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■ 書き逃げ
前に、蜻蛉に取り掛かる前、書き途中で止めた話があるということをちらりと言ったのですが、日記に書くような話題がないので、それをちょいとのせてみようかなと。続編なんて期待しないぞコノヤロー(猪木口調)という方だけ、読んでやってください(笑)つうか、本当に途中でぶちきれてます。続編はないです。題名もないです。
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「ちょ、マジ頼むよ。な?一生のお願い!だって俺、みっちゃんしか頼めるヤツいねぇんだもんよう」 「お前なあ、成人式を迎えた一人前の男を掴まえて、そんな可愛いあだ名で呼ぶなっつうの」 「っていうか、マジ頼むよ。ほんと、金なら払うからさあ」 「お前の頼みはそういうレベルの問題なのか?」 「そーいう問題っしょ?」 俺は頭を抱えた。この男、一生のお願いというやつを、コンビニでお弁当温めますか?はい、お願いします、という程度にしか考えちゃいない。そりゃあ、車を貸せ、金を貸せ、ぎりぎりのところで俺の女を好きになっちゃいました、付き合ってもいいですかくらいなら、日本一寛容力がある25歳、相馬充雄、許してやってもいいと思っている。いや、実際今まで許してきたのだから、こりゃアッパレと世間の皆様にお褒め頂いてもいいくらいだ。 しかし、今回の一生のお願いについてはこちらにも言い分がある。 言っておくが俺は男で、さっきから俺の前でピイピイ泣いている夏目翔もれっきととした男である。そりゃあ、翔は普通の成人男性より多少だらしなく、多少いい加減であり、多少プー太郎が長かったり、多少常識を逸脱している部分があるとしても、やはり俺の親友に変わりはない。それは保証する。翔は、どうしようもなくいいヤツだ。 しかし、こうやって俺の住んでいるぼろアパートまで押しかけてきた翔が持ちかけた頼みとは、とても今までのお願いとは比べ物にならないほど、そりゃあショッキングなものだったのだ。 俺は即お断り、さっさと帰ってくれってな態度で立ち向かっているのだが、まるで捨てられた子犬のように足元にじゃれついてくる(実際には縋り付いているのだが)翔を目の当たりにしてしまうと、邪険に追い払えなくなってしまうのが俺の運の尽きってところか。 「充雄ぉ」 おいおい、そんな上目使いで見られたってな、今回ばかりはどうしようもないじゃないか。俺は大きく溜め息を吐くと、翔の猫ッ毛をくしゃくしゃとかき回した。 「翔、お前さあ。もっと別の方法考えろよ。どうしてもって言うんなら、俺が金貸してやるしさ。そもそも、お前が自力で百万なんて金を稼ごうなんて最初から無理なんだよ」 「うわっ、なんかその言い方って酷くねぇ?最初から俺って期待されてないの?」 「なあ。俺はお前のどこに期待したらいいんだよ。そっちを教えてくれ」 翔は頭に置いた俺の手を退け、俺の敷きっぱなしにしていた布団の中に潜り込んだ。 「もういい!充雄がダメなら、もっと他のヤツ探すわ」 「本気か?」 「だってそうだろう?とにかく、俺は一回でもいいから練習をしておきたいわけよ。分かる?もしさ、その場に言って怖いよ〜痛いよ〜助けてよ〜じゃあ、さすがにバツが悪いってもんでしょ。それに、オーナーにだって悪いしさ」 「なあ、もっと地道な方法で稼げないわけ?」 「それじゃあ間に合わねぇって言ってんじゃん。二週間しかないんだよ、二週間。オーナーに言ったら、前借りもさせてくれて、期日までには百万用意してくれるって言ってるしさ。これって、棚ボタ?俺ってやっぱりラッキーボーイ?ってか」 俺は立ち上がり、布団に包まった翔をぐりぐりと踏みつけた。 「いてぇ!なんだよ、嫉妬してんの?残念だね、充雄みたいにでっかくて男臭い男は人気ねぇんだってよ。何てーの?俺みたいにさ、色が白くて、筋肉なくて、目とかぱっちりしちゃってさ、こういうのがもてるんだって。わりーね、みっちゃん」 「あのなぁ、誰もホモおやじにモテたかないっつうの」 「そう?俺は好かれれば誰でも嬉しいけどね」 くすくす笑っていた翔は、布団の中から抜け出すと、少しだけ真面目な顔をして俺の顔を見つめた。 「何だ?」 「うーん…あのさ、充雄って昔から、俺にすっげぇ甘いじゃん?だから、俺もいざとなるとすぐ充雄に頼っちゃうってわけよ。でもさ、そーいうのって、やっぱいい加減悪いな〜って思うわけさ。いつまでも充雄に甘えてちゃいけないな〜って感じ?だから、今回は自分の作った借金くらい、自分で払いたいんだよ。充雄の手はやかせないって決めたの」 「とか何とか言いながら、結局こうやって頼りに来てんじゃないの?」 「まあまあ、それは明日からってことで」 まったく調子がいいというか、世渡り上手というか。こうやって、結局俺はなんのかんのと世話を焼いてしまうわけなのだ。 