人権〝一日100質〟
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2007年03月03日(土) 「結婚差別」との向き合い

*文学作品にみる「結婚差別」との向き合い
出典:大西巨人氏の絶版作品『地獄変相奏鳴曲』(1988 講談社)第二楽章 伝説の黄昏

 “僕(茂樹)たちは、幼少年時代から、頭に(「部落」にたいする差別蔑視を)滲み込ませられて成長したわけです。だけど、差別するのはよくないことだし、それはわかっております。・・・

 “あなたも言われたように、今日この差別観が最も露骨に表面に現れるのは、「部落民」と「普通人」との結婚問題の場合のようですが、僕は、僕自身が「部落」の婦人と結婚することはあり得ないとしか考えれません。それは、僕個人としてもそうですし、なにしろ他の事例とはまた格別に違って、親族縁者の不可抗力的な反対に出合うでしょう。

 “こういうすべてが不正不当なことであるのを十分に・・・いや「十分」にかどうか、とにかくある程度は「理論的に」・・・認識しておるつもりの僕が、恥ずかしながら、なおかつそんなふうなのです。この地方の一般的な状態は、まだまだ「とにもかくにもいくらかは理論的に認識」どころか、内心では差別蔑視を当然とし、ただ厄介なうるさいことになるのを恐れて、とりわけ部落民の前では、差別蔑視的な態度または言辞を出さないようにしとるだけの人人が、大部分でしょう。
 
 “先にも触れましたが、ご存知のように、婚姻に関して、「一般人」の皆が・・・他の物事に関しては相当に開明的または民主的な人人さえもが・・・ひそかに公然とかまず最も注意警戒する一つの要点は、相手が「部落民」「部落出身者」ではなかろうか、ということです。・・・これが赤裸々な実情であって、それはたいていあなたも否定なさらないでしょう。これも日常的によくご存知の通り、市丸三の組と他の所とでは、家庭的あるいは個人的な交際なり友人なりの関係が、皆無同然の状況なのです。”


 現実的には、むしろそれは、この地方における相対的に良心的な人人の声の代表と認められるべきであった。・・・地方的例外と程度の差とが多かれ少なかれあっても、それは全国的にもほぼ同様の状況であろう、というのが、新城の(幾つかの根拠に基づく)推定であった。

 子供の時分このかた、新城が行った矢先のほとんどで、彼は未解放部落とそれにたいする差別蔑視との存在を見聞した。正義感の強い早熟な幼年および少年前期の新城は、素朴純情な人間主義の立場から、また少年期以降の彼は、多分に社会主義的な被圧迫人民解放の見地から、部落問題ないし部落解放運動に多かれ少なかれ積極的な(しかし事実上ほとんどまったく非実践的な)関心あるいは共感を持続した。・・・


 むかしはずいぶん『部落民』への差別が甚だしかったことがわかるけれども、ほんとうのところはいまもおなじですね。表面はとにかく。・・・

 違うもんですか。おなじ日本人、おなじ人間ですよ。嫌ったり軽蔑したり分けへだてをしたりする理由は、ちっともないです。佐藤の奥さんとか、そんな人たちには、お母さんが、そう教えてやるがいい。・・・

 だが、彼が主として接触してきたのは、「部落民」の中の日本人民党員もしくは新日本農民組合員---よしんば概して彼らの大部分が理論と実践との両面において至極不充分であるにしても---であった。「部落」にも、ひどく反動的な人間や恐ろしくボス的な人物やが、たしかに存在した。それは、「部落」内部にも階級分化が現存する(「部落」自体がてつけつと変革との必要な多くの難問題を内部に抱えている)ということへの一例証であった。この「部落」内民主化への努力は、市丸三の組の全体として、すごぶる不足していた。・・・

 未解放部落民による糾弾の歴史は、「一般人」によって、悪く潤色せられたり不等に誇張せられたりもして、通念的・伝説的な恐怖および禁忌の対象になっていた。差別観・蔑視意識そのものは、実はそれだけいっそう陰に籠もったのでもある。・・・

 しかも、人人は、「部落民」が山村鉄男ないし山村一家だけを糾弾の的にするのではなくて必ずや玉島全戸全員に連帯責任を問うであろう、と考えつき、そこで始めて山村青年にたいする「批判」のような物を頭に浮かべる。・・・なにしろ人人は「差別をすること」それ自体を非難する(「あるべき糾弾」の正当性を認識する)のではない。先方(の身分)は、飽くまで平民よりも下位下等の「穢多」であり「四つ」である。その事実は、動かない。ただ相手を選ばずに下手なことを口走る奴(たとえば山村青年のごとき)がいるから、傍の者たちが迷惑する。・・・


