天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

ロードアイランド - 2003年08月17日(日)

昨日の夜はサルサのパーティに行った。
今日はロシア系さんとサウス・シー・ポートのタンゴパーティに行く予定だった。
出掛ける前にデイビッドから電話がある。「今日来なかったね」って。「何のこと?」って聞こうと思ったら、ほかから電話が入ったらしくて、2分後にかけ直すってデイビッドは電話を切った。

かかって来なかった。ロシア系さんの車の中でもずっと携帯握って待ってたけどかかって来なかった。「今日来なかったね」ってのが気になって気になって、ロシア系さんのつまんない話に適当に返事する。デイビッドは金曜日の夜からロードアイランドに行ってる。昨日も今日もわたしは仕事だったから、一緒に行けなかった。月曜日の夜に帰って来るから帰ったら電話するよってデイビッドは言ってた。

サウス・シー・ポートに着いてからかけた。デイビッドは何度もかけてくれたらしい。電話は鳴らなかった。なんでだろ。デイビッドはわたしの携帯がサックスって言う。

「ねえ、『今日来なかったね』ってどういうこと?」
「今日3時頃、『仕事が終わってから電車でおいで』ってメッセージ入れただろ?」
「うそ。入ってないよ、メッセージなんか」
「入れた。4時にも入れた。水曜日から両親がサマーハウスを使うから、きみと一緒に来られなくなったからさ、今日仕事が終わってから来ればいいと思ったのに」
「うそ。聞いてない。メッセージなんか入ってない。うそー。行きたいー。明日の朝行く。ダメ?」
「明日の朝じゃ遅いよ。夜には帰るんだから」
「怒ってるの?」
「怒ってないよ。きみがメッセージ聞けなかったのが残念なだけ。タンゴ楽しんでおいで」。
「そんなイジワル言わないでよ」
「イジワルじゃないよ」
「あーもうあたしの携帯のバカ。きらいだ。もう泣きそう」
「Silly」
「何が silly?」
「Silly girl!」。
デイビッドったら笑う。
少ししかいられなくてもいいなら、明日の朝おいでってデイビッドは言った。

切ってから携帯をチェックしたら、デイビッドのメッセージは入ってた。そのあとにロシア系さんの missed call が入ってたから、ヴォイスメールの表示が出なかっただけ。ちゃんとチェックしなかったわたしが悪いのに、ロシア系さんの missed call のせいだって思った。

タンゴパーティはなぜかやってなかった。もう踊る気がしなくて、ちょうどいいやって思った。ロシア系さんは、夕方に雨が降ってたからそれで中止になったんだろうって言った。別のところに踊りに行くか聞かれたけど、うちに帰りたいって答えた。車の中でずうっと黙ってた。カーラジオでなつかしい「I need a girl」がかかる。「この歌好き」。そう言ったらロシア系さんはバカみたいにボリュームを大きくした。

降りるときにロシア系さんが言った。「今日はおかしな日だったな。タンゴはやってないし、きみはうわの空だし」。黙ってたら続けて言った。「きみは魚座だろ? 魚座の人はね、気持ちが入ってないことはしないほうがいいんだってよ」。踊りたくなかったわけじゃない。でもどうでもよかった。


AMTRAK のサイトに行ったけど、時刻表がなんだかよくわからなかった。どっちがどっち行きなんだかわかんない。デイビッドに電話したら、ここでサイトを見てるわけじゃないからわかんないよ、って言われた。電話で聞きなって言われて AMTRAK に電話した。教えてくれた駅まで行く列車のスケジュールを聞いて、デイビッドに電話する。少し遅いけど、11時半に着くのしか席がなくて、そう言ったらそれでいいからおいでって言ってくれた。それで、一日泊まって火曜日に一緒に帰ろうって。

突然。明日の朝ロードアイランドに行くことになっちゃった。



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ブラックアウトのあと - 2003年08月15日(金)

イーストコースト全域が停電。
昨日突然ナースステーションの電気が消えて、コンピューターがダウンした。病院の中だけだと思ってたら、ニューヨーク・シティ全部だっていう。地下鉄で通ってるフィロミーナは帰れなくて、ラヒラんちに泊まることにした。帰るときに駐車場のおじさんが「州全部だよ」って言った。駐車場で車に乗ってデイビッドに電話したら、「気をつけて運転して帰るんだよ。信号が全部ブラックアウトしてるからね。タンゴも今日はお休みだよ」って。それからイーストコースト全部とカナダのオタワもモントリオールもって聞かされて驚いた。