「ということで、充雄。不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いします」 「そりゃあ、わざわざご丁寧に…っておい、お前なぁ」 俺の制止もなんのその、翔は元気よく裸になっていた。 そう、今回の翔の一生のお願いとは、自分のバックバージンを俺に奪って欲しいということなのだ。というのも、翔がバイトしているバーのオーナーに誘われて始めようとしている仕事はコールガール、もとい、コールボーイというわけなのだ。指定のあったホテルの部屋に出向き、つまりは男とセックスをするのである。簡単に言えば売春だ。 肉体労働だ。確かに金はいいだろう。俺も、本気で金を稼ぎたいというのなら、別にヤったからって減るもんでもなし、変な病気さえ気をつければ勝手にしろと思う。しかしだ。その練習を俺にしてくれと頼みにくるのは、どうにも納得できない。そりゃあ、俺がホモなら考えてもいい。喜んでとまでは言わないが、親友のためなら練習台になってやるってもんさ。しかし俺は、ノーマルだ。女に勃っても、男にゃ勃たない。それも相手は小学校時代からの親友だ。無理に決まっている。 そんな俺の煩悶を余所に、翔は色気のないトランクスを躊躇もなく脱ぎ捨てると、布団の上に大の字に寝そべった。はっきり言って見慣れた翔の身体は、今更しみじみと見るほどの価値もない。確かに、俺よりは小柄ではあるが、平たい胸に、薄っぺらい腰、薄く毛の生えた脛に、陰毛の中でぶらりと垂れ下がったイチモツ…。 これが女の裸であれば、据え膳食わぬは男の恥じという名言どおり、おいしく頂くこと間違いない。しかし、何はともあれ俺はホモでもバイでも、たまたま男を好きになっちゃいました、ってなあやふやなセクシャリティを持つ男でもない。 「充雄、さあ、かかって来い!」 拳を握り締め、猪木口調で言われても、少しも嬉しくない。俺は布団の上に寝転ぶ翔に、そのままコブラツイストをかけてやった。 「イタタタタタタ、ちょ、待った!!待ったって!!!」 縮こまったチンポをぶらぶらと揺らし、俺の腕を叩いて降参を伝える翔のその姿は、哀れ以外の何ものでもない。俺は深く溜め息を吐くと、軽い翔の身体を布団へ放り投げた。変な方向に捻られた腕を顰め面で擦りながら、翔はふてくされた顔で俺を見る。 「ひでえよ充雄。俺がこんなに真剣に頼んでるってのにさ」 「お前なぁ、せめてもうちょっと色っぽく誘えないのか?そんなんじゃあ、どんなスケベホモおやじもやる気が失せるってもんだぜ」 「何だよう。充雄には俺の醸し出す男の色気ってのが分かんないわけ?子供だなぁ。こう見えて、そこいらの女子高生より痴漢にあった回数は負けねぇぞ」 「んなこと自慢になるか」 「なあ〜頼むよ、充雄。いいじゃん、ちょっと突っ込むだけで、親友を助けられるんだぜ。それにお前だって気持ちいい思いするんだからさあ」 俺は翔の頭を思い切りどついた。 「馬鹿。気持ちいいわけねぇだろ。考えただけで吐きそうだ」 「ひっでぇ。俺、マジ泣きそう」 くすんと鼻をすすり上げた翔は、もぞもぞと俺の布団の中に潜り込んだ。 「翔」 「もういい、充雄には頼まねぇ。新宿行って掘ってくれる男捜してくるし」 「だから、そーいうのやめろって」 「うるさいなぁ。充雄がうじうじしてっからだろ?」 「なんだよそりゃ」 「うじ虫君。俺とエッチする気がないのなら出て行きたまえ」 「ここは俺んちだってーの」 くだらいない。ああ、くだらない。 俺は脱力してテーブルに置いてあった煙草に火を点けた。 「充雄、チュウするとき煙草臭い男は嫌われるよん」 「副流煙吸って死んでしまえ」 俺は翔の顔に煙草の煙を吹きかける。翔は大袈裟に咳き込んだ。 「俺、喘息持ちなんだぜ。シャレになんねぇって」 「じゃあ、俺がお前のケツを掘るのはシャレになんのか?」 「何、俺に惚れそうってこと?掘って惚れる。掘られて惚れられる。語呂はいいよなぁ」 俺はもう一度、翔の頭を足で小突いた。 そもそも、この男は甘すぎるのだ。今回の借金というのも、翔が好きでつくったもんじゃない。翔が今付き合っている性悪女に押し付けられたもののだ。普通の男なら、ざけんなてめぇ、自分でつくった借金くらいてめぇで返しやがれこんちくしょう、で終わるところを、翔は甲斐甲斐しくも、自らの身体を売ってその借金を返済しようとしている。まったく、お人好しと言うか、大馬鹿と言うか、とにかくそういうことを何とも思わない男なのだ、翔という奴は。俺がついつい面倒を見てしまう気分が分かって貰えただろうか?
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続く…のか?
2002年03月21日(木)
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