 金の件は、完全にデマである。われわれは、金をゆする気はもとよりまるでなく、なんらかの名目で金を貰う気もまったくなく、総じて金銭で事を解決する意向はない。それは恥じるべき行為だ。事柄がそんな性質の問題でないのは、「なんぼあたしたちでん、わかっとるつもりでござす」。・・・

「ただ、私は、真実を---つまりほんとうのことを知りたいとです。現在あなた方が『部落』をどう思うてあるか、私は、よう知らんけど、これも何度も言いましたごと、『部落』を軽蔑したり差別したりするとは、ありゃまるでまちごうとるとです。そのことは、もう繰り返しませんが、・・・その“金をゆすった噂”ですな、それがてんで事実無根---根も葉もないことじゃったら、ただでさえひどい目に会うとる『部落民』たちにしてみりゃ、踏んだり蹴ったりですからね。

 その上、こんな噂は、いよいよますます『部落民』と『一般人』とを引き裂く元になります。それからですね、もしまた万が一、金をゆすったことがほんとうであったら、これは実にようありまっせん。その場合には、三の組の人たちが改心せにゃならんとです。・・・


 とにかく、なにしろ、いまのおれは、事態をはっきりとは把握していないのだから、ここであれやこれや腹を立てたり、「部落民」を擁護したり、していても、始まらない。森本ほかにも会って、よくたずね、よく調べる、そのことが、まず第一に必要なのだ。・・・
 初めから優秀な党員、生まれつきの共産主義者なんか、まずどこにもいやしないでしょう。・・・
 新城は、「このへんで嫌気が差したり弱腰になったりするのが、これの駄目な所だ。もうとっくに、特に軍隊で、おれは、そんな所を卒業したはずなのに。」と考え、みずから恥じて、気を取り直すべくあわただしく努めた。


 ある日本人たちは、朝鮮人を、中国人を、全体として軽蔑しているでしょう?あるアメリカ人たちは、日本人を、黄色人種を、全体として軽蔑しているでしょう?そんなことは、まちがいです、不正です。しかも、日本人があたりまえだと言って朝鮮人や中国人を軽蔑するなら、アメリカ人もあたりまえだと言って日本人や黄色人種を軽蔑するだろう、ということです。・・・
『一寸の虫にも五分の魂』と言うでしょう?まして朝鮮人は『一寸の虫』どころか、国を改めて新たに作り上げている最中の立派な民族です。」

 宿命論的な諦念にたいする(まだかすかな)反抗が、兼吾の内部に芽生えてきていた。
 おれは「一寸の虫」じゃなかったろうか。そのくせ、「五分の魂」も持っとらんじゃったごたぁる・・・ 


新城
 “調査の結果を要約しますと、第一に、・・・噂は、ほとんど完全に信ぜられている。ここでとりわけ留意するべきは、それが佐久間川地区以外にも広まっていて、しかも党員たちの相当数の耳にも届いたのに・・・いっこうに問題にならず、また佐久間川細胞に通報することもなかった、という点です。・・・

 第二に、金銭の受け渡し事実の有無などについて。・・・「部落民」は、まったく金銭あるいは物品を受け取っていません。・・・かえって、差別者側が下劣な想像すなわち憶測に基づいて持って来た金を「部落民」側が前後二回とも突き返した、という事実はあります。

 それじゃ、差別事件を起こした本人もしくはその家族は、こういう場合に金を出していないのかどうか、となると、実は出しています。・・・ただし受け取り人は、決して被差別者側ではなかった。実に、「有志」、「顔役」、「ボス」の類が、受取人だったのです。・・・しかも、噂としては、“「部落民」が金をゆすった。”だの“「部落民」のために金を出した(出させられた)。”だのという言い方の類が、行われます。ボスどもが、また往往にして「事を丸く収めるには、何かと少なくない費用が掛かってねぇ。」というように微妙な言葉を弄したりもするのです。・・・

 結果としては、差別観念・偏見は、いっそう根強くなり、のみならず、これがさらに由々しい問題ですが、差別観念・偏見と、その基礎とを共に打ち破るべき道すなわち「部落民」の社会的・経済的な解放の運動は、まるで進展しません。・・・

 なお、この大ボス、小ボスたちが、場合によっては、あの種のデマ(“「部落民」が金をゆすった”云々の噂)を故意に広める、という可能性も少なくなく、われわれはそれの実証根拠をだんだんつかみつつあります。・・・”


 たまたま耳に入った噂話を新城が決して聞き流しにせず追求に努めた、という事実から、兼吾はまた、新たな感動を受け取った。
 『三の組の全員が、「五分の魂」に正しく目覚めにゃならん。真っ先におれが、そうせにゃならん。』と痛感した。・・・







