天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

痛くても - 2004年02月29日(日)

神さまはときどき、大切なことに気づかせるために、とんでもなく残酷な仕打ちを与えてくれる。ほんとにとんでもなく残酷な。

わたしの足の痛みなんか、ダンスが半年出来ないことなんか、全然大したことない。有給休暇は切れたし障害者手当だけでどうやって生活してこうかってわりに、キーボード弾きまくって結構のん気に構えてる。

彼女は。

想像もつかない痛み。

でも強い。強がりだなんて思わない。ほんとに芯から強い人だ。
そして、気づくべき大切なことにもうちゃんと気づいて、変わるチャンスをしっかり見つけて、もう前向きだ。それでも。

わかってるけど。神さまからすればそれは何でもないことで、神さまが彼女のためにプランした曲がり道を、彼女がどんなに泣きながらでも上手く曲がるのを神さまは知ってたこと。それにしても。

それにしても。それにしても。そう思う。そう思うけど、それでもやっぱり信じよう。神さまは彼女に微笑んでくれてる。彼女なら神さまの計画通りに幸せになれる。抱え込んで来たものから解き放されて、一番大切なものはそばに置いたまま。わたしが代わりにジーザスに手を伸ばす。ジーザス、抱き締めて。




膝が痛くて泣いた。教会のミサの間。
痛み止めを持ってくのを忘れて、教会が終わったあとジェニーの従兄弟がお薬を買ってきてくれた。痛みは止まらずに、うちに帰ってぐったりする。

「エクササイズ、無理したんだよ昨日」ってデイビッドが言った。そうかもしれない。早く動け、早く動け、膝まっすぐになれ、そう思いながら必死になりすぎた。あんなに頑張ったのに膝が前より曲がってるような気がして、焦る。「今日は少しだけにしとくよ」って言ったけど、デイビッドは今日は何もするなって言った。何もしないで熱いお風呂につかって足をゆっくり伸ばしなって。でも、焦る。

それからジャックが電話をくれて、2時間くらいおしゃべりした。少し気が紛れた。


「The Passion of the Christ」。絶対観に行かなきゃ。うちの近くの映画館でやってないから困った。近くでやっててもこの足じゃ行けないけど。デイビッドは観ないって言うし。当然なのかな。昨日観に行ったジェニーは、震えて震えて泣いて泣いて、観たあとずっともう何も手につかなかったって言った。ジョセフに頼んでみようかな、まだ観てなかったら。絶対観なきゃ。知りたい。あの12時間。どんなに残酷でも知りたい。観る前にジョンの章をもう一度読もう。


デイビッドの言う通りに、今日はお風呂につかろう。
そして、たくさんお祈りをしよう。


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くせのある呼び方 - 2004年02月28日(土)

1時間のエクササイズを3回。その合間にキーボードを弾く。
突然気温が50°Fまで上がったけど、一歩も外に出てない。っていうか、「明日はあったかいらしいから公園にでも行ってみようかな」って昨日ジェニーに言ったら「やめてー。ひとりで歩かないでよお、まだー」って悲鳴あげられたから行かなかった。

誰からも電話もないし、メールもジャンク以外来ない。ダンス・スタジオからダンス・パーティの案内が来てたけど開かない。それだけは特に開きたくない。

スキーから帰って来てから毎日毎日欠かさずに、ときには1日2回とか3回とか電話くれてたデイビッドも、夜中の12時になっても今日は電話をくれないから、とうとう記録が途切れたかなって思ってた。

12時少し過ぎてかかって来た。今日はマイアミは寒いらしい。って言っても55°F。ここよりあったかい。それでも夜中の通りはジャケット着込んで歩く人でいっぱいで、デイビッドも人込みに紛れて歩いてた。3日間で会うべき人にはみんな会って、あとの3日はインターネット・カフェで仕事しながらのんびり過ごそうかなって言ってた。

足の様子を聞いてくれる。合計3時間も運動したよって言ったら喜んでくれた。デイビッドは進歩を楽しみにしてくれてる。「きみは頑張りやさんだから、きっと進歩が早いよ。1週間ごとに見違えるほどになってくよ」。嬉しそうな声が誰の言葉より励みになる。


突然音楽が聴こえて、カフェでライブ演奏が始まったってデイビッドが言った。聴こえてきたのはルンバ。「あールンバじゃん。踊りたいー」って叫ぶ。「キューバン・バンドだ。ここはね、僕よりもきみにふさわしい街だよ。キューバの音楽、カリビアンの音、サルサ、ルンバ、メレンゲ、チャチャ。すべてがスパニッシュで僕は自分の国にいながら外国人みたいな気がしてる。きみはきっと好きになるよ、ここ」「いいなあ。そういえばあたしのサルサの先生、マイアミの人たちのダンスの話をしてくれたよ」「いいの? よくないの?」「いいんだよ」。って、ほんとはよく覚えてない。

「あたしはそういう音楽、今うちで聴かないようにしてるんだ」「今クラシックだろ?」「そう。クラシック」。今日も足の運動の BGM はオスカーさんが貸してくれたバッハの CD。ヒップ・ホップさえ、踊りたくなるから聴かない。こういうときのクラシックはとてもいいような気がする。癒し系音楽は一番ダメ。逆にずぶずぶ落ち込む。

歩きながら、「David's Cafe No. 1」って名まえのカフェがあるってデイビッドが笑った。全然知らない街を勝手に思い描いて、デイビッドがほんとに外国にいるみたいな気がした。


「おやすみ、デイビッド」。そう言ったらデイビッドも「おやすみ」のあとにわたしの名まえを呼んだ。不思議だね、わたしの名まえを呼ぶ呼び方はひとりずつ少しずつ発音が違う。わたし、デイビッドのくせのある呼び方が好きだ。


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soon - 2004年02月27日(金)

今日はフィジカル・セラピーに行かない日。だからまたいつまでも寝てた。
ゆうべ CPM が痛くて痛くて、夜中に何度も目が覚めた。それでも機械を止めないで、角度をゆるくしてみたり痛み止めをまた飲んでみたり。そんなだったから、いつの間にか眠ったあと、もう起きられなかった。

お昼休みに病院からジャックがくれた電話で目が覚めた。
隣でフィロミーナの声が聞こえて、ああみんな仕事してるんだ今日、って、「フィジカル・セラピーはない日」なのは分かってるくせに世の中の金曜日のこと忘れてる。

