詩のような 世界
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あたたかな
最後の黄色い花びらが
冬の風にさらわれて
手の届かないところに飛んでいった
何をしなくても
色とりどりの花が敷き詰められた
鮮やかなあの場所を感じられる
甘くて
涙ばかりが出た
つながっていたよね
君の存在のにおい
魅惑的な花の庭に負けない強い
忘れられないにおいだった
寒くなると
君は枯れ木に登り
上へ上へ
僕は君を見失わないように
逆光に負けじと君の姿を目で追った
止めることはしなかった
できなかったんだ
どうなるかは
わかっていたのだけれど
飛んでゆく花びらは
きっと君の化身だね
僕は風になって君を運びたかった
あんな木より
もっともっと高いところまで
今、君がいる場所には
明るい光が射し込んでいる
願ってる
日が落ちるころ
僕は海の上に立っていた
水面からわずか数センチのところ
空は
上半分が濃い藍色
下半分がオレンジ色
その境目を見極めようと
必死に目を細めてみたけれど
きれいな線ではなくて
混ざり合っていた
まるで僕のようだ
どちらも本当ではなく
どちらも嘘ではない
岸辺から
裸足の人が僕を呼んでいる
遠すぎて聞こえないけれど
僕を呼んでいることがわかる
小さすぎて顔が見えないけれど
とても大切な人だったことはわかる
消えゆくオレンジの光を背に浴びながら
両腕を横に伸ばした僕は
ゆっくりと回転し始めた
飛び散る涙は
穏やかな波が引き受けてくれる
もう戻れないんだね
もう戻れないのかな
もう
そんな呟きを繰り返しながら
僕はドリルのように
水しぶきを立てながら暗い底へと沈んでゆく
先日
お届けした手紙は
あなたの目に触れなかったようなので
わたしの心の中で焼却しました
そんな灰は幼い頃から降り積もり
季節に関係なく
まるで粉雪のように
この冷たい体に舞い落ちるのでした
天を仰げば
暗闇は永遠に終わらないと
真昼の月がおしえてくれます
どうしようもないのだと、言わんばかりに
わたしは逆らえず
時の線を従順にたどってしまいます
叫びは言葉に変換され
また届かない手紙となって
葬られるのを待つのでしょうか
だいぶ前のことですが
小さな女の子は
小さなポストをのぞき込みました
毎朝、毎夕、欠かさずに
数年ほどそれを繰り返すと
女の子はポストを無表情で見つめ
スカートのポケットから灰を撒き散らしながら
どこかへ走っていってしまいました
何だか痛いな
と思って
胸の真ん中あたりを見てみたら
ぱっくりと開いた傷口が居座っていた
いつの間に?
薬になりそうなものを塗ったところ
傷口は血の代わりに涎を垂らしながら
消えていきそうになった
のに
復活し始めた
痛くて、もどかしくて
また別の薬を探してさまようのだけれど
売っていたのは同じような成分の薬だけだった
買っても治らないのはわかっているのに
手に取ってしまう
胸の間に開いた赤黒い穴が
にやにやしながら
僕を見上げて手招きしている
いつかきっと吸い込まれる恐怖
「もう埋めようとするのはやめましょう」
優しい誰かの手のひらが
泣き声をあげるこの大穴を温めてくれる
温めてくれることを、祈って
僕はいつも笑っている
それは
この人も、あの人も、笑っているから
真似をしているんだ
理由はそれしかないんだ
僕はあんまり泣かない
それは
この人も、あの人も、泣いていないから
もし彼らが陰で涙をこらえていたとしても
僕は悲しむ真似しかできないだろう
窓の外をぼうっと見ているとき
本当は景色など目に入っていないんだ
遠くにいる、いや、いるかいないかもわからない存在に
ちょっとだけ呼びかけてみている
もちろん返事は返ってこないけれど
そして静かな空に白い1本線が走っていたら
ラッキーだなぁと口に出して
また僕は戻っていくんだ
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