにも言いたくないときに限って、ほんとうに。それ以外のときは、あたしが喋らなくても気にしないくせにね。自分が喋っているんだから」
オンナノコって、ほんとうに。
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