起きて膝をホット・パックであっためて、足の運動を始める。マイクロウェイブを買ったから、それでホット・パック作って。買ったっていうか買わされた。病院の同僚たちに。ちゃんと料理が出来ないんだからマイクロウェイブは必須だ、今どき持ってないなんて信じられない、ってみんなに散々言われた挙げ句、アニーのオフィスのアニーじゃない方のアニーが BJ でパナソニックの安いの見つけてきておととい持って来てくれた。50ドル。超特価。パナソニックだからイイやつだよ、うちのなんかサムソンなんだから、とか言って。

日本離れてから13年マイクロウェイブなしで生活してきて、それが密かな自慢だったのに。でも便利だ。嬉しくて使いまくり。

ジェニーが電話をくれる。昨日持って来てくれたマフィンとかブラウニーとかそういうの、「マイクロウェイブであっためるよ」って言って笑わせる。「そうしな。あ、あっためてアイスクリーム乗っけて食べなよ。コーヒーも沸かしてさ」「そうだ。朝沸かしたコーヒーの残りがあるからさ、マイクロウェイブであっためよ」。いろいろ研究して「マイクロウェイブを効果的に使う方法」って本書こうかって言ったら「そんなもん20年前に出てるよ」って言われた。「生たまごは入れちゃいけないんだよ、破裂するから」って、知ってるってそのくらい。


足の運動、また泣く思いで頑張る。痛い痛い痛い。痛くて、それにもどかしい。早足のデイビッドを必死で追いかけるように歩くことも、ナターシャと3人であの岩の山を登ることも、いつになったらまた出来るようになるんだろ。それに・・・。


「風邪が治らないのは知ってたけどね、それでもちっとも会いに来てくれないから、ほかの子とセックスしてるんじゃないかって思ってた。だってあたし役に立たないから、今」。こないだそうメールに書いたら、「仰向けに寝るか口開けるか以上に必要なことがあるか? 誰が足を必要とする? ポール・マッカートニーの新しい奥さんは片足しかないっての知ってるだろ? 僕は誰とも会ってないよ」ってデイビッドは書いてきた。だったら抱いて欲しい。仰向けに寝るか口開けるかしか出来ないけど。足絡めて眠りたい。痛くても我慢するから。


1セット運動して、キーボードを弾く。「次はこれ練習するんだ」ってちょっとだけ片手で弾いてみせたショパンのあれ。日本語の題名覚えてない。ターンタタン・ターンタタン・タンタタタン・タタタンタタ・タンタカタン・タンタカタン・タンタカタン・ターンってやつ。デイビッドが帰ってくるまでに全部弾けるようになりたい。

もう1セット運動してまたキーボードに戻ったら、携帯が鳴った。


ちょっといる間にたくさんのたくさんの人たちと知り合ってる。そうやってどんどん可能性広げて、確実に仕事大きくしてってる。その上ウィンド・サーフィンしてカヤックしてローラーブレイドで14マイル走って。いいな。いい。デイビッド、いい。

「See you soon」って、切る前にデイビッドが言った。「soon じゃないじゃん」「soon だよ」。だからわたしも「See you soon」って元気よく言う。

まだ2日目だよ。あと4日もあるよ。


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愛したっていいじゃん - 2004年02月26日(木)

返事を出そうと思いながらどう書いたらいいのかわかんないまま、書いては消して書いては消して書いては消して、何時間も費やした。結局返事は送れないままでいる。


きみは解ってなきゃいけない。僕が自由気侭な人間だということを。
きみは知っておかなきゃいけない。僕が、自分はジューイッシュであり、いつかジューイッシュの妻を持って子どもを作らなきゃいけない、というようなことを小さな子どものときからいやというほどプログラムされてきたことを。

ただ、僕は自分自身の生活が最優先でそれが出来ないでいる。少なくとも最近の僕にはそういう願望が全くないだけだ。


それから昨日わたしに少し話してくれたことがもう少し詳しく書いてあった。
冬の間フロリダに生活の場所を移すこと。そのためにフロリダに足を運んでること。フロリダじゃなくても、将来いつかー今は少なくとも冬の間だけー暮らす場所をあたたかい土地に探していること。先月カリフォルニアに行ったのも、それが目的だったこと。もっと探したいこと。そうしながら、ニューヨークを離れながらでも自分のビジネスを続けて現在のクライアントをケア出来る可能性を試していること。いまのところ上手く行ってること。

デイビッドがわたしから離れる時が来る。そしていつかジューイッシュの誰かと結婚する。だからわたしに警告してる。愛しちゃいけないって。愛してるなんて言うんじゃないって。

わたしはジューダイズムを理解したいと思ってる。デイビッドが話してくれるジューダイズムの教えも歴史も、いつももっと聞きたいと思う。それでもジューイッシュにはなれない。絶対になれない。おなじ神さまを信じていても、なれない。わたしにはジーザスが必要だから。そしてジューダイズムは多分、個人的なものにはなり得ないから。

それに、わたしがジューイッシュになったら、っていう問題じゃない。


きみはしっかりエクササイズを続けて、しっかり食べてしっかり眠って、早く足を回復させなよ。そのうちジムにも通って骨と筋肉を強くして、体重をもう少し増やした方がいい。好きなだけダンスもスキーも出来るようになるためにね。


なんだかお別れのときの言葉みたいだった。

もうフロリダから電話くれないのかなって思った。


かけてくれた。3回もかけてくれた。
あんなメールなんかなかったみたいに、普通のいつものデイビッドだった。


わたしは、自分の気持ちに正直でいたいだけ。
それだけ。今をハッピーに生きていたいだけ。それだけ。
先のことなんて考えてもしょうがない。
デイビッドと一緒に暮らしたい夢も忘れる。
だから愛したっていいじゃん。今愛してたっていいじゃん。
今愛してるんだから、愛してるって言ったっていいじゃん。


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悲しいメール - 2004年02月25日(水)

3時頃にナターシャと一緒に来てくれて、それからこの近くの大きな公園に行って、イースト・リバー沿いに水を眺めながら座って、久しぶりにわたしをお日さまの中で過ごさせてくれる。

そういう予定だったらしい。

なのに、レンタカー屋さんの手違いで車を手に入ったのは4時半で、ラッシュアワーに引っかかっちゃったせいでうちに来てくれたのは5時半だった。もう日が落ち始めて公園に行くのは寒いから、車で河沿いの道を走ってくれた。わたしの好きな河沿いの道。

