ケイケイの映画日記
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2015年02月22日(日) 「フォックスキャッチャー」

2月公開作で、一番楽しみにしていた作品です。実際にあったアメリカの財閥デュポン社御曹司の、ロス五輪レスリング金メダリストの殺人と言う特異な事件を、野次馬的ではなく、関係したどの人物の心にもじっくり誠実に寄り添う秀作で、とても感銘を受けました。一瞬たりとも気の抜けない、緊張感みなぎる135分間です。監督はベネット・ミラー。

1984年のロスオリンピックでレスリングで金メダルを獲得したマーク・シュルツ(チャニング・テイタム)。次のソウルでも二連覇を目指しています。アメリカではマイナー競技のレスリング故、スポンサーは見つからず、経済的に困窮しながらも、ストイックに練習に励んでいます。そんなマークに、アメリカでも大財閥の御曹司ジョン・デュポン(スティーブ・カレル)が、充実した練習場や住居、破格の年俸を提示し、自分がコーチするレスリングチーム「フォックスキャッチャー」へ招きます。やがてジョンは、マークの兄で同じ金メダリストであるデイヴ(マーク・ラファロ)もコーチとして招いた頃から、微妙に三人の関係が歪になっていきます。

デュポン社は日本でも名の知れた企業で、主婦にもテフロン加工の調理器具などでお馴染みです。ですがこの事件は、全然記憶にありませんでした。当時アメリカでは、同性愛のもつれか?など、スキャンダラスに書き立てられたようです。

幼い頃両親が既婚し、父母の間を行ったり来たり苦労を共にして育った兄弟。マークにとってデイヴは父親代わりです。その最愛の兄にして最良のコーチでもあるデイヴは、今では妻ナンシー(シエナ・ミラー)と二人の子供に恵まれている事に疎外感を感じているマーク。そしてジョンも、最愛の母(ヴァネッサ・レッドグレイプ)から愛されぬ、満たされぬ心を持っています。友人もいないそんな二人が、ぎこちなく「友情」を結んでいくのは、自然な成り行きに思えました。

しかし今でいえば「コミュ障」的なマークとジョン。そして二人の間に介在するのは財力。胸の内を明かせないまま、お互いを真には理解し得ぬまま仮初の友情ごっこに浸っていたのは、私はお互い様だったように思えました。微かに微笑んだシーンはあったものの、この二人の笑顔は、終ぞ劇中描かれませんでした。

対するデイヴは、妻子やマーク以外にも、常に笑顔を絶やしません。私はどんな生き方をしようと、最後に残るのは円満で誠実な人柄だと思っています。それを絵に描いたようなデイヴ。彼的には弟を疎外した気持ちなど、一切なかったと思います。むしろ自分を超えようとする弟を、慈愛の目で観ている。しかし自分だけの兄でなくなったマークの寂しさには、及ばなかったと思います。男兄弟なので、依存されている意識がなかったのでしょう。

ジョンも同じです。私は彼はレスリングを愛している人には思えませんでした。母は下品だとレスリングを嫌っており、その嫌っている物に熱中する自分を、丸ごと愛して欲しい。そんな試すような部分も感じます。財閥に嫁ぎ、子育てにも失敗は許されなかったはずの母。息子は普通ではないと、一番先にわかったのは、母だったと思います。だから友人を「買い与えた」のでは?歪であっても、それも我が子に人並みの感情を育んで欲しいと思う親心だったと思います。ジョンと母の場合は、私は息子が適切に母の愛を受け取れなかったと感じました。

国内のソウル五輪予選で敗退し、残りの試合があるにも関わらず自暴自棄になった弟を叱咤し、懸命に蘇生させた兄。デイヴの家族以外、常に冷たく重い空気の漂う劇中、熱くて暖かい感情に包まれる場面です。急速に信頼関係を取り戻す二人。

対して母親との間に宿命的な宿題を残して、母に逝かれたジョン。本当の意味での自尊心を獲得するチャンスが無くなります。ジョンは頭脳は明晰のようで、鳥類学者でもあります。しかし莫大な富や名声も得て、何でも手に入るように見えても、人徳だけは手に入らないのだと痛感。私の最後は人柄と言う信条が、一層強まります。

デイヴが殺されるのに説得力がないと言う感想が多いとようですが、ジョンがデイヴの周囲の円満な溢れる愛情を目にした後、自分には金で寄せ集めた称賛しかないと、戦慄するような孤独を噛み締めた後の惨劇だったので、私には納得出来ました。

マークやデイヴの妻存命の中、この手の作品の映像化は難しいはず。内容もさることながら、私が非常に感銘を受けたのは、登場人物一人一人、殺人を犯したジョンでさえ、観る者が彼らに寄り添い、理解できるような描き方です。この品格ある作りのお蔭で、ただの悲劇を描くに終わらず、自分の人生の糧になるような素晴らしい作品になったと思います。

