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1997年05月31日(土) 音楽会から尾瀬へ直行


一昨日は自宅起案で朝6時半までかかって、何とか仕上げ、昨日は講義終了後即座に尾瀬旅行の用意をして教養科目の一環である音楽会に出かけていた。(ちなみに、演奏曲目はブラームスの3番など。起案明けで二時間しか寝てない頭に、それはそれは甘美な子守歌のように響いたのであった)音楽会終了後、教官を交えて池袋に飲みに行き、尾瀬旅行に行く面々は途中で抜けさせていただき、夜行バスに乗り込む。ここまでハードな生活をしていると、もはやみんなナチュラルハイ状態である。バスの中で3,4時間の仮眠をとって、5時ごろ尾瀬・鳩待峠到着。6時頃から歩き始めて、2、3時間歩いた頃にはもう、体内時計は昼過ぎになっていて、時計ではまだ9時なのにお昼が食べたくなるという不可思議な状態に陥ったりした。懸念された雨は一滴も降らず、午後には晴れ間ものぞいて、最高のハイキングになった。一つ残念だったのはデジカメを持っていかなかったこと。普通に撮った写真をスキャナーで取り込むという手もあるが……。






1997年05月27日(火) 起案、起案で夜も寝られず


一昨日、昨日と連続で即日起案があったので、果てしなく疲れている。明日もまた自宅起案である。もう白表紙を開く気にもなれない。皆の表情も明らかに生気を失ってきている。週末の尾瀬旅行だけを楽しみになんとかやり過ごそうと思ってはいるのだが……。






1997年05月23日(金) 刑務所見学


朝から刑務所見学のプログラムがあり、昼ごろ川越にある少年刑務所に向かう。少年刑務所と言っても、26歳未満の者が収容されており、少年と言うより青年層が多い。クラスのある友人は「受刑者の様子をみてかなり気分がブルーになった」と言っていた。確かに、そこには二義を許さない苛酷な現実の一面があった。そしてそういった現実の目には見えない部分で、社会の多数の人々は日常生活というこの上ない幸福を享受しているのだ。僕自身は予想していたよりも厳格な規則が忠実に守られているという感想を抱いたけれども、雑居房の恐るべき狭さときちんと四辺をあわせて折り畳まれた布団を見て何かやるせない一方で、テレビが置いてあり、本類がいくらか置いてあることにほんの少しばかり慰められた。

刑事の裁判官はあのような場所に人を送る判決を下しているのだ、という今更当たり前とも思えることに改めて驚く。

その夜、カミュの「ペスト」を読み直していたら、主要な登場人物の一人であるタルーが、自分の父親が裁判官であって、父親が死刑の判決を下すのを目の当たりにして今まで抱いていた父親への尊敬が吹き飛んでしまう回想シーンがあった。何か、非常につまらない符合がとてつもなく重要に思えてくる瞬間がある。今まで「ペスト」は二三回通して読んだが、こんなシーンがあるなんて全く気づかなかった。僕は思わず目をつむって考え込んでしまった。この世は裁判に満ちている。






1997年05月22日(木) 99人の有罪の者を逃しても


昨日の起案のショックは十分に抜けないまま、検察講義を受ける。検察の独自捜査のヴィデオを見せてもらうが、昨晩東京地検の検事による捜索が第一勧業銀行に対して行われ、第一勧業銀行に入った友人から「大変だよ、大変なことになってるよ」とのTELを受けたばかりということもあって、何か新鮮な思いでじっくり見入ってしまった。

教官が捜査の基本姿勢について言う言葉が良い。

「99人の有罪の者を逃がしても、1人の無罪の者を犯罪者に仕立て上げてはいけないと言うがこれには間違いがある」と、そこで教室の空気が一瞬張りつめた。消極的実体的真実主義という刑事訴訟法上の建前を実務の側からぶちこわす発言ではないかとみんな恐れているのだ。特に人権保障にはみんな敏感であるから。僕も、少しどきっとした。「正しくは、99人の有罪の者を逃がさずに1人の無罪の者も犯罪者に仕立て上げてはならない。これが正しい。」こういった理想論がバリバリの実務家の口から出るというのを僕は心から嬉しく思った。






1997年05月20日(火) 世間一般の裁判官の評価とのギャップ


民事裁判のオンパレード。昨日に引き続いて今日も民事裁判の問題研究の講評が入っていて、かなり難解な情報・必須知識が疲れて乾いた頭に次々と詰め込まれる。これは一度やってみればたぶん容易に理解できるけれど……かなりつらい。

その夜、授業後に体育館に行ってみるとなんと民裁教官のT教官が卓球をしていた。早速混ぜてもらう。教官は思いの外卓球がかなり強くテニスもやられると聞いているので、スポーツマンタイプのようだ。世間一般の裁判官に対するイメージは、どちらかというと陽の当たらない暗い部屋に閉じこもって世間と隔絶された孤高の学者のように弱々しいというイメージであろうが、我がクラスの民事裁判担当教官、刑事裁判担当教官のいずれもテニスを大分やられており、しかもかなりうまいと来ている。