ピアノ聴かせてよ、ってデイビッドは言って、わたしは一生懸命練習したショパンのノクターンを弾く。緊張して間違ってばっか。それでもデイビッドは何度も「もう一度弾いて」って言った。それからデイビッドは即興でチャイニーズっぽい曲とかふざけて弾いて、デイビッドが作りながら弾く曲にわたしが横から音を入れて遊んで、季節はずれのクリスマス・ソングを一緒に弾いて、いろんな楽器の音に変えてはデイビッドがその楽器らしいメロディーをまた勝手に作って弾いて。すごい。デイビッドって。

それからごはんを食べに行った。ミドルイースタン通り。わたしはいまだに自分の住んでるところのお店なんかよく知らなくて、それでもデイビッドが楽しみながら見つけてくれる。イジプシャンのおもしろいお店だった。お料理はイマイチだったけど、デイビッドとする食事はいつだって楽しい。いつだってほんとに楽しい。

うちまで送ってくれて、車の中でぎゅうっと抱きしめてくれる。明日からデイビッドはフロリダ。「I'll miss you」。思わず言った。「I'll miss you too. きみと過ごす時間が僕は大好きだよ」。きみの素敵なアパートときみのピアノときみの猫たちと。そんな時間が僕はとても好きだよ。


スキー旅行から帰って来てから初めてだった、デイビッドと出掛けたの。ケガしてからちょうど一ヶ月経ったんだ。初めて、初めて一緒に出掛けられた。

ありがとうのメールを送った。
来てくれたことも外に連れ出してくれたことも、すごくすごく嬉しくて、
「I love you, I love you, I love you soooooooo much!!! 」って最後に書いた。


返って来た長いメールは、とても悲しかった。


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毛が恋しい - 2004年02月24日(火)

天気予報通りに雪が降った。
スキー旅行から帰って来たときから凍ったまんまの白いかたまりの上に、新しい雪が積もる。

雪の降る中、今日もタクシーに乗ってフィジカル・セラピーに行った。
ホット・パックで膝をあっためてから、今日は4種類のマシーンに乗る。ひとつ始めるたびに怖かったけど、痛み止め飲んでったのが効いたのかあまり痛くなかった。楽しかった。手術したあと1インチすら上がらなかった左足が少し上がるようになった。曲がる角度も大きくなった。


雪が降って会えなかった。
風邪が治らないのもあるけど、突然入った仕事のせい。フロリダに出掛ける前に片付けなきゃならないって。

明日、レンタカー借りて夕方に来てくれる。早いディナーを一緒に食べようって。それだけ。それからうちに戻って旅行のパッキングして、木曜日の朝のフライトぎりぎりまで仕事するらしい。ショパンのノクターン、すっごい上手になったのに。


淋しいな。

デイビッドの腕の中で眠りたい。
柔らかくてくすぐったくてあったかくて気持ちいい、あの腕のモジャモジャの毛が恋しい。
胸の毛もおなかの毛も恋しい。


火曜日に帰ってくる。
「片足で運転して空港に迎えに来てよ」ってデイビッドが笑った。

行こうかな。
ドクターに内緒で運転しようかな。
5日もあれば、手術する前みたいに左足上げて運転出来るようになるかな。
だめかな。



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天気予報は雪 - 2004年02月23日(月)

フィジカル・セラピーに行く。
今日は違う TP だった。めちゃくちゃキビシイ先生。わたしの膝を容赦なく引っ張って押して曲げて引っ張って押して曲げる。わたしは涙を浮かべて「痛いー」を連発。あまりの痛さに体がぶるぶる震えた。それから、座って両足を乗っけて前後に動かすマシーンに乗る。そして左足を床につけて歩く練習。松葉杖はまだ当分必要だけど、足をつけて歩けるようになった。立ってやる運動と座ってやる運動をいくつかやって、うちでも2、3時間おきにやりなさいって言われる。

明日は痛み止めを飲んでから来なさいって言われた。

帰ってからうちでも少し頑張ってみたけど、2、3時間おきになんてとても出来ない。痛くて痛くてポロポロ涙がこぼれる。

フィジカル・セラピー途中で挫折する人の気持ち分かる。わたしも挫折しそうだよ。


明日の天気予報は雪。
デイビッドは来られないかもしれない。
風邪はちっともよくならないみたい。

しょうがないかな。
ショパンのノクターン、全然未完成だし、いいか。

よくない。
会いたい会いたい会いたい。


明日もフィジカル・セラピー頑張るから。

会わせてください。


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ピアノ - 2004年02月22日(日)

昨日はまた一日眠りこけた。お昼過ぎにデイビッドが電話をくれて「何してた?」って聞くから「お昼寝してた」って答えたけど、うそ。まだ起きてなかっただけ。寝てる間に骨は成長するからしっかり寝なさいって言われた。デイビッドは夕方から友だちのバースデーパーティに出掛けた。まだ風邪はひどいけど、ずっとうちにこもってたから外に出てみるって出掛けた。わたしは夕方から起き出して、キーボードを弾く。それから CPM マシーンに足を乗っけて寝る。痛い。痛み止めを飲んで朝まで機械をかけて寝た。

今日はジェニーが迎えに来てくれて教会に行く。スーザンとネルソンが、たいくつだろうからって本をどっさり貸してくれた。キーボードが楽しくてたいくつなんかしない。本をたくさん読むいい機会だとか思ってたけど、ベッドの横に積み上げた本はどれも手をつけてない。

今日も、教会が終わったあとみんなでごはんを食べに行って帰って来てから、ずっとキーボード弾いてた。デイビッドが電話をくれる。まだ声がひどくて、でもこれから弟と映画を観に行くってバスの中からだった。


なんでわたしに会いに来てくれないんだろって思った。
「いつ来てくれるの?」って聞いたら「ほんとだ。木曜日まで3日しかない」って言う。木曜日にはフロリダに行く。バスが着いて「夜またかけるよ」ってデイビッドは切った。

悲しくなる。やっぱりフロリダに会いに行く誰かがいるんだとかまた考える。弟と映画行くなんて言ってほんとは最近知り合った女の子なんだとか考える。悲しくてキーボードで「ブルー・ベルベット」弾きながら、ああこの曲が悲しい思い出の曲になるんだとか考える。「ムーン・リバー」弾いてもおんなじこと考える。たくさん反省もしたし、もうバカなことわたしから言い出してケンカしたりしないで、これからちゃんと大事にするんだって本気で思ってるのに、おしまいかもしれないとか考える。


11時になっても電話はかかって来ないで、こっちからかけた。
会いに来る話もしてくれなくて、我慢出来ずにとうとう泣いた。

「あたしに会いたくないんだ」
「そんなこといつ言った? ずっと風邪引いててやっと外に出られたばっかりだろ? きみに風邪うつしたくないからだよ。僕は会いたいよ」。

なんできみはいつだってそう深刻なんだよ、って言われる。


明日は仕事が忙しいからね、火曜日に行くよ。風邪うつっても知らないよ。調子がよければ地下鉄で行くけど、そうじゃなければレンタカー借りてくよ。それから買い物に行こう。冷蔵庫からっぽだろ?

