一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。


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2004年01月30日(金) 第二部  その8


第二部  その8


本当は、釣り方を教えてもらうと、いうより自分のほうから習おうとする気持ちが必要だったんだと思います、

ここに来てる釣り人達はみんなそうです、大きなチヌを釣った人には、どんな仕掛けだったか聞き出すために

ひと苦労してるわけで、釣り上げたひとも毎回、毎回、仕掛けを変えて挑戦するのが楽しみなわけです。

いろいろ試行錯誤しながら仕掛けを自分なりに完成し、夜明けの光が海面を照らす頃に竿の先に

当たりがきて、それを瞬間!合わせて釣り上げる時の感動は釣ったものしかわからないと言います・・・。

会長にビールを注ぎながら、釣れなかったことを、謝ろうとすると、会長が私に・・・

「もう、一年やってみないか?私も会長、辞めたら時間が出来るし、ゆっくりと一緒に釣りしようか・・・。」

「え!あ、あ、ありがとうございます、いやーこれだけかかっても釣れないって事はサカナ運がないってことでしょう!」

私は、ハハハハハと、笑いながらここは終わろうとした、

「本当に君には悪いことをした!君が会長をしたまえ!君がやるべきや!」

「いやいや、会長は酔ってるし、あまり大きな声でそんな事言わないように!」



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2004年01月23日(金) 第二部   その7



第二部  その7


会長が泣いた事に、みんなは責任を感じ、ただ黙って下を向いてるだけだった。

会長は続けた、

「チヌ研と言っても大切なことは、遊び心!みんながこの一年間釣りが出来た 
 のも家族とか周りの人のお陰、チヌを釣ることに心、奪われてはいないか、

 ひとつの事に固執するのは、だんだんと釣りが小さくなってはいないか」

「糸を垂れてる時、そこは海、海なんです、七つの海につながる・・・海だっ

 てことを忘れないでほしい」

「こんな流れになったのも、みんな私の責任・・・会長を降ります。今度は私 
 みたいな年寄りじゃなく、もっと若い人を選んでやってほしい。若い人の発 
 想は素晴らしいものがあります、この十年間、いい思い出ばかりでた・・・ 
     ありがとうございました。」

し〜ん  と静まりかえった空気・・・一人が拍手、またもう一人が、五人が

十人が・・・みんなが、割れんばかりの拍手で会長に十年間の感謝の気持ちを伝えた。

私は、しばらくして会長のところえ、ビールを持って注ぎにいった・


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2004年01月19日(月) 第二部  その6


第二部   その6


そんな、こんなで、ずーっと私は一年間、チヌを釣り上げることはなかったんです。

おそらく、あの時の逃がしたチヌが最後のチャンスだったんでしょうね、

25歳で自分の店をやり始めて、今思えば、お客さんを増やすことにガムシャラに生きていたように思います。

「関西チヌ研」、忘れられない事件が、もうひとつ・・・、

たしかあれは、12月にチヌ研の忘年会、8人ほどのテーブルが5つほどある中で、最後に会長のあいさつ、

会長も酔いが廻ったのか言いたい事をしゃべりはじめた・・・。

「みんな聞いてほしい!10年会長をやってきて、初めてなことがありました、とても残念です!」

それなりに食べながら聞いてたのが、みんな急に静かになった、会長は続けた・・・、

「この一年、一匹も、チヌを釣れなかった人がいます、」・・・・・・・(ドキッ!みんなの視線が・・・)

「私は彼に・・・・とっても申し訳ない事をしてしまった、」・・・・・・・(えええ!そんな!違うんです!)

「同時に残念なのは、誰一人と、彼に仕掛けと、釣り方を教えてあげてない事が私は・・・私は・・・」・・・・(泣いてる!」




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2004年01月16日(金) 第二部  その5

 