さらにこれは聞いた話であるが、札幌にはラグビーの社会人サークルに現役で参加している裁判官の方もいられるとのことで、世間一般のイメージからはやや離れているのが実状のようだ。かくいう僕も、研修所に入ってからは、自分の抱いていた裁判官、検察官に対するイメージが音を立てて崩れていくのが感じられた。しかもそれは悪い方に変わったのではなくて、むしろ、非常な親しみと、世間から乖離しないように努力をしている姿勢に非常な共感を覚えた。その晩我々は飲みに行って、そこでの話は本当に興味深く、今まで知らないで過ごしてきた世界が急速に目の前に開けてきたような気分を感じた。






1997年05月19日(月) 見学旅行の顛末


疲れた。とにかく疲れたの一言に尽きる。一泊目は、旅行命令が出ており、従って旅費等は政府持ちであるが、二日目は自己負担である。箱根の温泉旅館に泊まり、相変わらずの一日を送った。詳しくは別のスペースに譲ることにするが、とにかく今日は旅行明けでみんな疲れている。普段雄弁なクラスの連中も、今日ばかりは皆一様に疲れ切った表情でギャグにも冴えがない。やれやれ。






1997年05月17日(土) 只今修行中


早速、昨日受けた授業を基にした民事判決起案を一日かけてやらされる。
結果は……時間が足りず、考えていることの半分ほどしか表現できなかったばかりか、やってはならないと自分では分かっていたはずの間違いを最後の最後で犯していることに気づき、愕然とする。修行が足りない。






1997年05月14日(水) 見学旅行


民事弁護の起案の講評が終わったと思ったら、間髪入れずに再び民事弁護の起案をさせられる。一種の悪夢だ。今回のは準備書面の内でも被告代理人(要するに、訴えられた人の弁護士だ)が第一回公判期日に陳述することになる「答弁書」である。だがこれが終われば、前期修習最大のイベントの一つ、「見学旅行」が待っている。見学旅行とは、その名の通り一般企業などを見学するという、まるで小学校の頃にやった社会科見学のようなものだ。ただ、泊まりがけという点が社会科見学とは異なる。我々は特種製紙という特殊印刷の業界では最大手の工場を見学し、様々な視点から企業の実際を学ぶことになる。もちろん見学も大事なのだが、我々修習生の本音を言えば、そのあとの修学旅行のような雰囲気こそが関心事である。というわけで、今日からしばらくの間は日記・更新ともに休ませていただきます。






1997年05月13日(火) 能・狂言・文楽


今日は午前は刑事裁判判決の講評があり、午後は「修習生に教養を身につけさせるため」日本の誇る伝統芸能である能・狂言・文楽についての一般講演があった。何とも有り難い配慮ではないか(要らぬお節介との声一部にあり)。一般講演の常として、睡魔という名の強力な魔物に意識を吸い取られている者が見受けられたが、なかなかおもしろく拝聴させていただく。久しぶりに僕の領域に近い話題を聴いて、共感し、しかし、みんながあまり反応を示さないのを見て、思えば遠くへ来たもんだ、との感想を抱いた。






1997年05月12日(月) 民事弁護起案の講評


民事弁護起案の講評。相変わらず、民事系の起案には朱が入りまくっている。常識とか、教養とか、文章力とかで勝負できないのは僕にとってかなりつらいことだ。とは言っても、僕に常識とか教養とか文章力とかがあると言ってるわけではない。勉強ができないから人並みになくとも文章力とか思考力とかで勝負するほかないのだ。






1997年05月09日(金) 文化ナショナリズム?


午前中は元駐米大使で早稲田大学の客員教授である栗山氏が来所して講演。しかし、駐米大使の任期中のエピソードなどは全くと言っていいほど聞けず。実に残念。時間も限られていたのだろうが、誰でも知っているような「国際社会の中での日本」という一般論に終始してしまった。レジュメに「文化ナショナリズム」なる耳慣れない用語があり、いったいいかなる新しい議論か?と少しだけ期待していたら、何のことはない、文化の相違から生まれる無理解とナショナリズムに流れがちな傾向のことを指しているらしい。

昼食を挟んで、刑事弁護の討論。論点の整理がうまくできないまま、中途半端に終わってしまった感が強い。その後、選択必修のセミナー。民事訴訟のプラクティスと題して現役の東京地裁の判事が講演。ここでも終始大づかみな和解と弁論兼和解、調停などの一般論が語られ、あまり得るところはなかった。






1997年05月08日(木) 規則の硬直性


刑事弁護の即日起案。日がだいぶ射してきて教室内があまりに暑いのに、クーラーをつけられない規則になっており、密閉された教室内は頭を抱える修習生の熱気でなんともすさまじい状態になっていた。どうにかならないものか。