こないだオスカーさんがグローサリー・ショッピングに連れてってくれたって言ったじゃん。また忘れてる。ま、いいか。恥ずかしくて、もう泣いてなんかないのにグズグズ鼻を啜って誤魔化した。「風邪なんかうつんないよ」とか言いながら。

それから、「きみのピアノ聴くの楽しみにしてるよ」ってデイビッドは言った。


このあいだ弾いてみせた「子犬のワルツ」、すごい褒めてくれたんだ。バッハも褒めてくれたんだ。プロに褒められちゃった。あれからインターネットで注文した楽譜届いたのに、全然レパートリー増えてない。

困った。
練習しなきゃ。


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始まり - 2004年02月20日(金)

2月20日。
「明日何の日か知ってる?」ってゆうべ遅くにメールを送った。
「え? 今日何の日?」って今朝返事が来た。
それでいいです。全然期待してない、そういうの。
わたしだってはっきり覚えてなくて、去年の日記で確かめた。


朝、ジョセフが訪ねてくれる。
犬のロクシー連れて。それから、Papaya King でパパイヤ&マンゴ・スムーシーを買ってきてくれた。絞り立てのパパイヤ&マンゴ、おいしくて感動した。

お昼過ぎに CPM マシーンが来る。
ベッドの上に置く機械。持って来てくれたトムっておじさんはダブルベッドを見て、「どっちがあなたの場所ですか?」って聞く。「どっちもあたしの場所です。ひとりだから。でも左側で寝てるの、右側に誰かいること想定して」って答えたら大笑いされた。そう。今だにわたしはダブルベッドの左側で眠る。そう言えばちょっと前にデイビッドと観た「somethingユs gotta give」でダイアン・キートンが言ってた。「離婚しても変わらないことは、今だにベッドの左側で寝ることね」って。

足首の方が高くなってるそのマシーンは、ベッドに寝て太腿から全部足を乗っけてスイッチを入れると膝の部分がゆっくり上下する。そうやって動かなくなった膝の間接を機械が伸ばしたり曲げたりしてくれる。痛い。痛いけど、20分くらい説明聞きながら試してみただけで、ずいぶん楽になった。

それからオスカーさんが来てくれて、わたしの車を運転してグローサリー・ショッピングに連れてってくれたけど。手術する前みたいにはいかない。松葉杖で歩くのがものすごく辛い。それより、オスカーさんは・・・。どうヘルプしたらいいのかわかんないのか、わたしは車の乗り降りもスパーマーケットでの買い物もひとりで痛みをこらえて悪戦苦闘してた。

それにしてもアニーの旦那さんよりまだ気の利かないオスカーさん。わたしは何度も危ない目に遭って、せっかく CPM で楽になった膝がずきずきした。挙げ句にはアップル・ジュースが好きだとか、プリウォッシュドのメスクラム買ったからスモークサーモン買おうとか、ふたりで食事するための買い物じゃないんだってば。おなかが空いたから寄ったうちの近所のデリでは、自分の分だけサンドイッチ買ってくる。テーブルに乗っかった妹チビを自分の猫みたいに叱る。サマンサとポーリーンが仕事の帰りに来るって言ってるのに帰らずにうちにいて、彼女たちが来ても帰らずにいて、サマンサとポーリーンにまるでわたしが自分のガールフレンドみたいな話し方する。

とかとかとかとか、そういうことをオスカーさんが帰ったあと、わたしはサマンサとポーリーンにまくしたてる。「オスカーはいい人だったんじゃないの?」ってサマンサが聞く。そうだけど、わたしはもうがっかりしてしまった。きっちりポーリーンはオスカーさんをわたしのボーイフレンドだと思い込んでた。

デイビッドは極端にプラクティカルで、だからロマンティストにほど遠い。だけどあんなに素敵に気遣いが出来る人、ほかにいない。絶対いない。比べるなんてよくないけど、比べなきゃ気がつかないことだってある。あんなにいつだってわたしを大事にしてくれたのに、わたしはひどいことばっか言ってた。ほんとにたくさんごめんなさいを言いたい。

サマンサとポーリーンとおしゃべりするのが楽しかった。「仕事恋しい?」って聞くサマンサに「No!」って答えて大笑いしたけど、話題は肝臓疾患の話とか癌の話とか TPN とか経管栄養の話になってって、久しぶりにそういうの話すのが楽しかった。今度はみんなでここにごはん作りに来るよ。みんなで食べようよ。って言ってくれた。


「2003年2月20日 ― あなたがわたしと出会った日。
 一年経ちました。おめでとう、一年。パチパチパチ」。
「そうかあ。そうかなとは思ったけど自信なかった。一年か」。
そんなメールのやりとりで1年記念日のお祝いおしまい。
会えなかったけど、いいんだ。

一年経ったよ。
でもわたしにとっては始まり。
これから大切に育てて行くんだ。


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くやしい - 2004年02月19日(木)

くやしい。くやしい。
足が動かない。
ほんの少しだけ「くの字」に曲がりかかったままの左足は、前にも後ろにも殆ど動かせない。
PT の先生が前に伸ばした状態と後ろに曲げた状態で膝の角度を横から計る。 「それが精いっぱい?」って先生は聞く。CPM のマシーンは月曜日に来ることになってたけど、すぐに始めなきゃ完璧に元に戻らないって言われた。先生が手配してくれて、マシーンは明日来ることになった。

「先生あたし、ちゃんと踊れるようになりたい」。
とか足を折ったプロのダンサーのリカバリー・ストーリーみたいなこと訴える。
「踊れるようになるよ」「いつ? 春?」「春って? 4月にはまだ無理だよ」「じゃあいつ?」「6月。・・・7月かな」。

あああ。・・・夏じゃん。

3月のバースデーにはダンス・パーティをしようと思ってた。そんなの絶対無理な話で、それはもうとっくに諦めてたけど、4月頃にはダンス・スタジオに戻れるかなって思ってた。ぽかぽかあったかくなったらバッテリー・パークにローラーブレードしに行こうっても思ってた。 