木曜日。信号がブラックアウトしてたって、タンゴクラブがお休みだったって、デイビッドには会いに行きたかったのに、マンハッタンに行くほうの橋は全部通行止めらしい。停電なんかよりも会えないことがショックだった。

うちに帰るのに1時間半かかる。信号がついてない大きな交差点もみんなが慎重に運転して譲り合って、すごいなって思った。ひどく時間がかかった以外は安全に帰れた。

「今帰ったよ」ってデイビッドに電話する。うち中のキャンドルに灯をつけても、なんにも出来ない。デイビッドが1時間おきに電話をくれる。「たいくつだよ〜。会いに行きたい」「来られないだろ」「だってたいくつ〜」「僕もたいくつだよ」。11時を過ぎたらデイビッドの電話も途絶えた。わたしも眠ってしまった。あの人が電話をくれて、夜中に目が覚める。停電のこと言ったらすぐにテレビをつけてくれたけど、日本ではまだニュースになってないみたいだった。

朝7時に目が覚めた。ベッドルームの電気をつけたらついた。よかった。それよりキャンドルつけっぱなしだった。危ない。一度、バスルームのキャンドルをつけっぱなしにしてて、キャンドル缶に浮かべてた薔薇の花びらに火がついて、その火がちっちゃなテディベアに移って燃えて真夜中にスモークアラーム鳴らしたことがある。必死で火を消したけどアラームがいつまでも鳴りっぱなしで、大家さんが起きてきたらどうしようって大汗かきながら雑誌でアラーム煽り続けた。それから気をつけてるつもりだったのに。危ないったらない。

9時まで待って、デイビッドに電話する。今日はわたしはお休みで、昨日が最後の勤務日だったジェニーもお休みで、ジェニーとデイビッドと3人でビーチに行く予定だった。

今朝もまだ地下鉄は復旧せずに仕事がオフになった人たちがたくさんいて、テレビのニュースで「家にいないでビーチで過ごしましょう」って電力セイブを奨励してたらしい。それでジョーンズ・ビーチは今日は無料。おかげで東に向かう高速はものすごい渋滞で、デイビッドは我慢仕切れずにU-ターンを決めた。「やだ。行きたい。あたしたちは前からプランしてて、ブラックアウトのせいでビーチ行きを決めたこの人たちとは違うのに。ずるいよ。あたしたちが先なのにー」って、わけわかんないこと言って足バタバタさせる。

仕方ない。ビーチで会うことになってたジェニーに電話した。ジェニーもがっかりしてた。でもほんとにビーチまで3時間はかかりそうなくらいな渋滞だった。U-ターンして、うちのそばの公園で河を見ながらピクニックしようってデイビッドが言う。ジェニーは来ないって言った。ふたりで楽しんでおいでって。ジェニーとずっと楽しみにしてて最高のビーチ日和になったのに。ジェニーとふたりなら3時間かかったって絶対ビーチに行ってたのに。そう思ったらジェニーにすごく悪い気がした。


公園は水着姿で芝生に寝転がってる人でいっぱいだった。デイビッドは公園をとても気に入ってくれた。大きな木の下にバスタオルを広げて、デイビッドが持ってきてくれたコーンとブルーベリーとウォーターメロンと、わたしが持ってったピタブレッドとタジキとりんごとスナップルティーでピクニックする。「ビーチよりここの方がずっといい。砂まみれにならないし日陰があるし。ね、風がベタベタしないで気持ちいいだろ? 見てごらんよ、この木」「うん、葉っぱがきれい」。ふたりで寝ころんで木を見上げる。素敵。まだちょっとジェニーに悪い気がしてたけど、そんなふうにデイビッドと過ごせるのが嬉しかった。

わたしはタンクとショーツを脱いで水着になって、日の当たる場所で体を焼きたいって言った。デイビッドは暑すぎるのがイヤで木の下にいるって言った。ひとりで体中に眩しい陽差しを浴びながら、うとうとする。誰かが大声で子どもたちを叱る声で目が覚めた。振り向いたらデイビッドも眠たそうに目をこすりながら体を起こしてた。


もう5時を過ぎてた。うちでアイスコーヒーを作ることになった。近くのデリでミルクとアイスクリームを買う。フリーザーにアップルパイがあったから、それを焼いてアイスクリームを乗っけようと思った。うちのガレージの前に大家さんのフランクが座ってた。「ジョーンズ・ビーチに行って来たの?」「ううん。行くつもりだったんだけど、ひどい渋滞で帰って来たの」。それからフランクとデイビッドがおしゃべりしてるあいだ、わたしは毛を刈られてすっかり別人みたいになって落ち込んでるデイジーとおしゃべりする。「大丈夫よ。毛を刈られたってデイジーは美人だよ。大好きよ」って頭を撫でたらデイジーはわたしのくちびるをペロペロ舐めた。「ベッドルームにつけたクーラー、ちっとも使ってないじゃないか」ってフランクがわたしに言う。「今日これから使うよ」ってわたしは笑ってフランクに言った。