2007年03月01日(木) 東京都の「障害」者問題について

もとになった「障害」者虐待事件の資料
「白河育成園虐待事件」被害者弁護団資料

<障害者虐待>白河育成園解散へ 体罰などで園生が減少

・・・理事長への捜査が行われる中、施設そのものが解散する異例の展開になった。・・・さらに被害者側弁護団は複数の女性園生に対する性的虐待があったとして・・・


ちなみに
東京→新白河(JR新幹線やまびこ)
1時間32分(乗車1時間16分、ほか16分)かかるそうです。
距離:185.4km
運賃:片道6,290円(乗車券3,260円 特別料金3,030円)乗り換え:0回




『日弁連 人権侵犯申立事件 警告・勧告・要望例集』より抜粋
日弁連 人権侵犯申立事件 警告・勧告・要望例集

2001年3月8日 知的障害者更生施設における暴行問題人権救済申立事件(警告・勧告・要望)
【2001年3月8日 東京都・知的障害者更生施設Aに入所措置をした福祉事務所を管轄する市・区及び福島県宛警告、東京都知事・B元施設長宛勧告、厚生労働大臣宛要望】 http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_case/2000.html
知的障害者更生施設の施設長が、同施設の入所者に対して、殴打、足蹴り等の暴行及び暴言を繰り返すなどにより入所者の人権を侵害したとして、施設長に対して今後そのような人権侵害を行わないように警告し、知事、市長及び区長に対して入所者の実態を把握するとともに人権擁護のために必要に応じて然るべき具体的措置を講じることなどについて勧告し、厚生労働省に対して実効性のある権利擁護制度の立法的措置を講ずるよう要望した事例。


申立の趣旨

 相手方C
社会福祉法人A会理事長でありAが設置しているB園の施設長である相手方Cは、B園の入所者らに対し、暴力、性的虐待、医師の処方に基づかない薬物の大量投与、業務上横領、寄付金の強要などの人権侵害を行ったことを認め、被害者らに陳謝せよ。


「調査報告書」

 知的障害者に対する援護については、知的障害者の居住地を管轄する福祉事務所を設置する都道府県または市町村が実施するものとされ(知的障害者福祉法九条)・・・

 東京都では一九九七年時点で知的障害者更生施設が全体で六七ヵ所設置されて」いるが、うち四〇ヵ所が都外に設置されている。
 東京都において、知的障害者の福祉のために交付されている療育手帳の交付を受けている知的障害者(児)は約四万人にのぼる。
 うち約七〇〇〇人が施設に入所しているものの、施設入所を希望しながら入所できないまま待機している知的障害者は約九〇〇名にものぼっている。
 東京都は・・・都内では地価も高く、建設予定地の住民同意を得るにも困難があり、一方、地方の過疎地自治体からは、建設、運営、雇用による地域の活性化に資するとの考えから、ときには陳情にも似た形で積極的な施設誘致の申し入れがなされ、昭和六〇年代には山形県、秋田県などに数多くの施設が設置されるようになった。・・・


 福島県では、厚生省が定める「社会福祉法人監査指導要綱」により通常は年一回指導監査のところ、設立された一九九六年には二回実施している。・・・
 なお、県では、体罰は勿論のこと、風邪薬等の睡眠を誘発する市販薬が大量にあったことは確認しているが、薬事法違反の事実や横領の事実までは確認できていないとのことである。・・・

 入所者に対する暴力

 一九八一年の国際障害者年や一九八三年からの国連・障害者の一〇年を経て、障害者の人権保障のあり方については、地域社会から隔離収容して保護を受ける容体として障害者を捉えるのではなく、自己決定権に支えられた自己実現を最大限に尊重し、可能な限り地域社会において自立を支援されることこそが重要であると考えられるに至っている。いわゆるノーマライゼーションの考え方である。
 すなわち、現在、修学期間を経過した知的障害者は、一般就労をなした場合や重度の重複障害のために在宅支援を受けるしかない場合等を除き、社会福祉事業法に基づいて設立認可された社会福祉法人知的障害者福祉法等に基づいて設置する施設に入所・通所することを内容とする措置決定を受け、あるいは、地方公共団体から幾らかの補助金を受給している無認可小規模作業所等に通所して自立を支援されることが可能となっている。・・・