くやしい。
それより、今思ったより動かないのがくやしい。

デイビッドは、今日が初めてのフィジカル・セラピーだったのに上手く動かせなくて当然だろ、ケガしてから3週間固定しっぱなしで動かしてないんだから、って言った。わかってるけど・・・。

それから、3週間後にもう一度どれくらい動かないのか聞かせなよ、今聞かせるな、って言った。
冷たいよ。デイビッドはこういうときそうやっていつもキビシイんだ。早く風邪治して会いに来てよ。


フィジカル・セラピーに出掛けただけでくたびれてくたびれて、もう泣きそうになる。


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膝の中のピカピカ - 2004年02月18日(水)

アニーのオフィスのアニーじゃないほうのアニーと、アニーの旦那さんとぼうやのエイブラハムが、ドクターのところに行くのに迎えに来てくれる。

雪が降るって言ってたのに、空は青くて陽射しがまぶしかった。
アニーの旦那さんの車は SUV で車体が高いから、左足が痛くて乗せられない。手術する前は平気だったのに。アニーがわたしの伸ばしっぱなしの膝を持ち上げようとするから慌てて「足首持って」って言おうとしたら、焦って焦って「足首」の単語が出て来ない。「No. No. No. No. 膝じゃなくて・・・アイアイアイアイアイー」って叫んだら、アニーがびっくりして持ち上げようとしたわたしの足を落っことしそうになる。痛くて痛くて「アーーーウーーー」って気が狂いそうになってるのに、アニーの旦那さんは信じられないくらい気の利かない人で手も貸してくれずに、「自分で後ろに下がってごらん」とか言う。それが出来ないんだってば。エイブラハムは「なんでアーウーって言ったの?」って、それは可愛かったけど、わたしは返事も出来なかった。

地獄みたいな出発だったけど、ぽかぽか陽の当たる高速のドライブが気持ちよかった。外に出られたのが嬉しかった。


バックライトに照らされたレントゲンのフィルムには、膝の真ん中で上下に割れた頸骨に斜めに橋渡されたスクリューが、くっきりピカピカに映し出されてた。ドクターは経過はとても順調でとてもキレイに治癒されつつあるって言った。スクリューはわたしの膝に一生収まったままらしい。わたしはピカピカ光ったスクリューを見ながら、ポキンとふたつに折れた足に釘を渡して修理した壊れたお人形を連想して、なんかちょっとだけ悲しかった。わたしの膝の中に一生、一本の大きな釘。

だけどとても嬉しかったのは、もう明日からフィジカル・セラピーを受けに行くこと。うちの近くのリハビリセンターに通うことになった。詳細にかかれたセラピーの処方はわけわかんないけど、スキーのレッスン受ける前みたいにものすごくワクワクしてる。それから、月曜日には CPM ってマシーンがうちに来る。1日6時間マシーンに座って膝のトレーニングするらしい。1日6時間って、わたしの生活はどんなになるんだろってちょっと思うけど、それさえワクワクしてるよ。

痛みが突然薄らいで足が軽くなった。すごい心理効果。

デイビッドは、早くそのマシーンが見たいって言った。
風邪がひどくなって今日は熱が出てるらしい。声もほとんど別人になってる。

早く治って、デイビッド。
早く来い、マシーン。


夜、ジェニーが来てくれた。


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癒されろ - 2004年02月17日(火)

日曜日にはフィロミーナとアニーのオフィスのアニーじゃないほうのアニーと、それからジャックが来てくれた。ジャックはカルシウムのサプルメントと、ミルクをあんまり飲まないわたしのためにヨーグルトをたくさん買って来てくれて、それからチワワのミノを連れて来てくれた。ミノはうちの妹チビよりまだちっちゃくて、チワワってよりギズモーにそっくりで、ジャックみたいにナスティな子だった。

昨日はホリデーだったから、誰も訪ねて来なかった。手術してから初めて誰も来なかった。わたしはまた死ぬほど眠った。殆ど体なんか動かさないのに、左足をかばいながら松葉杖でよっこらよっこら歩くのと体が傷を癒すのに、すごいエネルギーを消耗するらしい。何もしなくても毎日疲れる。一日中眠った。

明け方に妹チビがケガの膝に飛び乗った。天井まで飛び上がりそうなくらい痛かった。あんまり痛くて、あの人に電話した。「大丈夫? 大丈夫?」って、あの人は相変わらず優しくて可愛くて、「大丈夫じゃないー。痛いー」ってわたしは繰り返す。痛み止めのお薬を二錠飲んだら今度は副作用の吐き気がしてきた。お水をがぶがぶ飲んで抑えようとしたけど効き目がない。こんなでまた胃の発作を起こすわけにいかない。痛いのと吐き気が止まらないのと、怖くてひとりでもがいてるうちにいつのまにかまた眠った。

お昼前に起き出してメールをチェックしたら、デイビッドが友だちから来たメールを転送して来てた。ユタのパーク・シティにスキーに行ってたその友だち、ACL 切って帰って来たって。手術を受けるらしい。

「あなたもパーク・シティにまだ行きたい?」って、来月ひとりで行く予定のデイビッドに返事したら、「ゆうべチケット取った」って返事が来た。それから、来週の木曜日からまたフロリダに行くって。ちょっとヤな予感がした。

「この前行ったとき知り合った誰かさんに会いに行くの?」って書いたら「バカ。誰とも知り会ってなんかないよ」って返事が来る。友だちがフロリダに住んでる友だち夫婦を紹介してくれて、そこに行くって。NY シティのこの寒さに我慢出来ないんだって。

ロジャーに言うとまたきっと怒る。ケガして外に出られないわたしを置いて、って。だけどわたしはデイビッドのそういう生き方が好きなんだからしょうがない。わたしの足を心配して自分の自由を犠牲にしてまで毎日会いに来てくれるような人だったらおなかいっぱいでしんどくなる。気持ちは毎日でも一緒にいたいくせに、そうなんだからしょうがない。どこにも所属したくなくて、だからひとりでガムシャラに仕事して、自分の時間とお金をめいっぱい作ってやりたいことをとことんやって。そういうとこソンケイしてるんだから、しょうがない。ケミカルは何もないとこからは生まれない。