アップルパイがきれいに焼けて、デイビッドが一緒にアイスコーヒーを作ってくれる。デイビッド流のアイスコーヒーの作り方があって、わたしはコーヒーを沸かしただけで、あとは全部デイビッドがやってくれる。キッチンのキャビネットを開けてグラスを探しながら、「僕が最初プラスティックの食器しか持ってなかったから、それがいやで泣き出したんだ」ってデイビッドが言う。ex-ガールフレンドのこと。「あなたって彼女のことはたくさん覚えてるんだ。あたしのことは何にも覚えてないのに」って拗ねたら「3年つき合ってたんだから」って言う。「だってあたしの方が最近なのに、なんにも覚えてないじゃん、あたしが言ったこと」「そんなことないよ。なんでも覚えてるよ」「覚えてない」「じゃあさ、一年後にテストしてごらん。きみとのこと、たくさん覚えてるから」。

一年後。わたしは先のこと夢見てしまう。


来週わたしはまた一週間休暇を取ってる。デイビッドは、水曜日から3日間ロードアイランドに一緒に行こうって言ってくれた。そのときに両親がサマーハウスを使ったら連れてけないけどって。「行けなかったらどうなるの?」「どこか別のとこ探して行けばいい」「あたしひとりで?」「僕とふたりで」。

デイビッドに急に仕事が入ったらダメになるかもしれない。
でも、行けたらいい。行けたら素敵。5日後のことくらいなら、夢見てもいいかな。
嬉しくて嬉しくて、ブラックアウトの翌日がこんな幸せな日になった。


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ずっと一緒に - 2003年08月10日(日)

結局デイビッドは電話をくれなくて、かかって来たのは夜中の12時半だった。ロードアイランドから。雨だからどたんばになって決めて弟と一緒に来たって。ロードアイランドは晴れてるって言う。こっちはどしゃ降りだった。羨ましい。そう言ったら、「明日の朝、来る? 電車で来ればいいよ。グランドセントラルから・・・」って言ったあと、弟に向かって「3時間かなあ?」って聞いて、それから「3時間だ。着いたら駅まで迎えに行くよ」ってデイビッドは言った。

明日は教会に行くんだよって言ったら、じゃあ教会が終わる頃に電話するよって。


教会に遅刻しちゃった。車を停めて歩いてるときに携帯が鳴った。教会が終わるのは1時だって言ったのに。終わってから電話したら、「どうする? 来る?」ってデイビッドは言ったけど、それからじゃあ遅くなるから結局ヤメにした。今夜泊まったら明日仕事をコールインしなくちゃいけない。シックデーは殆ど残ってないからコールインするのは気が引ける。「だからゆうべ、『明日の朝おいで』って言ったのに」なんてデイビッドは言う。

あ〜あ。残念。ジェニーは「ゆうべのうちにアンタを連れてかなかったデイビッドが悪い」って、デイビッドのこと怒ってる。


ジェニーと教会の隣りのディムサムに行って、いっぱい食べた。それからビーチに行くことにした。ロッカウェイ。あんなにお天気よかったのに、ロッカウェイは風が強くて寒かった。それでも人はたくさん泳いでて、水はホットスプリングみたいにあったかいのかもしれないよなんて言いながら、震えながらビーチで1時間過ごした。くやしいから絶対1時間はいようってバカ言って。

夜はジョセフに誘われて、アパーウェストサイドのマレージアン・レストランに行く。デイビッドのうちのすぐ近く。行ったことなかったけど、知ってるレストランだった。ごはんを食べてからカフェを探して歩きながら、ジョセフは、このスーパーマーケットはチーズの品揃えが NYイチなんだよ、とか、ここのベーカリーのクロワッサンほどおいしいクロワッサンはほかにない、とか、ここのベーグルは有名なんだよ、とか教えてくれる。全部知ってる。だって全部デイビッドのお気に入りで、全部一緒に行ったことあるから。

