一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。


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2004年03月28日(日) 第二部  その18

里子ちゃんのお父さんが・・・、

「さとこ・・・悪いねー、お父さんが怪我さえせんかったら、高校ぐらい行かせてやれたのにね、さとこ一人に頼ってしまって・・・」

その時の里子ちゃんが言った言葉が忘れられなくて、

「爺ちゃん?さとこがいなくなったら淋しいか?我慢してな、爺ちゃんを病院に連れていきたいとよ・・・お父さん?さとこがおらんと淋しいか?我慢してな、お父さんの足、治しちゃるから・・・お母さん?さとこがいない間、体、壊さんようにがんばってな、お金いっぱい送るから・・・弟や妹には高校、行かせてやりたいから。」

あの時みんな泣いた・・・爺ちゃんもお父さんも、お母さんもみんな泣いてたのを思い出します。お母さんが声を殺して泣いてたのを、今思えばあの時、一番、淋しかったのはお母さんだったんでしょね、しばらくして、お父さんが自分に言い聞かせるように喋りはじめたんです、

「さとこは行かんでもいい!その代わりこの家を売って町へ出る!」



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2004年03月27日(土) 第二部  その17


第二部 その17

 
「家で造ってる焼酎とよ、飲まんね?」・・・・・・(キツそう!)

「帰り、車なんで、じゃー1杯だけ・・・」

「カメ」ごと出してきて、そこから湯呑に注いでくれるわけで、今でも憶えてますよ、そりゃー!最高でした、なんて言うか、深い味とでも言うか、キツイけど喉越しが良くて・・・二杯目が早かったのを覚えてます(笑)お爺さんが言うのには・・・
ワシの爺さんの頃からこのカメで、継ぎ足し継ぎ足し、してるからかなり古いとのこと、そりゃー美味いはずです。お母さんが大阪に行く娘のことで言いい始めた・・・、

「子のこの下にまだ四人も学校にいってるから、この子には働いて仕送り、してもらわんとね、父ちゃんが怪我してからサッパリ収入がないとよ・・・爺ちゃんも、婆ちゃんが死んでから体がメッキリ弱くなってね、病院代もない始末でね・・・」

その女の子は、こっちをチラチラ見ながら、忙しそうに台所の片付けをしてた、お母さんが呼んだ・・・「さとこ!さとこ!こっちに来て、座らんね!」

「どう?大阪へ行きたいの・・・」と、私が聞くとさと子ちゃんは黙ってた・・・。

爺さんが・・・「行きたくなかったら行かんでもいいとよ」・・・(なみだ目になっていた)
母さんが・・・「何言うとね!どうやって食べていくとね!」・・・(怒ってる!コワ)


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2004年03月22日(月) 第二部  その16


第二部 その16



今度は店の従業員を雇わなくてはならないわけで、とりあえず私の田舎に捜しにいくわけです。
その頃はフリーターなどはいない時代で、店をやるには正社員という世相でした。
しかも田舎の子の方が長続きするという考え方で、ここらの商売人はみんな田舎の方へ友達とか親戚の紹介とかで捜しに行ってましたね。

私もいろんな方が紹介してくれると言うことで田舎に帰ってみたけど、なかなかいない訳です。
こんな事もありました、ある中学卒業したての女の子が大阪へ行きたいと言ってる、と友達に聞いて、その日の夕方、彼女の家へ伺うわけです、ずーっと山奥の家で、辺りは18時というのにもう真っ暗で灯りひとつないわけです。ちょうど夕飯時で・・・、

「こんばんはーあのう、黒木君の紹介で来たんですけど」
「夕飯時にすみませんねー」・(8人は居る!みんなこっちを向いてる!汗)

家の方が・・・

「黒木さんから聞いとるとよ、あんたが大阪から来た人ねー」

「へぇーえらいまた遠いとこからねぇー疲れたじゃろー」

「まあ、そんなとこに立っとかんと上に上がらんねー」

「あ、はい!」・・・・・(これから大変な事が・・・)

        
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2004年03月19日(金) 第二部  その15

第二部 その15

オルテガさんが手に持って来たのは「お祝い金」だった、

私の前に座り・・・・・・(大きい体を動かすのにとてもしんどそう!)

「これは、今まで事務所に配達してくれたお礼や!」

「ええか、配達してた時の、あの気持ちを忘れたらあかんで!」

「店の中で料理を出すときは、雨の日に濡れながらお客さんの所に配達してた気持ちを思いだすんや、雪の日に配達してた時の冷たい手を忘れぬなよ!」


「ええか!コツコツお金は貯めるんやで、決して儲けから残そうと思ったらあかんで!贅沢せずに始末しながら残すんやで!」

「ええか!いろんな人と付き合うんや、いろんな人の話を聞くんやで、
自分の考えや意見は十年早いぞ、まず聞きながらどういう人か観察するんやために成る言葉はノートか何かにメモって残しとくや、本屋に売ってへんお前だけの、こころの本を作るや!」