1997年05月07日(水) 無期求刑


検察起案の講評。モデルケースではあるが、求刑を書くときに「無期懲役」と書いて少し心が乱れたことを思い出す。普通の人が思うように「無期懲役」の宣告を受ければ死ぬまで刑務所から出て来られないというのは誤りで、たいていの場合は二十年くらいすれば仮出獄という形で刑務所を出ることができる。模範囚ならば、さらにこの期間は短くなる。これが日本の刑事司法なのだ。

しかし、それでも宣告を受けるものにしてみれば少なくとも二十年入っていなければならない訳で、現行法上死刑に次いで重い罪となっている。「悪いことをした者が重罰を受けるのは当たり前だ」という一般の社会でごくまっとうに通用する考えが、実際の現場で自分が求刑する立場になってみると(まだモデルケースではあるが)その重大さにやや困惑を覚え、そうとばかり思えなくなってくる。こんなことで思い悩むようでは、実務修習へ行ってからが思いやられる。やれやれ。






1997年05月06日(火) エリック・サティが起案に及ぼす影響


結局起案は今朝四時までかかってしまった。この「駆け込み癖」はいつまで経っても直りそうにない。裁判官、弁護士のいずれを生業にするにしても、どちらにせよこの傾向がマイナスであることは間違いないので、改めて早く取りかかろうと自戒する。

朝、ぼんやりした頭でエリック・サティのジュ・トゥ・ヴを久しぶりに聴く。受験時代には法律予備校の自習室で朝から晩まで勉強して、深夜頭を空っぽにして聴いていたものだ。ジムノペディ、グノシェンヌと並んでサティの最高傑作であることは間違いなく、CMソングに頻繁に使われてしまうという弱点を除けば、好きな曲の部類に入る。(もっとも、サティ自身演奏会では聴衆に「聴くな、そこに家具があるように音楽を無視しろ」というニュアンスのことを言って怒りだした(らしい)ので、BGMとして使われることを望んでいたとも言えるが)






1997年05月04日(日) 択一の恐怖


久しぶりに両親に会ったり、部屋を掃除して洗濯をしたり、模様替えをしたりしているうちにあっと言う間に一日が過ぎてしまった。ご多分に漏れず今日もまた飲み。そろそろ休肝日を設けなければ。

しかし、受験生の方は今や択一シーズン真っ盛り。今年は5月11日が試験日である。何となく四・五月になるとみんなそわそわしてくるのは、受験時代のつらい経験の名残か。クラスの友人の一人などは未だに「択一受験をしなければ」という強迫観念に駆られて、「君は丙案で受かったんだから今年も択一に受からなければダメなんだよ」と神様に言われるという夢を何度となく見るそうだ。






1997年05月03日(土) ヴァイオリンの夕べ


昨日はまた刑事裁判の自宅起案であったはずなのだが、もちろん、というか、やっぱり、というか、友人とだらだら話をしているうちに時間が過ぎる。クラスの友人のU田氏(別名:男爵)が奈落の底の底まで落ちてしまった彼の名声を取り戻すべく、「アーネストU田 ヴァイオリンの夕べ」なる企画をクラスのみんなに呼びかけて行う。普段は鬼畜的メガトン級のギャグを飛ばす彼も、このときばかりは真剣。1923年に作られたという彼の愛用のヴァイオリンがもの悲しくも清澄な調べで奏でられるのに一同驚愕。聞けば四歳の時から続けていたとの由。修習生はスポーツができる人も多く、楽器ができる人も多く、(このときもs田さんという最年少の女性の方がフルートで「タイスの瞑想曲」を合奏した)みんな勉強だけでなく多彩な特技を持っている。何はともあれ、これでU田は奈落の底からはい上がることに成功したようで喜ばしい限りだ。






1997年05月02日(金) 採点結果報告


ゴールデン・ウイークの前夜祭的雰囲気が色濃く漂う今朝の授業前の光景。
その和やかさを一変に跡形もなく崩壊させる「もの」が各自の机の上に並べられた。先週書いた初めての刑事裁判の起案が返却されてきたのだ。皆おそるおそる講評をのぞき込む。いつもは一、二行しか書かれていない講評が、細部までしっかり書き込まれていることに驚く。教官がどれだけ熱意を込めて読んで下さっているかが分かり、ありがたさを感じると同時に背筋に寒いモノが走る。ちなみに恥ずかしながら私の起案の最後に記されていた講評の一部を「公表」しますと、「証拠に基づいて分析していこうという姿勢は起案にあらわれています」。姿勢「は」という点に着目。後は推して知るべし。






1997年05月01日(木) 日記猿人登録


しばらく日記の方がお留守になってしまった。更新はマメにと自戒しつつ、日記猿人(nikki engine)などに登録してしまう。







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