アパーウェストサイドはデイビッドと歩くところ。ジョセフと歩いても嬉しくなかった。「よく知ってるね、この辺のこと」って言うから「デイビッドがこの近くに住んでるから」って答える。ごはんを食べてるときジョセフは言った。デイビッドはジーザスを信じてないからきみとは上手く行かないかもしれないよって。そんなことない、ジーザスはわたしのために何とかしてくれる、わたしを助けてくれる。そう言ったら「うん、きみの気持ちを変えるほうに助けてくれるかもしれない。それは辛くて痛いことだけど、ジーザスがそう導いてくれるならその痛みを覚悟して乗り越えなきゃいけないよ」だって。ちょっと頭に来た。

そのあとロシア系さんが迎えに来てくれて、この前行ったサウスシーポートのタンゴパーティに行く。ロシア系さんとタンゴを踊るのは楽しい。タンゴは絶対決まったパートナーと踊るのがいい。フィーリングが合うことが一番大事だから。サルサみたいに誰とでもは上手く踊れない。ロシア系さんはわたしのタンゴパートナー。それ以上の何でもない。それ以上の何も感じない。感じるわけない。


デイビッドと一緒にいるのがいい。一番いい。一番楽しくて、一番素敵で、一番・・・一番・・・ずっと一緒にいたい人。いつのまにか、ずっと一緒にいたい人になってしまった。カダーにもこんな気持ちは感じたことない。こんなふうにこんな気持ちでずっとずっとそばにいたいなんて。神さまは、ジーザスは、きっとわたしを助けてくれる。


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元気ちょうだい - 2003年08月09日(土)

目が覚めたら外が眩しかった。晴れ。急いでジョセフに電話する。お天気がよかったら教会のみんなでビーチに行ってジョセフんちで BBQ するってプランだったから。

「キャンセルになったよ。ずっと雨だったし今日も天気予報はシャワーだから」「だって晴れてるよ」「今はね。だけど快晴ってのじゃないだろ。午後からシャワーだよ」。

ジョセフはこの週末、アパーウェストサイドの友だちんちにいる。「お昼食べに出ておいでよ。それからミュージアムに行こうと思ってるから、一緒に行こうよ」。そう言われたけどあんまり乗り気がしなかった。水曜日から車のエンジンチェックライトがオンになってるのを思い出した。仕事の帰りに病院の近くのガスステーションでフルーイッドだけ見てもらったけど全部平気で、週末に修理屋さんに持ってかなくちゃって思ってた。

修理屋さんに行ったら、チェックするだけで80ドルって言われた。エンジンの調子は別に悪くない。と思う。すぐにチェックしなきゃ危ないか聞いたら、何も変化を感じないのならしばらくそのまま乗ってればいいって言われる。どこも悪くなくてチェックライトがつくことがあるらしい。わたしの「エンジンの調子は別に悪くない」なんかとてもあてにならないけど、チェックするだけで80ドルなんか払いたくなくてそのまま放っておくことにした。

雨が降ってきた。修理屋さんの駐車場でなんかちょっとアヤシげなおじさんに、パッセンジャーズシート側のドアがぼっこり凹んでるとこを30ドルで直してあげるって言われる。30ドル持ってなかった。20ドルしかなかった。ボディショップに持ってったらいくらかかるかわかんないからそれもずうっと放ってた。おじさんは20ドルでいいって言って、今日は娘のバースデーだから直させてくれって言う。10分で出来るって言うし、20ドルならいいやと思って直してもらった。きれいに直してくれた。20ドルじゃ申し訳ないような気がしたけど、ほんとにそれしか持ってなかった。「娘のバースデー」はウソなんだろうなって思った。毎日が娘のバースデーにちがいない。


カダーに電話してみる。最近たいくつたいくつって元気がなくて、昨日も電話をしてきてたから。わたしは昨日ジェニーとターキッシュ・レストランに行ってからターキッシュ・ピザが食べたくて、カダーんちの近くのミドルイースタンのレストランでテイクアウトして持ってくことにした。それから、カダーが教えてくれた世界中のビールを売ってるリカーショップにも行ってみたかった。そんなお店、2年もあの辺りに住んでて知らなかった。デイビッドがロードアイランドに行かないでうちに来てくれるときのために、デイビッドの好きなシエラネバダのビールを買った。なんとなく、スタウトにした。6本パックの半分をブルックリン・ブルーワリーのブラウンエールにしてもらった。そんなのもアリで嬉しかった。

カダーんちに行ったら、リビングルームのカーテンは引いたままだし、キッチンは汚れたまんまで、カダーは、今はルームメイトのマジェッドが自分の食器を洗わないって文句言ってる。バスルームも汚れてる。なんか全然きれい好きなカダーらしくなくて、「たいくつ」はダウンの意味だった。