カレルは最初誰だかわからず、こんな鉤鼻だったっけ?と不思議でしたが、特殊メイクをしたそう。喜怒哀楽を全く出さず、常に不気味で不穏な得体の知れないジョン。常に顎を上げて物を言う姿は、彼に意見する人などいないのがわかります。しかし尊大でも傲慢でもなかった彼。それだけに哀しさが伝わってくるのです。カレルのオスカーノミニーにも納得です。

テイタムも画像のように、いつも眉間に皺を寄せて苦悶の表情ばかり。今までアクションや軽い娯楽作の彼しか知らなかったので、今回の好演にはびっくり。テイタムのターニングポイント的作品になるかも。

事件捜査の過程で、ジョンには精神的な失調があったと解釈した向きが強かったようで、この作品でも伺えます。しかし感情を爆発させる時は、自傷的な行為に及ぶマークの様子と共に、それが何から来るのか?と想起させる作りは、決して差別感を助長させるものではないと思います。孤独ほど辛く恐ろしいものはないのだと、私は強く思いました。そして二人は、決して孤独ではなかったのに。大事なのは、孤独感を与えない事だと思います。

ラファロは、彼のセルフイメージを最大限に活用した好演で、強烈な負のオーラまとった二人に比べ、常識的で誠実な良い人と言うのは、主要三人の中で、一番演じるのが難しかったはず。それがオスカーで助演候補になった要因でしょう。とても素敵でした。彼の大ファンなので、是非オスカー取って欲しいです!

ラスト、マークに向けられる「USA!」の大声援。これが現役の頃ならどんなに励みになったかと、皮肉でした。現在彼はプロレス教室を開いているそうで、映画は苦悶と怒りに満ちた彼の顔で終わったので、この挿入には救われた気になりました。オスカーには他にベネットが監督賞にノミニーですが、作品賞はなし。何故なんだろう?デュポン社から横やりが入ったのかしら?でもそんな事関係ないや。ベネット・ミラーに、一生ついて行こうと決意する作品でした。


2015年02月16日(月) 「はじまりのうた」




これも優先順位低めでしたが、親愛なる映画友達が二人も大絶賛なので、これはすぐ観ておかねばと、11日に観てきました。(最近は梅田が遠いのよ、トホホ・・・)なるほど、観れば納得。様々な調べに乗りながら、喜怒哀楽、感情の浮き沈みが、理屈ではなく観客に伝わります。音楽の力ってすごいなと改めて感じる作品。監督はジョン・カーニー。

音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)は、かつては次々と新人を発掘した辣腕でしたが、現在は時代に取り残され、その憂さ晴らしに飲んだくれている始末。ついには自分の設立した会社からクビを宣告された日、偶然入ったライブハウスで歌うグレタ(キーラ・ナイトレイ)の歌声を聴きます。彼女の歌に惚れ込んだダンは、すぐに契約を持ちかけます。グレタはグレタで、チームを組んでいたつもりだった恋人のデイヴ(アダム・レヴィーン)だけがブレイクし、あげくに別れ話も持ち上がって、やさぐれ中。軍資金のない二人は、寄せ集めのバンドを連れて、町中をスタジオ代わりにデモテープを作り始めます。

始まってすぐ辺り、アコースティックで歌っていたグレタを、ダンが脳内でピアノやドラムのアレンジする様子を描く場面が秀逸。フォークっぽいギターの弾き語りが、瞬時でポップな曲に変換されてワクワクしました。録音場面も、その辺で遊んでいる子供をコーラスに引っ張り込んだり、電車や騒音も味方につけての逆転の発想は楽しい限りでした。

でもこれは、しっかりとした楽曲あってのお話。アレンジ一つで楽曲が洗練されたり、生まれ変わったりもするし、相互の相性も大事なんですね。そういえば、息の長い女性歌手のパートナーは、アレンジャーが多いです。

お話の中心は音楽。オリジナルのポップやバラードばかりではなく、若いグレタが「好きな曲なの」と、シナトラや「カサブランカ」が流し、改めて名曲は時代を超えて世の中に語り継がれていく、その豊かさや嬉しさが、画面いっぱいに広がっています。

ダンやグレタ、ダンの娘のバイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)が、葛藤や苦悩から如何に再生するか?そこはあっさり薄口に仕上げています。これはこの作品の主役は、音楽だと言う事なのでしょう。

その代り、小技の利いた演出が随所にあり、登場人物たちの情感は豊かに描けています。登場時、やさぐれて「男みたい」とダンに言われたグレタの装いが、段々と本来のカジュアルだけどお行儀の良い服装に戻り、見つめ合うダンとグレタに、揺れる男女の心が映ります。

