二度と戻らない暁に憧れを抱いて絶望を掻き集め  2008年07月09日(水)



「貴方は何を見ているの?」

赤い赤い唇で君はそう囁く。

「いいえ何も」
「いいえ嘘よ。貴方は何かを見ているでしょう?」
「それではきっと貴女を」
「それではきっと貴方は嘘つきね」彼女の唇が完璧な弧を描く。
「ああ、貴女はなんて美しく僕を誘惑するのか」
「私は何も誘惑していない。だって貴方は何にも誘惑されないから。貴方の心はまるで動じないから」
「いいやそんなことはない。そんなことはない。僕の心はいとも簡単に揺れ動くだろう」
「本当に?」
「ああ本当に」
「本当に、本当にそう思っているの?」
「ああ、そう、本当に。本当に」
「貴方の体が誘惑に負けたとしても、貴方の心が動くことは貴方が生きてきたこれまでで一度もないわ」
「……」
「貴方は何かを求めたことも、欲したことも、他人に期待したことなど、一度もない。だって」
「やめ、ろ」
「だって貴方は」
「やめろ」



「だって貴方は自分以外を必要としてはいないから」











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そうしてそれを孤独というのかい?そうして君はそれを軽蔑するのかい?










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