「あたしがマジェッドの食器洗ってあげる」。そう言ってキッチンを片付け始めたら、カダーもテーブルに山積みになったままの食器を運び始める。バスルームも一緒にお掃除した。トイレットボールにがんがん洗剤かけて「Disgusting, disgusting, disgusting!」って言いながらブラシでごしごし洗いながら、カダーはだんだん元気になってく。

それから持ってったターキッシュ・ピザをカダーが切ってくれて、スマノフを半分コしながら飲んだ。一口飲むたびカダーはわたしに瓶を渡してくれて、わたしは一口飲んだら瓶をコーヒーテーブルの上に置くから、カダーは怒ってわたしは大笑いする。「コーヒー煎れてよ」って言ったら「自分で煎れろ」って言いながら、ペーパーフィルター渡してくれたり「こっちのコーヒーのほうが旨いよ」って新しい缶を開けてくれたり。

カダーのベッドルームの床に、建築デザインの雑誌が落っこってた。
カダーの焦る気持ちが分かる。ダウンしてる気持ちも分かる。生活のための仕事じゃなくて、自分の国でやってたアーキテクトの仕事を、ここで早く出来るようになればいい。早く見つかって欲しい。

友だちから電話がかかって来て、カダーは出掛けることになった。

わたしはデイビッドからの電話を待ってたけど、かかって来ない。ロードアイランドに行っちゃうのか、うちに来てくれるのかわかんない。

「完ぺき無視されてるな」って笑うカダーはすっかり元気になってた。

元気出せ、カダー。
じゃなきゃあ、カダーらしくない。
それでその元気、わたしにちょうだい。


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Go with the flow - 2003年08月08日(金)

昨日の夜、わたしはデイビッドのベッドでぐっすり眠れた。わたし用に7時に合わせてくれた目覚ましにも気づかないでデイビッドに起こされたくらいに。いつも途中で何度も目が覚めて、ちゃんと眠れなかったのに。着替えてバイを言いにベッドに戻ったら、デイビッドは眠ったままわたしの手を取って、握ったわたしの左手の指にキスしてくれた。


ウォーターメロンとブルーベリーを綺麗にお皿にのっけて、アイスコーヒーを作ってくれて、トーストに塗ったゴートチーズと別にエイジドのゴートチーズのスライスとプルーンを添えた軽いディナーを、いつものように大きなデーブルの端っこと端っこに座って食べて、いつものようにナターシャがわたしのそばにいて、いつものように素敵な音楽聴いてテレビを見て、何もかもいつもと一緒だったのに、いつもと違う木曜日の夜だった。

わたしは確かなものを見つけられた気がした。いつもとおなじデイビッドに。


だからいつもと違った朝だった。少し抜け出せたような気がした。安心してた。
デイビッドのとこから一旦うちに帰る途中で、あの人からの携帯が鳴った。「うちにかけたけどいなかった。仕事?」。「うん」って答える。うちに帰ってシャワーを浴びてそれから仕事に出掛けるんだったけど。


ジェニーは今日ちょっとヤなことがあって鬱いでた。それでバイブル・スタディーを一緒にさぼってジェニーをショッピングに連れ出した。お揃いの、チャイニーズ・カラーの白いシャツを買った。来週の水曜日にはジェニーの送別会がある。そのときに一緒に着ようよってジェニーが笑う。ジェニーがオフってだけでつまんないのに、もうずっといなくなっちゃうなんて、そんなの想像もつかない。

ショッピングの間に携帯が鳴って、取ったのにヴォイスメールに変わってた。デイビッドだった。週末にまたロードアイランドのサマーハウスに弟と行く予定だったけど、弟が行けないかもしれないから、そしたらわたしを連れてってくれるって言ってくれてた。「弟が行けるようになったからふたりで行ってくる」ってメッセージだった。

ミドルイースタンのレストランに行きたいってジェニーが言うから、カダーとカダーのルームメイトと3人で行ったことのあるターキッシュ・レストランに連れてった。ジェニーはとても気に入って「また来ようよ、仕事の帰りに」って言ったあと、「ああ、あたしもういなくなっちゃうんだった」って自分で笑った。

食事をオーダーしてる間に、またデイビッドが電話をくれた。ロードアイランドに行けなくなったのががっかりだったけど、お天気が悪かったらやめるかもしれないって言うから「もし行かなかったら明日うちに来る?」って聞いたら嬉しそうに「Okay」って言ってくれた。


水曜日にアニーのオフィスに行ったとき、アニーがわたしにデイビッドのことを聞いた。「新しいボーイフレンドとはどうなってるの?」って。ボーイフレンドかどうかわかんないんだってば。おんなじだよ。そのまんま。