言葉って凄いものですね、相手のこころに刻まれた言葉は30年経っても、昨日の事のように鮮明に出てきます。

この日から何日かしてオルテガさんは入院することになるんです。           

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2004年03月15日(月) 第二部  その14

第二部 その14


体調があまり良くないのか、オルテガさんは寝ていた・・・。

不思議と事務所の中も前とちがって、コザッパリしていました。
ソファに座って待ってると、オルテガさんがしんどそうに僕の前に座った。

相変わらず大きな頭だった、それとビックリしたのが顔色だった、「真っ黒」になってた、あの時の私は肝硬変だと顔色が黒くなるのを知らなかったし、

「あのー顔が・・・だいぶん焼けましたね・・・」

オルテガさんが、
「そんな俺の事より、のれんわけ、してもらえるんやて、よかったなー」
「コツコツ頑張ってれば誰かが見てるんや、信用、ゆうもんは自分で掴む
もんじゃないんやで、人から与えてもらうもんや!信用と書いて用事を信じる
つまりや、自分の仕事を迷わず信じて働くってことや!すると誰かが見てるから少しずつ信用してもらえるわけで、これからが勝負やで!」

「それから、おまえの店に行って飯でも食べたいが、それはやめとく」

「ワシらのような人間がおまえの店に出たり入ったりしてたら、ほかのお客さんが来なくなるやろ、それともうーこの事務所にも来るな、店のオーナーがやくざの事務所に出入りしてたら誰が見てるやかわからんからな」

「その代りや、店前に祝いの花輪だけ出さしてもらうわ、」
「尼はやくざの事務所の多いとこや、開店した店は必ず上納金を取りに
 来よるからな、ワシの花輪が出てたら誰もよう来んから大丈夫や!」

オルテガさんは、「ちょっと待っとき」と、言って、部屋の奥の方へ行った・・・


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2004年03月12日(金) 第二部   その13


第二部 その13


店を始める事になって、何かと準備で忙しくしてた、ある日・・・

商店街を両手にいっぱい荷物を持って急ぎ足で歩いてると、向こうから体のデッカイ人が2,3人と
こっちに向かって歩いて来たんです、どこかで聞いいたことのある声でした、相手の方が先に、
私を見つけたみたいで、

「おー!出前の兄さんや!しばらく顔みいへんかったなー」・・・・・・(やべっ!剃り込みや)

「どないしてたんや、親分が会いたがってたでー、よかったら今から事務所に行こか?」
「親分よろこぶでー!ああーワシな若頭になってん、この二人、ウチの若い衆や」
「おまえら!ボーっとせんと荷物!持ってあげんかいな!」・・・・・・(あ!ありがとう!汗)

「ほら!親分がよく話してる出前の兄さんはこの人やがな!」・・・・・(話してる??)

「オルテガさん!イヤ、親分さんはお元気ですか・・・兄さんも出世したんやね(笑)」

「あの時いた、みんなはやめて今、ワシ一人しか残ってへんからなー」
「親分がよく言うてるわ・・・出来の一番悪い奴が残ってもうたなーやて!」・・・・(ほんまや!笑)

「親分は酒飲み過ぎで肝臓を悪くしとるは、どーもかなり悪いみたいやで!顔が黒い!」

「立ち話もなんやから、コーヒーでもおごるわ!」

「いや、ほんまに、ありがとう!忙しいし、みんな待ってるから、はよ帰らなあかんねん!」

「わかった、荷物だけでも、いっしょに運ぶわ!ええから気いつかわんといてや!」

その日の晩・・・親分から、さっそく電話があった!

「元気にしとるか!・・・マスターから聞いたで、店やるんやてな!」
 今から、わるいけど、ちょっと事務所に来てくれへんか!」
                  
「あ!はい!」


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2004年03月05日(金) 第二部  その12


第二部  その12


親方は言った・・・

「なんで、店をやらせるかわかるか・・・」

「不安材料はいっぱいある、でもただ一つだけ、その一つだけに賭けてみようと思った」

「それは、お前が田舎へ仕送りしながらコツコツ貯めたこと、商売ってもんは金さえあれば誰でもできるが、問題は看板を挙げてから先が大事で日々の生活を派手にせず、軌道に乗るまでは何年掛かろうとも必死で生きる事が大事やな。必死に生きる事やで!お客さんの気持ちも必死に解ろうとする気持ちが大切やな、そんな想いが心に宿る。それから、一度上げた看板は自分の命やからな勝手に下ろしたらあかんで!」

「人は食べる事で生きているが、これからの時代は必ず食べる事に人はもっと贅沢になる」

「早く時代の波に気が付かなあかん!もっと本を読んで、もっと沢山の職業の人と出会い、その人達からいろんな話を聞きなさい、もちろんお客さんもやで!」

私が独立してから親父さんが亡くなるまでの何年間に、たくさんの言葉を頂いた。今でも毎日のように仕事中にも思い出す言葉があります・・・

(仕事におぼれるな、だんだん仕事が小さくなる!)
(自分に都合のいいことは、必ずお客さんには都合が悪い)

  親方が銀行の保証人になって、当時1000万の借り入れを起こした。


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