今日は夜遅くオスカーさんが来てくれた。オスカーさんはあったかい。あったかいけど、「何飲む?」って冷蔵庫開けたら一本だけ残ってるスチュワーツのクリームソーダ「僕コレ好きなんだ」って取ったとこキライ。デイビッドなら絶対「一本しかないんだからきみが飲みな」って言う。こないだフィロミーナが作って来てくれたスープあっためてる間オスカーさんは横でただ待ってたけど、デイビッドならバゲットを切ってオーブンに入れてサラダまでさっさと作ってくれる。

デイビッドはわたしと会ってるときは何でも全部一緒に楽しんでくれる。全部最高の素敵にしてくれる。

オスカーさんとごはんを食べてるとデイビッドから電話がかかった。デイビッドはたくさん話をして、わたしは切らなかった。わたしといるといつもデイビッドからの電話が鳴るってオスカーさんは怒った。そしてわたしがいつもその電話を切らないことも怒った。「『今オスカーさんが来てるんだ』ってあたし言ったでしょ?」「デイビッドはなんて言った?」「失礼だから、オスカーのお相手しなさいって」。それはホントのことで、デイビッドのそういうとこだって好きだ。怒ったオスカーさん、負け、って思った。

お気に入りのタンゴの CD をオスカーさんに聴かせてあげる。踊りたくて足がうずうずした。少しだけ振ってみたら痛かった。


日記読んでお見舞いメールくれた彼女に、彼女の日記を教えてもらう。
すごいすごい。美しい写真を毎回載せたおしゃれな日記。こういうときにはなおさら癒される。一番始めから全部見た。癒された癒された癒された。

癒されろ癒されろ癒されろ。足もこころも早く早く。もっともっと。
水仙が咲く頃にはデイビッドと一緒に外歩けるかな。松葉杖つかずに。

明日は手術後初めての診察。
経過、順調でありますように。


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love and kisses ーきみのくちびるに - 2004年02月14日(土)

来てくれた。
地下鉄に乗って来てくれた。
地下鉄の駅からローラーブレードはいて、来てくれた。
デイビッドは壊れた車を廃車して、もう車がないから。
ローラーブレイドはいて背がうんと高くなったデイビッドが、ドアを開けたら「ハッピー・バレンタインズ・デー!」って笑って立ってた。

バレンタインズ・デーだからわたしの車でディナーに連れてってくれるって言ってたけど、外に出るのがわたしはまだ怖かった。わたしはうちで食べられるようにディナーを作って待った。パンプキン・フランのデザートも作った。痛みはかなり和らいでるし、ちょっと無理してそろりそろり松葉杖で足引っぱりながら頑張った。

「ほんとに出掛けなくていいの? ずっと外に出てないだろ? バレンタインズ・デーなのにきみが片足でディナーを作ってくれて、僕はなんにもあげるものがないじゃん」って言いながら、わたしに持って来てくれたチョコレート、あんまりおなかが空いて地下鉄の中で食べちゃったし、大家さんのフランクがバレンタインズ・デーのお祝いにくれたお花を見て「車で来れたなら僕も花を買って来たのに」とか言う。でもいいんだ。来てくれた。


ケガした理由、わたし知ってるんだ。
余計なこと考えない、余計なこと悩まない、余計なことでイライラしてバカみたいなこと追求するんじゃない、神さまはわたしにそう言い続けてたのに、わたしがそれを聞かなかったから・・・

それで神さまはきみの足を折ったっての?

そう。でも神さまは微笑んでるの。大したことじゃないよ、ちょっと痛いけどね、って。罰じゃないんだよ。これはわたしが変わるチャンスなの。

すごい空想だな、って、神さまをそんなふうには信じてないデイビッドは言って、空想じゃないよってわたしは笑った。わたしは足が治るまで、神さまがくれたチャンスを利用して、無茶して走り回ってた体を休めて悩み続けた心も休めてゆっくりいろんなことを見直そうと思ってる。

だからね、わたしもう、あなたに何も言わないし、何も聞かない。バカなこと。

サンキュってデイビッドは微笑んだ。

足がすっかり治るころには、わたし別のわたしになってるんだ。


風邪を引いてまた喉を痛めてるデイビッドは、帰る少し前に「手出して」って言って、差し出したわたしの腕を取って手首にキスした。「やだ。ちゃんとキスして」って言ったけど、足折ってるうえに風邪うつすわけにいかないだろってしてくれない。駄々こねて何度もせがんだ。「赤んぼみたいだ」「赤ちゃんなの」「だめだよ」「デイビッドはバレンタインズ・デーにキスしてくれなかったってみんなに泣きついてやる」「僕はね、国が決めた日じゃなくて自分の決めた日にロマンティックになる」「国が決めた日じゃないよ」「コマーシャルが決めた日」。歴史が決めた日でしょ。やっとキスしてくれたデイビッドの首にわたしは抱きつく。「ちゃんとキスしなよ。くちびるが動いてないよ」って、そのくらいちゃんとキスしてくれた。「これくらになら風邪うつらないかな」って言いながら。大丈夫だよ。うつったって。

帰り際にもう一度ねだった。ローラーブレイドはいてまたうんと背が高くなったデイビッドは、わたしが片足で必死で背伸びしても苦しいくらい背が高かった。「このくらい背が高かったら嬉しい?」「ううん。あなたの背の高さがいい。前はうんと背の高い人が好きだったけどね」。5フィート11インチなんか、もうほんとにどうでもいい。5フィート8が今はいいんだ。超イージリー・アジャスタブル恋心。便利でしょ?


愛してるなんて言えなかった。
だから、デイビッドが帰ってったあとに送ったメールの最後に書いた。
「I love you」。

うちに着いたデイビッドから返事が来た。
「ああ、ややこしいことになるよ僕たちは。きみが「L-word」なんか使うから。危険だ」。

そうなんだ。いつか「ハウス・キーパー」ってフランス映画観たときも、彼が彼女にとうとう「I love you」を言っちゃったときデイビッドはおなじこと言った。なにが危険なんだかわたしにはわかんない。

だけどデイビッドはメールの最後に書いてくれたんだ。

「love and kisses ーきみのくちびるに」って。


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愛してるって言いたい - 2004年02月12日(木)

ゆうべはディディーが泊ってくれた。夜中に何か起こったら・・・例えば眠ってる間に手術した足のポジションがおかしくなってひどく痛んで、でも自分で足を元の痛くない位置に戻せないとか、お手洗いにベッドから立つときに左足を上手くベッドから自分で降ろせなくてお手洗いに行けないとか、お手洗いで転ぶとか、そういうのが怖かった。それに何より、痛くて目が覚めたときにひとりでいるのが怖かった。ディディーはベッドルームの床に眠ってくれて、目が覚めるたびにそこに誰かがいてくれたのが安心だった。