アニーはわたしの名前を上手く発音出来なくて、わたしのことをスージーって呼ぶ。チャイニーズの友だちのスージーにわたしが似てるらしい。でもほんとは似てないと思う。アニーには、チャイニーズもジャパニーズもみんな似てるだけだと思う。アニーがわたしのことをスージーって呼ぶから、アニーのオフィスのみんなもわたしをスージーって呼ぶ。「スージー」って呼ばれて返事するたびに、「アンタ、スージーじゃないじゃん」ってジェニーは笑うけど、わたしは「スージー」にすっかり慣れちゃった。

「おんなじ。そのまんま。週に一回デートしてる」。前に、デイビッドが ex-ガールフレンドと今でも会ってること言ったら、わたしがまたそんなバカな男に引っ掛かったって怒ってたのに、昨日はそう答えたらアニーは優しい声で言った。

「Go with the flow, Susie」。


電話を切ったら、ジェニーもデイビッドのこと聞く。「どうなってんの? 進展したの? アンタのことガールフレンドだと思ってくれてるの?」。ジェニーも気にしてくれてる。わたしがデイビッドの何なのかよくわかんないっていつも言ってること。昨日何か確かなものを感じて、でも言葉で上手く説明出来ないから言わなかった。言ったとしても、そんなわたしの中だけでのこと、ジェニーは納得しやしない。「わかんない。まだこのままでいいや。少しずつ変わってきてると思うから」。そう言ってからアニーに言われたこと言って笑った。

帰りの車の中で、ジェニーが突然笑い出す。「何が可笑しいの?」「アニーったら、『Go with the flow, Susie』かあ」。病院の駐車場まで乗っけてってくれて、それからわたしが降りるときにアニーの言い方真似して言った。「Go with the flow, Susie!」。


神さまの声は、ときどき誰かの声になって聞こえるのかもしれない。


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順番 - 2003年08月05日(火)

仕事から帰って来て、出掛けようとしたらうちの電話が鳴った。「これから何するの?」って、カダーだった。「ベリーダンスのクラスに行くんだ」「そうか」「どうしたの?」「たいくつで死にそ」。「ごめんね」って電話を切って出掛ける。カダーがたいくつだなんて珍しい。

昨日も電話をくれた。話してる途中でデイビッドが電話をくれた。カダーの電話を切って、デイビッドとの電話が終わってからカダーにかけ直す。たくさん話した。たくさん話して電話を切ったら、あの人から電話がかかった。久しぶりに長いこと話せた。嬉しかった。

順番をつけたら、あの人が1番でカダーが2番で、デイビッドが3番。電話の長さじゃなくて、気持ちの平穏の順番。それは「確かさ」の順番なんだと思った。


一ヶ月ぶりのベリーダンシングはとても気持ちがよかった。相変わらず上手く踊れないところがいっぱいあるけど、わたしベリーダンスがほんとに好きだ。一番好きかもしれない。9月には一曲を踊り切るコリオグラフィーの練習をするって。9月の終わりにはパフォーマンスが出来るようになる。

そしたら一番最初に踊って見せてあげたいのはデイビッド。あの人に見せてあげられる頃には、わたしプロくらいに上手くなってるかもしれない。何曲もレパートリーが出来てるかもしれない。初めての曲にも即興で踊れるようになってるかもしれない。あの人はおじいちゃんになってるかもしれない。そしたらわたしはもっとおばあちゃんか。その頃わたしは何をしてるんだろう。どこにいるんだろう。誰といるんだろう。


クラスが終わってデイビッドに電話しようと思ったら、バッグに携帯が入ってなかった。うちに置いて来ちゃったんだと思ったのに、うちに帰ってもなかった。病院に忘れて来たらしい。

9月にアトランタで3日間のトレーニング・プログラムがあって、行きたいけどひとりで行くのはつまんないなあ、って考えてた。ジェニーは新しい病院に移ってすぐだから、エデュケーション・デーのお休み取るのも難しい。ジャックに聞いたら「僕も行きたいと思ってたんだ」って言うから、「じゃあ一緒に行こうよ」ってわたしはさっそく協会に電話した。

病院の中じゃ携帯は使えないから、表玄関まで出て携帯を使った。それから白衣の胸のポケットに携帯を入れた。そのあとどうしたっけ? 覚えてない。明日ちゃんと見つかったらいいけど。

プログラムはもう定員いっぱいで、結局申し込めなかった。アトランタ、行ってみたかった。行けなくなったって決まったら、ますます行きたくなる。

どっか行きたいな。

1番はデイビッド。どっか一緒に行きたい人。
あの人は番外。一緒になんかどこにも行けるはずない。


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trust - 2003年08月03日(日)

