カフェの住人...

 

 

第二十一話 〜さえずる小鳥〜 - 2004年02月23日(月)



小さくてかわいい彼女は、とてもキレイな声で歌を歌う。





羽が生えているみたいにふわふわしていて、小鳥のように小さい。

お天気が良ければ、枝にとまって仲間と歌をさえずり

大きくてどう猛な鳥が近くにくれば、

ビクビクしながら木陰に隠れてしまう。







まだ若いのだけれど、あまり年下を意識したことがない。

そもそもこの住家では、歳などあまり気にしない。

その人の持つ ‘素の姿’ とでもいおうか

それは実際の年齢とは少し違うような気がするからだ。

逆に言えば、年上であっても

少女のようであったり、その人の少年っぽさを感じれば

若輩者の私達でも、年上の住人にも平気で意見を言う。

そんな事が許される場所。





そんな中、彼女はいつも笑い、皆を和ませてくれるけれど

常に小さな体から、内に秘めた強さを発している。

幼い頃から、とても敏感だった彼女は

沢山の事に傷つき、苦しみ、そして乗り越えてきた。

だから、強くなったのだろう。









数年前、彼女のお兄さんが片足を失った。 

その時、お父さんは一日で髪が白くなったという。

でも、彼女の家族は皆楽しそうだ。

お父さんは犬を連れて、ケーキを食べにここへやってくる。

お母さんは手作りのジャムや、近所で摘んできたものを持ってきては

色々なお話をしていってくれる。



とっても温かい家族だから、今の彼女があるのだと思う。

最初はご両親がここへ来ていた。

そのうち

「うちの娘が歌を歌うのよ、ポスター貼らせてくれる?」

そんな事から、この彼女が来る様になったのだ。


いつの間にやら、そのシンガーの彼女はすっかり住人となり

沢山の話をするようになっていった。


そして、しばらくプロとして活動していたが



「これは自分の歌じゃない」



そういって事務所を辞め、フリーとなった。



けれど、迷い、不安な気持ちは

延々と流れる川に呑まれていく。

もがいても

もがいても

岸にたどり着けない苦しみ。



彼女は歌をやめようとさえしていた。

もちろん、そんな事ができる訳がないのは知っていたけれど。



そんな答えの見えない時

丁度この住家で、とある企画の話が湧き上がっていた。

それは素敵な声で歌う人を呼んでのライヴという企画。

そして、主催するうちの一人の住人が、この彼女が歌う人なのだと知り

偶然隣に座ったその時、こう声を掛けた。



「あなたも歌えば?」



一ヵ月後本当に、この小鳥の様な彼女はその場に立った。



静かなアカペラ曲だった。

何にも頼らず、ありのままの姿で思うがままに。



その声は透き通り

私も含め、その声は人々を魅了した。

涙を流す者さえいた。

もしかしたら

同じ想いを抱えた人々の心に何かが届いたからかもしれない。

歌は、心が届く。

そして、彼女にも又

何かが届いたみたいだった。

たとえそれが、まだ未完成なものだったとしても・・・





それから彼女は、そこで出会った人達と共に

自分の歌を探し始めた。

喜びで眼に涙を浮かべながら二回目のステージに立っていた

あの姿が私には忘れられない。



答えを探すのは、途方もない旅をするようなものだ。

だから

途中、眼を反らしたっていい。

もう嫌だと、泣いてもいい。

だって、みんな同じなのだから。





それでも、今も彼女は小さな舞台で歌い続けている。











ただ歌う。



鳥がさえずるのと同じように。



答えは、本当は自分の中にある。



周り廻って自分に戻った時、初めて何かに気付くだろう。



それを見つける為の、歌という旅。



さぁ、旅は始まった。











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