朝の9時ごろディディーは帰ってって、そのあとジェニーが昨日持って来てくれたマフィンとスコーンを食べてからお薬を飲んで、わたしはぐっすり眠れた。ほんとにたくさん眠った。手術を受けてから初めてたくさん眠れた。

たくさん眠ったせいか、痛みが薄らいだ。手術する前みたいにはまだ自由がきかないし、間違って左足に力が入ったりしたら飛び上がるほど激痛が走るけど、洗面所で片手で松葉つえつきながらもう片方の手で今日は髪も洗えた。

夜ジーンが来てくれた。イタリアン・レストランで買って来てくれたラザーニャをオーブンで焼いて、ガーリックブレッドとサラダを作ってくれて、一緒に食べた。昨日ジェニーが帰ってから二ネットが持って来てくれたローストチキンをカットアップして一食分ずつフォイルに包んでもくれた。ゴミも出してくれた。コーヒーも湧かしてくれた。一緒にごはんを食べてくれたのがものすごく嬉しかった。

それからやっと、やっと、デイビッドが来てくれた。ジーンと3人でおしゃべりしたあとデイビッドはジーンを地下鉄の駅まで送ってあげてくれて、それから戻って来たデイビッドに iPhoto で作ったスライドショーを見せてあげたりスキーの写真を見せてあげたり。デイビッドは写真写りがめちゃくちゃ悪いけど、運転してるデイビッド越しに車の中から取った雪景色の写真に写ってるデイビッドの横顔はカッコイイ。「ケビン・コスナー」って言ってあげた。ゲレンデの写真は一枚もない。レイク・タホーはほんとに奇麗で、「明日は絶対カメラ持って来て滑るよ」って言ってた「明日」は、そのあと事故しちゃったせいでもう来なかったから。

デイビッドはチビたちともいっぱい遊んでくれた。「ナターシャが猫を追いかけなきゃいいのに」ってデイビッドは残念がった。ナターシャは、ねずみを追いかける猫みたいに、猫を追いかけてつかまえて殺しちゃうらしい。だから今日も車の中で待たされてた。

手術の日以来シャワーを浴びてないわたしにデイビッドはシャワーを手伝ってくれるって言ったけど、待ってるナターシャが可哀想で「今日はいいよ」って言ったらわざと鼻を摘んで見せて「よかないよ、ニオウぞ」って笑った。

毎日友だちがたくさん電話をくれて、毎日誰かが来てくれる。「僕は嬉しいよ。きみはみんなに愛されてる。誰もがきみを大事にしてくれる」。「あなた以外ね」って言ったら「僕はきみが大事だよ」って真面目な顔して怒ったみたいに言ったデイビッドをわたしは笑ったけど、わかってる。大切に思ってくれてる。デイビッドが来てくれた。それだけで、ずっと元気になれた。

「今度いつ来てくれるの?」って聞いたら「来週」って言われた。
「土曜日は来てくれないの?」
「なんで土曜日?」
「土曜日が何の日か知らないの?」
「きみの誕生日。・・・じゃないし何?」
「2月14日だよ?」
「プレジデント・デーの週末の土曜日」。
知ってるくせにそうやってはぐらかす。

「バレンタインズ・デーは僕は祝わないよ。クリスチャン・ホリデーだから」
「クリスチャン・ホリデーじゃないじゃん。赤い薔薇の花束持って、来てよ」
「僕はホリデーのそういう商業化には乗せられないんだ」
「じゃあチョコレート」
「おなじことだろ」。

そんなふうに言うと思ってた。だけど。

わたし、やっぱりデイビッドが好きだ。好きだ。大好きだ。
ケガしたわたしを置いてマイアミに行っちゃったり、帰って来てすぐに飛んで来てくれなかったり、ロジャーはそんなデイビッドをなじって「ほかの男探せよ」って怒ったけど、ケガしたときもそのあと胃の発作が起こったときも、あんなふうにしてくれる人絶対ほかにいやしない。別れた夫だってあれほどのことはしてくれなかったと思う。急に手術が決まって報告したときも、誰よりも心配して励ましてくれた。そばにいなくても一番支えになった。デイビッドのやりかたで支えてくれた。でも理屈じゃない。理屈じゃなくてケミカルなんだ。

スキー旅行でケンカしたときわたしを好きな理由をたくさん並べて、「でもそれはみんなただの事実で、きみを好きなのはそんな理由よりケミカルなんだ」ってデイビッドは言った。なんかものすごい久しぶりに耳にする「ケミカル」って言葉があのときには可笑しかった。だけどケミカルなんだ。誰がなんて言おうと、なんて非難されたって、デイビッドが好き。

わたし、言いたい。
愛してるって言いたい。
土曜日に来てくれたら。

言いたい。




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手術 - 2004年02月11日(水)

月曜日、 MRI の結果のお話を聞きに行った。
すぐに手術することになった。
すぐに翌日のスケジュールに押し込んでもらって、昨日手術受けて来た。
痛い痛い痛い。めちゃくちゃ痛い。
信じられないみたいだけど、手術してその日のうちに麻酔が切れたら帰らされる。
麻酔が切れて、痛くてポロポロ泣いた。
動かない足と麻酔でまだふらふらの体引きずって、迎えに来てくれたジェニーとジェニーのおねえさんと従兄弟に連れられて帰って来た。
オスカーさんが、心配だからって一晩うちに泊ってくれた。
痛くて眠られなかった。
リビングルームのカウチで眠ってるオスカーさんを何度も起こした。
デイビッドは今日の夜やっと帰って来た。
帰ったらすぐに来てくれるって言ってたくせに、来てくれない。
明日って言ってるけど、わかんない。
痛い痛い痛い。

いたいよお・・・。



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マニピュラティヴ - 2004年02月07日(土)

月曜日にオスカーさんがキーボード貸してくれた。それからオフだったロジャーがドクターのところにつき合ってくれた。MRI はその日には受けられなかった。

火曜日に、ブレイスつけて松葉杖ついてそんな状態で車も運転して仕事に行ったのに、帰れって言われた。そんなでどうやって患者さん診られるのよって。当然か。そのまま GI の Dr. ライリーのアポイントの時間まで待って、診てもらいに行った。足ケガしてスキー場の ER に運ばれた翌日に胃の発作でまた ER に運ばれて、「レイク・タホーの病院から電話があったからスキーに行ったのは知ってたけど、ケガしたなんて知らなかった」って Dr. ライリーはびっくりしてた。胃の発作はフィジカルな原因が何もわからないまま相変わらず起こる。バイオプシーを拒否したから、代わりにもう一度 CT スキャンを、今度はソノグラムと一緒に取ることになった。

