
2001年3月8日 知的障害者更生施設における暴行問題人権救済申立事件(警告・勧告・要望)
【2001年3月8日 東京都・知的障害者更生施設Aに入所措置をした福祉事務所を管轄する市・区及び福島県宛警告、東京都知事・B元施設長宛勧告、厚生労働大臣宛要望】 http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_case/2000.html
知的障害者更生施設の施設長が、同施設の入所者に対して、殴打、足蹴り等の暴行及び暴言を繰り返すなどにより入所者の人権を侵害したとして、施設長に対して今後そのような人権侵害を行わないように警告し、知事、市長及び区長に対して入所者の実態を把握するとともに人権擁護のために必要に応じて然るべき具体的措置を講じることなどについて勧告し、厚生労働省に対して実効性のある権利擁護制度の立法的措置を講ずるよう要望した事例。
申立の趣旨
相手方C
社会福祉法人A会理事長でありAが設置しているB園の施設長である相手方Cは、B園の入所者らに対し、暴力、性的虐待、医師の処方に基づかない薬物の大量投与、業務上横領、寄付金の強要などの人権侵害を行ったことを認め、被害者らに陳謝せよ。
「調査報告書」
知的障害者に対する援護については、知的障害者の居住地を管轄する福祉事務所を設置する都道府県または市町村が実施するものとされ(
知的障害者福祉法九条)・・・
東京都では一九九七年時点で知的障害者更生施設が全体で六七ヵ所設置されて」いるが、うち四〇ヵ所が都外に設置されている。
東京都において、知的障害者の福祉のために交付されている療育手帳の交付を受けている知的障害者(児)は約四万人にのぼる。
うち約七〇〇〇人が施設に入所しているものの、施設入所を希望しながら入所できないまま待機している知的障害者は約九〇〇名にものぼっている。
東京都は・・・都内では地価も高く、建設予定地の住民同意を得るにも困難があり、一方、地方の過疎地自治体からは、建設、運営、雇用による地域の活性化に資するとの考えから、ときには陳情にも似た形で積極的な施設誘致の申し入れがなされ、昭和六〇年代には山形県、秋田県などに数多くの施設が設置されるようになった。・・・
福島県では、厚生省が定める「社会福祉法人監査指導要綱」により通常は年一回指導監査のところ、設立された一九九六年には二回実施している。・・・
なお、県では、体罰は勿論のこと、風邪薬等の睡眠を誘発する市販薬が大量にあったことは確認しているが、薬事法違反の事実や横領の事実までは確認できていないとのことである。・・・
入所者に対する暴力 一九八一年の国際障害者年や一九八三年からの国連・障害者の一〇年を経て、障害者の人権保障のあり方については、地域社会から隔離収容して保護を受ける容体として障害者を捉えるのではなく、自己決定権に支えられた自己実現を最大限に尊重し、可能な限り地域社会において自立を支援されることこそが重要であると考えられるに至っている。いわゆる
ノーマライゼーションの考え方である。
すなわち、現在、修学期間を経過した知的障害者は、一般就労をなした場合や重度の重複障害のために在宅支援を受けるしかない場合等を除き、社会福祉事業法に基づいて設立認可された
社会福祉法人が
知的障害者福祉法等に基づいて設置する施設に入所・通所することを内容とする措置決定を受け、あるいは、地方公共団体から幾らかの補助金を受給している無認可小規模作業所等に通所して自立を支援されることが可能となっている。・・・
近年、知的障害者に対する人権侵害事件が頻発している。
知的障害者は、自己の権利を主張し、これを行使することが困難な場合が多く、自己の財産についても、これを適切に管理し、有効に活用することが困難である。また、他者からの権利侵害を受けやすく、また自らが侵害された権利の回復を図ることも困難な場合が多い。
けだし、知的障害者は、権利の行使が違法に妨げられ、或は自らの人権が違法に侵害された場合でも、その障害のために、独力でかかる違法な行為を除去したりすることはおろか、自ら声をあげて違法な妨害、侵害を相手方や周囲に訴えたりすることが困難な状況にあるからである。