第二部  その5


「早く!一平さん早く!もうーそこまで来てる!足・足・その右足の下に踏んでるのが、タマ!早く!」

「あああ!これや!」・・・・・・私は足に敷いてた柄の長い網を取って、トシちゃんに渡そうとしたら、

トシちゃん、あわてて、直角に曲がった竿を見ながら、私の方を向こうともせず、必死に声をあげて、

「アカン!片手でタマを待たれへん!一平さん!チヌの頭が見えたら頭のほうからその網で、すくって!」

私はタマを両手で、しっかり持って!浮かび上がろうとするチヌを待ってました、・・・今でも憶えてるのは

その時、私は一瞬!頭をよぎったんです、

(このでかい、チヌを釣り上げたらたら、それこそ優勝やわ!みんなビックリするやろなー)・・・と、

それを思った瞬間!上がってきそうな、そのチヌは、ふたたび最後の力を振り絞り海底に向かって、

沈もうとしたんです。トシちゃんが・・・「オオオーエエエーまだ、凄い引きやんか」・・・・・そのとき、

イカダをつないでるロープが何本かあるんですけど、そのロープには貝がいっぱい、くっ付いてて、

その貝に糸が触れたのか・・・・・・・・・・・「プツン」・・・・・・・・・・・(あああああああああああああ)

神様は私がちょっと甘い考えをしたことを、見逃さなかった!海の神様は怒ったのでしょうね。

トシちゃんは、呆然と海の底をじーっと見ていた、立ちっぱなしの体から力が抜けていったように

腰からストン!と、座った!周りのみんなから・・・「おしかったなー、」「へこむわなー」

いままで躍動美に染まってた、あの竿が、ただ、ただ、まっすぐに伸び、その先からテグスが30センチほど

垂れてるサマは、何と虚しい光景でした。・・・・そして・・・トシちゃんが私に言ったんです・・・、

「すいませんでした、上げれなくて・・・タマぐらい教えとかな、あかんかった・・・」

私は・・・言葉もなかった。


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2004年01月14日(水) 第二部  その4


第二部  その4


実は、隣で私の変わりにチヌを釣ってくれてる人は、会長の息子さんで小さい頃から釣りに連れられて行ってたみたいで

若いけど、実力はベテラン・級らしく、みんな仕掛けを教えてもらってたました。

会長の命令で私と変わったトシちゃんは、「こんな引き!初めてやわ!」 と、何回も何回も独り言・・・(私も初めて!笑)

糸も出しきってしまい、どうするのかなあーと、思ってたら、今度は少しずつ、リルを巻きはじめたんです!

「これは大きいで!・・・どうか切れないように、神様!お願いしますよ!」・・・・・・・(トシちゃん顔が紅潮してきてるがな・・・)

だんだん、糸を巻くにつれて、沖の方から、チヌの胴体がキラリ、キラリと水面から見え隠れしてます。

魚というものは、一度水面に顔をだすと、空気を吸うせいか、ぐったりしてきます。

もう!少し!そばまで来てる!上から見たとき、確かに大きな胴体が・・・「グラリ!」・・・!

トシちゃんが改めて「デカイ!」と、叫んだ!  竿の先は完全に曲がって海のなかえ入り込んでしまってる。

他のイカダに乗ってる人達も、みんな見てる!すると会長が大きな声で!

「タマや!」・・・「タマや!」・・・・・・・・(ええええ何のこと?わからへん?タマ?)

隣でトシちゃんが、必死で今まさに釣り上げるようとしている!

「一平さん!アミ!アミ!網!その長い網!」・・・・・・・(ええええ何処にあるの!どこ!どこ)


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2004年01月12日(月) 第二部 その3



第二部  その3


「関西チヌ研」・・・入会して、3・4回、大会に参加した頃に、少しずつ釣り人のお客さんが店に来るようになり、

みんなは、商売してる人とか、会社を経営してる人とか、結構、金払いのいい人達で、私はそろそろ、また、

違ったサークルへ移ろうかと思ってるとき、近ぢか大会があるので、それを最後にやめようと思ってました。(笑)

いつもの舞鶴へ向かい、イカダに飛び乗り、みんなは、それなりに仕掛けをして、釣り始めます・・・。

今でも憶えてるのは、確か朝の4時ごろだったと思うけど、私の竿に、ぐぅぐぅぐうーっと!感触が走りました!