木曜日に MRI を受けに行った。夜遅くのアポイントだったからラディオロジストのドクターはもういなくて、テクニシャンの人に無理矢理結果を聞き出した。ASL は切れてないらしい。でも手術はやっぱりしなくちゃいけないかもしれないって。骨折だけで靭帯は切れてないってのはグッド・ニュースで、デイビッドは喜んでくれた。それでも最低1、2ヶ月はかかる。有給が切れたらそのあと障害者手当を受けることになるけど、お給料のたったの3分の2。やってけないよ。って言いながらあんまり深刻になってない自分がコワイ。


あれはいつだっけ。おととい?
ケガのせいか眠られなくて、昔の恋人に電話した。
「1年じゃまだわからないよ」って言われた。デイビッドのこと。「気長に待てよ」って。「俺は4年かかったぞ。こいつしかないって真剣になるまで」って。


Do you feel me huging you?  Do you feel me huging you?  Do you think I donユt care about you?  I care a lot about you.

ボーイフレンドのふりしてよ。あたしタイトルが欲しいの。それだけなの。

ふりする必要なんかないよ。病院じゃドクターもナースも誰もがボーイフレンドどころか夫だと思ってたんだよ。「奥さんのケガは重傷ですよ」「今まだ奥さんには会えませんから」って。僕は訂正しなかったよ。

じゃあ愛してるふりして?

何言ってるんだよ。I do love you.  Iユve loved you.


「マニピュラティヴ」ってあとから言われた。
どうせ生きてることなんかみんな「ふり」。人生なんかフェイク。
だけど続けてるうちにだんだんそれがホントみたいになってくんだ。だからそうなれ。そうなれ。そうなれ。

仕事に行けなくなって1週間。
毎日弾いてる。キーボード。昨日なんか5時間も練習した。

デイビッドは毎日電話をくれて、メールもくれる。


でも明日からフロリダに行く。
ゲイになって帰って来ないでね、ってメールしたら
ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハ アハハ アハハ ハハハアアアアアアアアアアア
って返事が来た。
ハハハじゃない。淋しいんだよ。


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スキーで大ケガだよ - 2004年02月01日(日)

ただいま。
左足にブレイスつけて松葉杖ついて、昨日帰って来たよ。レイク・タホーのスキー旅行から。
ACL 切ったらしい。膝の内側にあるクロスした靭帯。それから膝の両側の頸骨も折れた。骨折は大したことないけど、ACL は手術しなくちゃいけないんだってさ。

デイビッドは最初何度か一緒に滑ってくれたあとブラックばっかのうんと遠いとこに行って、わたしはブルーのスロープをひとりで滑ってたの。「4時に下のロッジで会おうね」って決めて、山の一番てっぺんで抱きしめてキスしてくれてバイしたんだ。わたしったらブルーから途中で間違えてブラックのスロープに入っちゃって、すごい傾斜を転んだんだ。立ち上がれなかった。レスキュー隊にそりにのせられてスノーモービルでスキー場のクリニックに連れてかれた。

4時過ぎに携帯が鳴ったとき、わたしは ER テクニシャンのおにいさんにブレイスつけてもらい終えて松葉杖で歩く練習教わってた。飛んで来てくれたデイビッドはすごいびっくりしてて、デイビッドの顔見たら泣くかと思ってたけどわたしの方が平気だった。デイビッドはおとうさんみたいにドクターのお話熱心に聞いてくれてて、そのあいだわたしはテクニシャンのお兄さんと歩き方の練習してた。

3日目だったの。だからスキーは楽しんだ。ホテルに戻ってから、残りの2日滑られなくなったわたしにって、デイビッドはお花とベリーパイと、ちっちゃいテディベアとか天使のジグソーパズルとかお絵描きセットとかスキー場の写真集とかいろんなのいっぱい買って来てくれたんだ。ドアを開けたら両手いっぱいにそういうの抱えて、袋入りの長ーいバゲット口に横にしてくわえたデイビッドが立ってた。嬉しくて嬉しくて抱きついた。

それがその日の晩にわたしったら胃の発作に襲われてまた吐き続けて、翌朝早く救急車で ER に運ばれたの。デイビッドが始終いろんなことテキパキやってくれてたのが、意識もうろうの中でもちゃんとわかった。デイビッドはパニックの頂点だったって言ってたけど。

とにかく散々。散々なスキー旅行だった。

だけどデイビッドはずっとものすごく優しかった。最後の晩の大げんかをのぞいたら。
ずっとずっとものすごく大事にしてくれて、ああそうだ、でもけんかのあともとても大事にしてくれた。空港でも飛行機の中でもトランジットの間もほんとに嘘みたいに大事にしてくれた。昨日はデイビッドんちに泊って、今日うちに帰ってくるまでずっと大事に大事にしてくれた。



もういい。
デイビッドにとってわたしがどういう存在なのかなんて、ガールフレンドになりたいとかそういうのだって、もういい。

もういいんだ。
もうそういうこと考えないことにする。そういうことで責めてけんかして泣いて、そんな自分がバカだったって思った。大げんかして言われた言葉は今でも痛いけど、もういいよ。いいんだ。取りあえず、やめる。もう泣かないことにする。

うんといい子になっていつか愛されるようになろ。そうしよ。そうする。

スキーはもう今年は行けないどころか、アイススケートだってローラーブレイドだって出来ないし、それより何よりダンスが出来なくなったことが一番悲しくて落ち込んでたけど、オスカーさんにキーボード借りてしばらく音楽にいそしむことに決めたし。


なんかよくわかんないけど、突然何かが変わった。わたしの中で。きっともっと変わる。そんな気がする。ケガのおかげ。いいのか悪いのかわかんないけど。こっからは自分で変えなきゃ。自分が変わらなきゃ。


明日、デイビッドがアポイント取ってくれたドクターに診てもらいに行くんだ。
MRI して、それから手術の日を決めるんだってさ。



あの人ったらすごい心配してくれたわりに、「僕も行きたいよーレイク・タホー。連れてってよー」だって。いつかね。行こうね、一緒にスキー。「足が治るまでキーボード練習して、あたしもこれからミュージシャンだからね」って言ったら「うん、頑張れ」って嬉しそうにあの人言ったよ。


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