カフェの住人...

 

 

第十二話 〜ノスタルジックな彼〜  - 2003年09月19日(金)


建築家を目指している若い青年がいる。

今は都内の建築事務所へ転職してしまった。

かつては必ずといっていいほど、休みになるとこの住家へ訪れていた。



とても繊細な人。

静かに夢を語っている姿は、若いけれど何か頼もしい感じもした。

日本海に面した故郷から出てきてまだ二〜三年。

けれど、彼の頭の中にはハッキリとしたヴィジョンがある。

いつかは帰り、素敵な家や店を設計したいという。



ある時、この住家で写真展をしようと盛り上がり

一ヶ月がかりでお洒落なフレームを二人で作ったりもした。

それはあまりにこの場所に馴染みすぎて、他の人には

写真展に気が付かれなかったほど。

正方形に、木目をうっすら残したダークブラウンの板を組み合わせた。

彼は何度も絵の具を塗っては擦り、こだわりの色を探し

天気のいい日には、ここの庭で一緒に試行錯誤したりもした。


そんな彼、

いつもいつもボロボロの小さなNoteBookを持ち

話をしながらも、小学生が教科書のすみっこに走らせる

イタズラ書きのようなものをこまめに描いていた。


目の前にある物を描くときもあれば、

空想したインテリアの図を描いたりもしていた。


そんなNoteBookを

十年二十年経った頃、建築家になった彼はどう見るのだろう。



そんな彼も含め、集まる住人達が私のNoteBook。


今交わしている言葉がやがて形になり、

それぞれに、時には共に大きくなっていく姿を想像して遊ぶ。

いつかは無くなるだろうこの住家だが、

みんなの胸の中にもここの面影が

遠い記憶の奥にでも残ってくれるのをかすかに望む。


その建築家のなるであろう彼のNoteBookにあるように。



そんなセピアなノスタルジーを感じさせる人なのだ。



まだまだ色んな事があるだろう。

どんな事も描いておくと、きっといい思い出になる。

あなたの素敵な作品と共に、あなたを夢見る。









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第十一話 〜硬くて柔らかい鎧〜 - 2003年09月05日(金)



彼女は初めて来たにも関わらず、その日6時間もの間この場所にいた。



落ち着いた感じのお姉さん。

BOX席で静かにコーヒーをブラックで啜っている。

ほんの少し話してみると

もう十何年前この住家のお隣に住んでいたという。

「まさかこの電車にこうして来る事があるなんてね」

そう言って微笑んでいた。


後からやって来た、いつもの住人と知り合いみたいだったらしく

今度はカウンターで三杯目のコーヒーを啜り始めた。


それから彼女は毎週ここに来る。


高校生と小学生の女の子の母というのには皆、いささか驚く。

なんと表現すればいいのだろう。

落ち着いているけれど、エネルギッシュとでもいおうか。

その両極にある彼女のモチベーションには

全て理由があった。



母一人で子供を育てるという

何事にも動じない強さ。

もう一つは、

自分を見失わない様、前向きでバイタリティーを持ち続ける。



両極にあるようだけれど、

どうも私にはどちらも力が入っているように見えてしまう。

仕事も遊びにも常に真剣に向う。

もうそれは当たり前だと言う。

疑うこともないくらいに。

確かに当然のことなのだとは思うけれど、他の人よりほんの少しだけ

向う気持ちが多い気がしてならない。



けれど、鎧でガチガチかというと

そういうのでもない柔軟さはちゃんと持っている。

話も面白く、ノリもよく、かわいらしい一面もある。

だから、正直本当に強いのか、弱さを隠すための強さなのか分からず

私はどうしたらよいのか迷うのだ。

けれど

私は両方をそのまま見ていこうと決めた。



だって、みんなだってそうなのだから。


強くても弱くても、どちらでもいいのだから。




彼女が発するエネルギッシュなもののうちの一つに歌があった。

詩も書き、曲も作る。

そこに託されている想いは、ありのままの彼女だ。

まだオリジナルも沢山は無いらしいが

噂によると、随分と幅広い内容らしい。

声は正直。

きっとその歌声を聴けば、その硬くて柔らかい鎧の

隙間にある何かが垣間見えるかもしれない。

それでいい。

今あるその姿がそんな彼女を創っているのだから・・・







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