昨日の午後、ジェニーとロッカウェイのビーチに出掛けたら、5分もいないうちに雨が降る。ロッカウェイはわたしと相性が悪いらしい。っていうより、一方的に嫌われてる。July 4th のときからこれで3回目。このあいだは、送ってくれるはずのブルースが「まだ帰らない」って言い出すから、ロシア系さんとのピアのタンゴの約束を2時間も遅らせてもらった上にタクシーで帰るはめになったし。

昨日はおまけに、慌てて荷物をまとめて車に乗り込んで、有料の橋を渡り終わったとたんに晴れ出した。


夜はサルサのパーティに行く。昨日はたくさん踊った。いつも来てる妙な格好のお兄さんが終わり頃ずっと踊ってくれた。すごく上手くて今までわたしなんか相手にしてくれなかったのに。悪いとこ直してくれて、それは嬉しかったけど、怖かった。「手の位置が低い!」とか「ターンの入り方が早すぎ!」とか「今テンポ遅れた!」とかガンガン言われてぶるんぶるん振り回されて、上手く出来たときは「よーし、よく出来た」って思いっきりニッコリ笑う。嬉しくてわたしも声出して笑うから、傍目には仲良く踊ってるみたいに見えてたらしい。一曲終わるたびに拍手もらっちゃったりして、びっくりした。プライベート・レッスン受けてるみたいだったのに。

ふらふらになったけど、おかげでなんか「きっちり踊らなくちゃ」って肩に力が入ってた部分がなくなった。ものすごくすっきりした。早くもっと上達しろしろ。



今日は教会で、涙が止まらなかった。
なんでかわかんない。涙が出そうになるほどスピリチュアルな気持ちになる、それとは違った。最近、教会でスピリチュアルな気持ちになり切れなかった。何かが胸のどこかに引っ掛かってるみたいで、いつも歯痒かった。もどかしかった。その歯痒さともどかしさがピークに達して、どこにも出て行くところがなくて、それで涙になって溢れ出したみたいだった。

生きてることは大変だ。だけどそれはほんとは些細なことで、天国に行けばどんな小さな悲しみも苦しみも痛みもない。憎しみもいがみ合いもなく、疑いも不安もなく、すべての人が100パーセント愛し合える。終わることなく尽きることなく。永遠の永遠の幸せの場所。わたし、そんなこと知ってる。あの娘が死んだときに知った。あの娘が教えてくれた。

だけど、たとえどんなにこの世で生きることの痛みがちっぽけでも、それをちっぽけだと思えないときがある。たとえちっぽけな痛みだったとしても感じる痛みは大きくて、痛みを感じるのも痛みを耐えるのも痛みから解放されるのも、必死の思いが必要だ。それに、ひとつ痛みが消えたらまたひとつやって来る。たとえちっぽけでも、抱えれば大きい。大きくて苦しい。

いったいそれをいくつ繰り返せば、あの娘に会いに行けるんだろう。


ミサのあいだ、教会の画家の人が大きな大きなキャンバスにジーザスの絵を描いていた。美しいジーザスだった。今まで見たことのあるどんなジーザスよりも美しいと思った。ジーザスの顔を初めて知ったような気がした。輝いた瞳に釘付けになった。涙が溢れたまま釘付けになった。くちびるがカダーにそっくりだった。それで少し笑えた。そしてカダーはなんて素敵な恵みを授かってるんだろうってまた思った。


ミサが終わってから、初めて「prayer ministry」のお祈りをしてもらいに並んだ。最近ずっと、ほんとにずっと、自分でお祈りするのが苦しかった。ひとりでお祈りし切れなかった。ルカデスって名前のその女の人は、まるで両手でお水をすくい上げるみたいにわたしの気持ちを汲み取ってくれて、わたしより小さなその体にわたしは吸い込まれてしまいたくなる。

「Trust him」。
その人を信じなさい。ルカデスはデイビッドのことをそう言ってくれた。「気持ちのコミットメント」のことを聞いたときに、Dr. スターラーもそう言ったっけ。「You have to trust him」。


trust。なんて美しい言葉だろ。美しい響きだろ。


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苦しいくらい - 2003年08月01日(金)

タンゴは、ロシア系さんのおかげですごく上達したような気がする。ミランゴも上手になった。アップビートのミランゴがとても楽しくて、ミランゴがかかると「やった」って思う。