このため、知的障害者は、地域社会から悪意や偏見に基づく差別や侵害を受けたり、関係施設等の援助者らから妨害・侵害行為を受けても、差別・妨害・侵害行為が表面化しにくく、それがゆえに、ますます、意識的に、あるいは無意識のうちに、種々の人権侵害を受けやすく、かつそれが継続し、またその事実も隠蔽されてしまい外部に漏れにくくなっている。・・・
今回のB園事件は、知的障害者福祉法上、一八歳以上の知的障害者を入所させて、これを保護するとともに、その更生に必要な指導及び訓練を行うことを目的とする知的障害者更生施設内で発生した人権侵害事例であるとともに、理事長兼任施設長が自ら意図的かつ長期にわたって反復して行ってきた人権侵害例という点で特徴的である。・・・
仮に家族が、帰宅の折に入所者から人権侵害の事実を告げられる等して被害の事実を知ったとしても、A会理事長兼B園施設長である相手方Cに苦情を申し立て、或いは、関係行政機関や第三者に対して被害の事実を告発することは心理的にも困難な状況にあった。
都外施設であるB園に子弟等の入所措置決定を受けている家族とすれば、東京都下における法定施設は勿論のこと、無認可作業所すら施設定員は一杯であって、いずれに入所・通所させるかの選択の余地はなく、かといって様々な事情で家庭内で援助することも困難な状況にあったことがうかがわれる。
施設内において相手方Cに苦情申立をしたとしても、同人が法人理事長と施設長を兼任していわば絶対的な権力を有していた状況からすれば、退所を余儀なくされることが予想され、また、仮にそうなれば、たちまち、その日のうちから、自宅に連れ帰った知的障害者の処遇に困惑する状況に陥ることは目に見えていたのである。・・・
都外施設であるB園に対する調査・指導は、遠隔地であること、近隣情報が入ってきにくいこと等からして、援助実施の現場にいる福祉事務所担当者としても、入所実態及び処遇内容を把握することはもともと困難な状況にあった。
施設へ定期的に訪問するとしても人員・予算の関係で難しい状況にあり、折角現地へ赴いても遠方であるがために滞在時間にも制約があり、施設内の行き届いた視察、入所者からの事情聴取も十分には出来ない状況にある。・・・
一方、施設認可主体である福島県にしてみれば、入所している知的障害者のほぼ全員が東京都民であることから、保護者等を通じて施設内の情報が入ってくることが少なく、また、都外施設ということもあってB園が地域との交流をほとんど図っていないために、その方面からの入所者処遇の実態を把握することにも支障があったと言えよう。
しかし、それだけに、相手方各市・区にしろ、相手方福島県にしろ、このような都外施設において、ひとたび人権侵害事案が生じた場合には、事態を早期に発見し、早期救済を図ることが困難であることを十分に認識すべきであったのである。・・・
また現場の担当者は職員や家族を通じて具体的な施設内部の情報を得る機会も多いといえるのであって、いわば、福祉事務所担当者こそが措置を受ける知的障害者の最も有力な
人権擁護の砦であらねばならないのである。この権限の適切な行使が強く期待されるところである。・・・
平成一二年六月七日法第一一一号により社会福祉法及び国連法改正が国会にて成立し、施設と知的障害者等の利用者間の契約により施設サービスが提供され、関係地方公共団体は援護の実施者としての立場を降り、国及び関係地方公共団体は支援費を支出するに止まることとなった。・・・同改正法は、まず事業者ごとに第三者委員の選任を含む苦情解決制度の設置を義務づけ、次に都道府県の
社会福祉協議会に福祉サービスに関する利用者からの苦情を解決することも目的とした運営適正化委員会を設置するものとした。・・・しかしこれらの制度は・・・利用者と提供者との間に立つ調整的なものである。
利用者の権利擁護の視点から、独立性が確保された中立・公正な立場にある第三者機関が、独自の調査権限を持って、是正勧告や職権発動も含めた迅速で実効性のある解決システムを、更に立法的に解決すべきである。