1999年02月14日(日) |
イズミ菌再び(二回試験受験体験記) |
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この日記は、1年以上も経過した2000年4月に当時を振り返りながら書いている。
修習のことをいまさら書くのはなんだか恥ずかしいが、それでもごく少数の読者のために、当時の日常を記しておく必要があるだろう。
タイトルにもあるとおり、イズミ菌の脅威が、再び僕らをじわじわと覆い尽くそうとしていたのであった。
イズミ菌を知らない読者のために解説しておこう。
司法修習生は、全国に散らばる各地裁に実務修習のために派遣されるのだが、ここでさまざまな厄介事を背負って帰ってくる。
それは人により、不可避的な恋人との別れであったり、戦略的な恋の終わりの演出であったり、飲酒癖や、変にシニカルな物の見方であったり、妙に裁判所的に優等生的な保守主義であったりするわけであるが、その中のひとつに、現代医学では根治不可能な伝染病がある。
すなわち風邪のウィルスである。
これら全国から集められた精鋭のウィルスは、しばらくは宿主の体内におとなしくしているが、そのうち生来の自己増殖能力を発揮して他者への感染経路をそろそろと探り始める。
そして、もともと弱い生命力と貧弱な自己防衛能力しか持たない上に不健康極まりない生活を明けても暮れても送ってきた司法修習生の身体は、その格好の菌床であるのはいうまでもない。
そして、ウイルス同士の静かで凄絶な闘争が始まる。
食うか食われるかの戦いは、やがて、全国から集められた精鋭中の精鋭によって制圧され、彼らはどんな免疫にも対抗しうる強靭な肉体を持つ究極のカクテル・ウイルスとして、いずみ寮内に生息する温厚な菌床に一斉に襲い掛かるのだ。
この闘争の終了が、ちょうど二回試験の始まる1ヶ月前くらいであり、そのころから身体の変調を訴えるものが続出する。
もともと、いずみ寮の部屋は、全て空調がつながっており、ただでさえ乾燥しがちな冬季は、部屋の中にある全ての金属製品は例外なく帯電しており、空気はイオン化している。
そのような環境にあっていずみ寮生がいくら貸出用の加湿器を24時間フル稼働させようが、毎日うがい手洗いを励行しようが、ねぎ巻いて寝ようがレモンの黒焼き額に貼り付けて朝を迎えようが、何をしたところで、全くの無駄な抵抗である。
かくして、二回試験の直前の時期は、いかに風邪を引かないように勉強するか、に全てがかかっているといっても過言ではない。
僕は、過酷な環境下にあって1月まで全く勉強らしい勉強をしなかったせいもあって、馬鹿は風邪引かぬの故事名言どおり、全くピンピンとしており、ばたばたと倒れ行く戦友たちを傍目に、若さと健康を謳歌していたが、1月を過ぎるころからようやく自己のあまりの無知に危機を感じることが多くなったせいか、勉強をはじめてしまったのである。
これがいけなかった。
2月に入り、のどが猛烈に痛み出し、舌で喉の奥を探ってみると明らかにひび割れを生じているのがわかる状態になってしまったのである。
こうなったらもうだめである。3回転2回半ひねりを見事に決めた直後の体操選手のような眩暈を感じ、高熱を出して、、、、倒れたのである。
でも、一応ちゃんと受かりましたよ。念のため。
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