ぽあろの文芸日記

2001年12月14日(金) ドラゴンクエスト4小説・10年の先にあるもの(後編)

長い月日が流れた。世の中が変わり、私も変わった。




そんなことを思い浮かべながら、崩れ落ちていくピサロを私は見た。
やはりそれは、男の独り善がりなのか、などと考えながら、自分の中でも決断は下せなかった。

ドラゴンクエスト4はエンディングに入っていく。
この辺は前作と同じだな、とつぶやきながら眺めていて、私はあっ、と声をあげた。

ロザリーヒル。墓の前で悲しむロザリーの仲間たち。
あのころの私は、確かに彼女を愛していた。
彼女のために出来ることは何でもした。
しかしそれは彼女の望んでいたことではなかった。それが彼女を苦しめた。
異形のものとなり、朽ち果てていくことがロザリーの望みだったか。いや違うのだ。




次の日。
妻との何気ない会話のなか、私はドラゴンクエスト4をクリアしたことを話し、ピサロとロザリーの結末を語った。
妻は涙こそ流さなかったが、かわいそう、とつぶやいた。

やはりそうだった。

休みの日に遊びまわることよりも、二人で散歩することを望む妻。
結婚前、なぜそんなに自分のことを愛するのか、と涙ながらに訴えた妻。
すべて私の、男の独り善がりだった。

思えば、命がけの愛に疲れたころに出会ったのが今の妻だった。
私より8歳も若い彼女は、そのころの私にすれば気楽な相手だった。
そんな彼女を一生愛していこう、ときめたころ、もう私は悟っていたのかもしれない。
独り善がりの愛の危うさに。

10年の時間を超えて、同じストーリーを通して、私は大切なものを得た。
思えば、十年前の彼女と、今の妻は奇しくも同年齢だった。
そのことに気づいて、私は少し愉快になった。
それに気づいたのか、妻がどうしたの、と聞く。
そのとき不意に私は、二人でともに生きていこう、と妻に声をかけたい衝動に駆られた。
でもそのときの妻の目が、言わなくてもわかってることじゃない、といっていた。




しばらくして。


画面には、ロザリーと並んで気球を眺めるピサロの背中があった。
私はそのとき、泣いた。

(了) 



2001年12月13日(木) ドラゴンクエスト4小説・10年の先にあるもの(中編)

私にはそのころ、2つ年上の恋人がいた。
それまでも私は私なりに、人並みに人を好きになってきたつもりだったが、彼女との交際はそんな過去をすべて打ち消すほどのものだった。
いつしか私は、彼女の部屋にほぼ毎日のように入り浸っていた。
田舎から持ってきていたファミコンも、彼女のテレビにつながれていた。
彼女は明るく、芯の強い女性だった。
私は彼女を懸命に愛した。
彼女もそうしてくれた。
しかしどこかで彼女は、私からの強い愛情を迷惑に思っているように見えるときがあった。
彼女は、そういう自分を私に見せまいと振舞っている、ようにすら思えた。
私は、それでも彼女を強く愛した。そうすることしか浮かばなかったのだ。

彼女の部屋のテレビ画面に、異形となったピサロが映し出されたとき、彼女はかわいそう、とつぶやいた。
見ると、両目から涙がこぼれていた。
私は、なんて心の優しい女性なんだろう、とそのときは彼女に惚れ直した。
しかし、どこか釈然としないものを感じもした。

そのころの私にとって、ピサロの生き方、死に方は羨望の対象ですらあった。
愛するもののためならばこの身朽ち果てても良し、という彼に共鳴していたのかもしれない。
それを、彼女は哀れみの対象とした。
私は戸惑った。
男が命を賭して愛することを、哀しみの目で女が見るのだとしたら。
このことは私一人の胸の中にしまいこんだ。しまいこんだまま、彼女との別れが来た。



2001年12月12日(水) ドラゴンクエスト4小説・10年の先にあるもの(前編)

 なんだか、眠れない夜だった。私はベッドを抜け出し、隣で眠る妻を起こさないように、そっと寝室を出た。
寒い夜だった。隣室の明かりをつけ、ヒーターとテレビとプレイステーションの電源を入れ、私は座り込んだ。
ドラゴンクエスト4。このゲームをプレイするのは10年ぶりだった。
ファミコンという、今から考えれば原始的ともいえるゲーム機で発売されたのが11年前、そのころ私は大学受験にいそしんでいた。
周りに遅れること一年、当時から考えれば革命的ともいえるそのゲームに私はのめりこんでいた。

あのころを思い出しながら進めていく、最新版のドラゴンクエスト4は、やはり私をのめりこませていた。
しかしその中で、私は妙な違和感のようなものを感じはじめていた。
それはいくつかの新システムのためではなく、音楽の質や画像の質から来るものでもなさそうだった。
あの時と同じ話の筋を追いかけていけばいくほど、その違和感のようなものが私にのしかかっていった。

ロザリーの涙。

ピサロの怒り。

私の中に浮かんだ、違和感のようなものの正体は、おそらくその辺に見えてきそうな気もしたが、それを深く考えるまでにはいたらなかった。

その夜、画面には、復讐に燃え自らに究極の進化を課したピサロの姿が映し出された。
異形の者へとその姿を豹変させていくピサロ。私はすごいな、と声をあげた。
そしてそのとき、私は自分の発した言葉に驚いたのだった。


すごいな。


10年前の記憶が突如よみがえってきたのだ・・・。


※ドラゴンクエストファンサイト「DQ4攻略FAN」に投稿した作品。


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