いきなり、竿が90度下に曲がり竿の先が海の中に沈んでしまったんです、私が慌てて竿を上げようとすると、

隣の釣り人が、「切れるから!竿を上げたらあかん!糸を出して!、糸を出しはじめてて!」、私はリルのロックを外し

、勢いよくリルが回る回る!隣の釣り人が私以上に興奮してるのか、「これは大きいぞ!これは大きい!」

糸がすごい速さで出ていって、どんどん!どんどん!引っ張られてゆきます!隣の人が・・・

「こんな知らんは!こんな引きは初めてやわ!」、そんな、やり取りをしてた光景を見かねて、会長が・・・、

「おーい!トシちゃん!変わって!早く変わって釣ってあげて!」と、こっちに向かって叫んでます。

糸が残り少なくなってきて、それでも、まだリルは、ぐるぐる回ってます!・・・。



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2004年01月10日(土) 第二部  その2



 第二部 その

初めて釣った魚がチヌじゃないけど、どうしても持って帰りたく、となりの釣り人に分からないよう、そっとクーラーに入れて、

また、竿に餌を付けて、いっぱしの釣り氏のような顔をして、海に浮かんでるウキを、今か今かと待ってるふりをしてたんです。

日もだんだん昇り始め、ポカポカ陽気の中、私は揺れる波に、とっても眠たくなりはじめ、そのまま後ろにバタン!

どれぐらい経ったんでしょうか、日も真上にあがり、どうも昼どきらしくて、みんな弁当を食べてるじゃありませんか(笑)

さっそく私も手弁当を出して・・・潮風の吹くイカダの上で・・・そりゃーウマカッタ!

毎日・毎日、調理場で働いてる私にとって、太陽の下で開放感にしたれるだけで十分過ぎるほど、満足でした。

昼食も終わり、またみんな、竿に仕掛けをして、海へ糸を(釣り氏達はテグスのことを糸と)サッサと投げ込むんです。

そうこうしてると陽もだんだん暮れ始め、みんなは竿を直し始め、さっきの船が迎えに来るんです、

そのまま、その船は小さな港に着き、渡船屋さんの家で、みんなの反省会が始まるみたいなんです。

会長の挨拶、そして今日一番大きなチヌを釣った人が優勝になるんです。

優勝した人の挨拶、幹事さんの挨拶、最後に会長がみんなの前で、少し興奮気味に、

「今日は残念ながら、坊主の(一匹も釣れない人のこと)人がいます」って言い始めました。・・・・・・・・(ドキッ!)

「初めて参加されたので無理だったかも知れません、」と、会長が・・・・・・・(ありがとう!)

「でも、次は絶対、釣ってくださいね!みんな応援してあげて下さい!」・・・・・・・ (何とやさしいクラブか)



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2004年01月09日(金) 第二部  その1

      

第二部 その1


ちょーど店を、やり始めたのがオイルショックの時期で、何とか、お客さんが来るために試行錯誤してた30年ほど前のお話になります。

私も若かったのでしょか、とにかく店でお客さんを待つだけの商売じゃ、なかなか増えないと思ったんです。

だから、いろんな所に・・・いろんな集まりに顔を出しました、そしてこの顔を憶えてもらうためにね、

たしか、春ごろだったと思いますが、「関西チヌ研」と、言うクラブに入会したんです!

グリル一平の看板を取り付けた看板屋の、おやじが、ちょーどそのクラブの会長で入会を進めてくれたんです。

私は必ずクラブの集まりに行く時は、必ず「一平」って胸に書いてあるコックコートを着て行きました・・・。

入会して、すぐに日本海の舞鶴でしたか、「関西チヌ研」の大会がありました。

小さな漁港の船で沖に浮いてる、10メートル四方の、イカダの上に降ろされます。

まだまだ辺りは薄暗く、20人ぐらいが四人ずつ分かれて、イカダに飛び移るやいなや、我先にと竿に仕掛けを付け始めます!

みんなの初めて見るその光景に、しばし感動すらしました。

私は教えられたように、竿を出し針を付けようとすると、薄っすら夜も明けてきて朝霧のなかに釣り人達が浮かび上がるサマは、それは神秘的で一人感動してました。

そんな私にも、ひとのいい魚がいたもんで、かかったんです、(笑)10センチぐらいの変な魚・・・。

隣で竿を出してる人が言いました、「チヌ以外はいくら釣っても駄目だよ!」って、・・・・(えええええ!そんな!)



                     また今度


   











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