 近年、知的障害者に対する人権侵害事件が頻発している。
知的障害者は、自己の権利を主張し、これを行使することが困難な場合が多く、自己の財産についても、これを適切に管理し、有効に活用することが困難である。また、他者からの権利侵害を受けやすく、また自らが侵害された権利の回復を図ることも困難な場合が多い。
けだし、知的障害者は、権利の行使が違法に妨げられ、或は自らの人権が違法に侵害された場合でも、その障害のために、独力でかかる違法な行為を除去したりすることはおろか、自ら声をあげて違法な妨害、侵害を相手方や周囲に訴えたりすることが困難な状況にあるからである。
 このため、知的障害者は、地域社会から悪意や偏見に基づく差別や侵害を受けたり、関係施設等の援助者らから妨害・侵害行為を受けても、差別・妨害・侵害行為が表面化しにくく、それがゆえに、ますます、意識的に、あるいは無意識のうちに、種々の人権侵害を受けやすく、かつそれが継続し、またその事実も隠蔽されてしまい外部に漏れにくくなっている。・・・

 今回のB園事件は、知的障害者福祉法上、一八歳以上の知的障害者を入所させて、これを保護するとともに、その更生に必要な指導及び訓練を行うことを目的とする知的障害者更生施設内で発生した人権侵害事例であるとともに、理事長兼任施設長が自ら意図的かつ長期にわたって反復して行ってきた人権侵害例という点で特徴的である。・・・


 仮に家族が、帰宅の折に入所者から人権侵害の事実を告げられる等して被害の事実を知ったとしても、A会理事長兼B園施設長である相手方Cに苦情を申し立て、或いは、関係行政機関や第三者に対して被害の事実を告発することは心理的にも困難な状況にあった。
 都外施設であるB園に子弟等の入所措置決定を受けている家族とすれば、東京都下における法定施設は勿論のこと、無認可作業所すら施設定員は一杯であって、いずれに入所・通所させるかの選択の余地はなく、かといって様々な事情で家庭内で援助することも困難な状況にあったことがうかがわれる。
施設内において相手方Cに苦情申立をしたとしても、同人が法人理事長と施設長を兼任していわば絶対的な権力を有していた状況からすれば、退所を余儀なくされることが予想され、また、仮にそうなれば、たちまち、その日のうちから、自宅に連れ帰った知的障害者の処遇に困惑する状況に陥ることは目に見えていたのである。・・・


 都外施設であるB園に対する調査・指導は、遠隔地であること、近隣情報が入ってきにくいこと等からして、援助実施の現場にいる福祉事務所担当者としても、入所実態及び処遇内容を把握することはもともと困難な状況にあった。
施設へ定期的に訪問するとしても人員・予算の関係で難しい状況にあり、折角現地へ赴いても遠方であるがために滞在時間にも制約があり、施設内の行き届いた視察、入所者からの事情聴取も十分には出来ない状況にある。・・・

 一方、施設認可主体である福島県にしてみれば、入所している知的障害者のほぼ全員が東京都民であることから、保護者等を通じて施設内の情報が入ってくることが少なく、また、都外施設ということもあってB園が地域との交流をほとんど図っていないために、その方面からの入所者処遇の実態を把握することにも支障があったと言えよう。

しかし、それだけに、相手方各市・区にしろ、相手方福島県にしろ、このような都外施設において、ひとたび人権侵害事案が生じた場合には、事態を早期に発見し、早期救済を図ることが困難であることを十分に認識すべきであったのである。・・・

 また現場の担当者は職員や家族を通じて具体的な施設内部の情報を得る機会も多いといえるのであって、いわば、福祉事務所担当者こそが措置を受ける知的障害者の最も有力な人権擁護の砦であらねばならないのである。この権限の適切な行使が強く期待されるところである。・・・

 平成一二年六月七日法第一一一号により社会福祉法及び国連法改正が国会にて成立し、施設と知的障害者等の利用者間の契約により施設サービスが提供され、関係地方公共団体は援護の実施者としての立場を降り、国及び関係地方公共団体は支援費を支出するに止まることとなった。・・・同改正法は、まず事業者ごとに第三者委員の選任を含む苦情解決制度の設置を義務づけ、次に都道府県の社会福祉協議会に福祉サービスに関する利用者からの苦情を解決することも目的とした運営適正化委員会を設置するものとした。・・・しかしこれらの制度は・・・利用者と提供者との間に立つ調整的なものである。

 利用者の権利擁護の視点から、独立性が確保された中立・公正な立場にある第三者機関が、独自の調査権限を持って、是正勧告や職権発動も含めた迅速で実効性のある解決システムを、更に立法的に解決すべきである。



 「人権メタボリック症候群」発言をした文科相の足元では、「障害」を持つ子どもたちの人権状況がまだまだ十分ではありません。

 「要望書」には「人権擁護の砦」という語句が盛り込まれ、解放運動が弁護団等と連携してたたかってきた歴史を再確認できました。

  自分としても他分野での取り組みに連携し、草の根でのつながりを少しずつ広げていきたいと思います。


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