久しぶりにロシアンの女の子が来てた。「男見つけに来てるんだ。じゃなきゃあ、お金払って毎週タンゴ踊りになんか来ないよ」なんて平然と言ってた彼女がしばらく来なかったから、てっきりどっかで「男」見つけたんだと思ってた。ロシア系さんのことがお気に入りみたいでいつもべったりしてたけど、今日はとりわけキャアキャアベタベタくっついてた。ロシア系さんがわたしと踊ってると、向こうの方からなんか叫んでる。ロシア語だからわかんない。「なんて言ってるの?」って聞いたら「『あたしとは踊ってくれないの?』ってさ」って、ロシア系さんが困った顔で言う。「踊ってあげなよ、彼女と」ってロシア系さんを押しやった。

ロシア系さんは今日も終わってからわたしを誘う。「だからね、会いに行く人がいるの」「いつものように?」「そう、いつものように」。階段を降りたらロシアンの女の子が待ってて、飲みに行こうよってロシア系さんを誘う。「あなたも来るでしょ?」ってわたしに言うから「約束があるの」って答えて、「誘ってくれてありがと」ってハグしながら「来週もおいでよね」って言った。ロシア系さん、彼女とくっつけばいいのに。彼女はものすごく背が高くて、のっぽのロシア系さんとちょうど釣り合う。


デイビッドは、リンカーン・プラザ・シアターに連れてってくれた。小雨が降ってたから傘を持ってったけど、タクシーを拾う。シアターの隣りのコーナーストアで、わたしはコーヒー、デイビッドはジンジャーエイルを買った。傘の中にコーヒーを隠してどきどきしながらチケット切りのおじさんの前を通る。「The Housekeeper」ってフランス映画だった。可愛くて可笑しくて切なくてちょっと痛かった。終わり方があっけなくて、引きずらないから余計に痛かった。綺麗な映像だった。外国映画はいつも綺麗。

「恋はいつも女に痛みを与える」って、B5 のナースがこのあいだ言ってた。そっくりそのままロジャーに言ったら「男にもだよ」ってロジャーは言った。そんな当然なこと、わたしは忘れてた。少なくとも、ここに来てからのわたしの恋は、いつもわたしだけが痛い思いをしてるみたいだったから。男は痛くないふりするのが上手。女は年を取るほど痛くないふりが出来なくなって、男は年を取るほど痛くないふりが上手くなる。そう思う。

雨は相変わらず降ってたけど、傘をささずにお店の軒下やカフェのパティオのパラソルをくぐりながら、ふたりでピョンピョン走る。「どうやって帰ろうか」ってわたしに聞いたと思ったら、デイビッドは通りの向こうにいきなり走ってく。バスが来る。慌ててわたしも追いかける。「このバス、どこに行くと思う?」「あなたんちのすぐ近くのあのバス停?」「近い」「どこ?」「この時間はね、バスは止まって欲しいところに止まってくれるんだよ」。

バスの中で携帯が鳴った。またバッグを手探りしてるうちに切れた。少し経ってから ID を見たら、やっぱりカダーだった。メッセージが入ってた。「長いこと話してないね。電話してよ」。取れたらよかったって思った。「今デイビッドと一緒なんだ」ってデイビッドの隣りで言えたのに。

デイビッドが運転手さんに場所を告げて、バスは本当にデイビッドのアパートの前で止まってくれた。

デイビッドがナターシャをトイレに連れ出してるあいだ、わたしはお茶を煎れる。また携帯が鳴ってカダーだと思って取らなかったら、デイビッドだった。何かあったのかと思ってかけ直す。「今あたしに電話した?」「うん。メッセージ入れた」。

『僕はナターシャを散歩させてて、きみはうちでお茶を用意してる。すぐ戻るよ』。

笑っちゃった。


わたしの寝る用意が出来るまで待っててって言ったのに、着替えて歯磨きして顔洗ってベッドに行くと、デイビッドはもう半分眠ってる。腕に飛び込んで「もう寝たの?」って聞いたらおでこにキスしてくれる。洗濯したての匂いのシーツにくるまって、わたしはなかなか眠れない。ベッドをそっと抜け出してリビングルームのカウチに座って、また少し切なくなる。切なくて、帰っちゃおうと思って洋服に着替えた。それでもまだカウチに座ってた。

神さま、わたしを安心させてください。安心させてください。安心させてください。

ベッドからデイビッドがわたしを呼んで聞く。「ねえ、大丈夫?」。デイビッドの寝顔を見たら、一瞬息が止まってため息みたいな吐息がこぼれる。帰れない。心配させるから。洋服のままベッドに滑り込んだら、デイビッドは眠ったままわたしを抱き締めた。苦しいくらい抱き締めた。苦しいくらい、ずっと抱き締めててくれた。


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