僕は悲しい時に笑う理由なんてわからない  2011年06月28日(火)




「ねえ君は、なんてずるいんだろうね」

そう言って君は笑った。笑ってた。
ズボンをはきかけていた僕は、そう言われても君は笑っているものだから、それが非難なのかも嘲笑なのかも純粋なおかしさなのかもわからなくて、ただ曖昧に唇のはしをあげてベルトの穴を通した。
まだ裸の君は、そんな僕の腰のあたりをつっとなで上げて、笑みをたたえ続けたまま。

「ねえ今日で何回目のセックスかわかる?」
「さあ。そうだな、100回目くらい?」
「99回目だよ」
「ニアミス賞もらえる?」
「ねえ、なんで君はそんなにずるいんだろうね?」

君は笑った。
唇は綺麗な半円。
目だって三日月だ。

「ねえ、99回、99回もだよ、私は、ただ、君のためだけに口紅を引いて、君のためだけに下着を選んで、君のためだけに髪をくしでとかして、君のためだけに股を開いて、君のためだけに肌はいつも白いままにして、君のためだけに時間をつくってきたんだよ」

三日月は黒目を隠して、そこにうつってる僕がどんな顔をしているか僕には見えない。

「でも君は、99回のうち99回とも、ただ私に甘えて、私に愚痴をいって、私に冷たくして、私にキスをして、私に愛撫して、私にいれて、私に我慢させて、それでおしまい」

僕の唇はねじれ曲がった三日月をつくって、冷たく君を見ているんだろう。

「そんなこというなら、もうしない、もう会わない、それでいいじゃないか。やめたきゃやめればいいだけだろう」

君は一瞬たりとも唇の形を変えなかった。

「うん、そうね、そうだね」

君はそっと僕に腕を回した。

「愛してるよ」
「僕もだよ」
「ほんとうにほんとうに好きなの」
「ああ、知ってる」
「だけどね」
「なに?」
「100回目は、私を一番に大切にしてくれなきゃ、いやなの」

君はそっと僕の薬指に触れた。。

「どんなことだって君にしてあげられるよ。でも、100回目は、私の誇りにかけて、私を一番に大切にしてくれなきゃ、しないわ」

そういって見上げる君はやっぱり笑ってて、
目から涙が溢れてた。









僕は悲しいときに笑う理由なんてわからない。
でも、君が笑っていた理由は、諦めたからだった。




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