中でも私が秀逸に感じたのが、ダンと別居中の妻ミリアム(キャサリン・キーナー)の煙草のやり取り。加え煙草でで禁煙(多分)の我が家に戻ったダンが、それをミリアムに渡すや、彼女は吸い始め、煙をドアの外に吹かすのです。離婚寸前のようでも、まだ男と女の情が残っている証拠。煙草一本の回し吸いは、同性と異性では全然違う情景を映しだします。二人とも煙草を吸うのは、この家は以前は禁煙ではなかったんですね。それが今はミリアムは煙草は止めて、ダンにも禁煙を強要しているのでしょう。夫婦がいつの間にかすれ違ってきたのも表している。劇場は若い人もいっぱい。こういった感情の機微を表すシーンを見逃さないで、受け取って貰えたら嬉しいです。

義理人情に厚いラッパーや、グレタを支える愉快な友人のスティーブ(ジェームズ・コーデン)など、サブキャラもチャーミング。古風な情感を刺激され続けたのに、落としどころは、あっと驚くほどドライ。人生の取捨選択は大事だぞ。人との出会いもね。素敵なキーラの歌声を、是非劇場で聞いて下さいね。


2015年02月15日(日) 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」

14日から新作ラッシュで大変なところ、この作品だけ13日公開。そして布施ラインシネマの会員デーで1000円。仕事終わって帰宅してから夕食までに間に合う時間と条件が揃って、優先順位下位ながら、初日に観てきました。先に観て良かったですよ、評判が出揃ったらパスしてたはずですから(笑)。でも損したかなぁと言うとそうでもなく、色々感じるところもあったので、私は観て良かったです。監督はサム・テイラー・ジョンソン。

大学卒業間近の女子大生のアナ(ダコタ・ジョンソン)は、27歳の大富豪クリスチャン・グレイ(ジェイミー・ドーナン)を、病気のルームメイトに代わりインタビューすることに。一目で魅かれあう二人。やがてグレイの求愛を受けるアナでしたが、そこには契約書と言うものが介在します。そしてグレイはアナに、自分の性癖を告白するのです。

まぁ一口で言うなら、女性向けソフトポルノです。官能シーンはそれなり丁寧に美しく撮られていますので、そういうのが苦手な女性でも、作品の中に入り込め易い。逆に男性、百戦錬磨の映画好きの女性にしたら、ボカシがいっぱいだし全然物足らないはず。主演のダコタはロストバージンのシーンが特に美しいので、期待して欲しいと語っていましたが、別に(笑)。あれなら「ニンフォ・マニアック」の色情狂ジョーの、事後にガニ股で歩くロストバージン場面の方が面白いし、リアリティがありました(笑)。ちなみに原作も監督も女性です。

27歳でヘリや飛行機を自家用で飛ばせて、出身大学に多額に寄付が出来て、すんげぇペントハウスの住人であるグレイって何者?と言う点が、ばっさり抜けていて、彼の過去の告白と繋がらす、全然感情が動かず。イケメンでお金持ち以上に何が必要なの?と言われているようで、シラケます。うぶなアナがグレイに魅かれるのはわかりますが、会社であんな美女に囲まれているグレイが、何故あんな垢抜けないアナに魅かれたかの説明もなし。多分この辺は原作で詳しく書かれている気がしますが、とにかく映画の方はキャラが薄いです。

対するアナはまずまず。さすが垢抜けないと言えども、あの可愛さでアメリカで頑固に21歳までバージンを通しただけの事はある子(笑)。その理由もだいたいわかるしね。単純に舞い上がらず、「恋の奴隷」にはなるもんかと、彼の要求するトンデモな契約をすぐ受けない賢さを褒めてあげたい。込み上げる激情に必死で抗う様子も垣間見られ、多情な母と電話する場面での涙は、私は良いシーンだと思います。

ただ恋する乙女の胸のときめきも、始まって一時間してやっと恋する二人がキスした「トワイライト」に、全然負けてます(笑)。官能性も「ナイン・ハーフ」の方がずっと上だし、ある程度大人の年齢で、セックスにはうぶな女性向けに作ってある気がしました。だってエロさでは、40年近く前に作られた「エマニエル夫人」にも負けてるもん(笑)。

そしてあんなSM部屋を見せられて、すぐ逃げ出さないのはダメじゃないかと。私はSMは映画で観るくらいですが、かなり本格的なもんじゃないかと。これは映画ですけど、現実にもこの作品に似たような件は、いくらでもあると思うんですよ。あそこは一旦逃げ出すくらいの描写があっても良かったかなぁ。

SM場面はソフトで、これならやってみたいと思う人がいるかも?(笑)。でも作品を最後まで観て思ったんですが、SMは二方に愛情がなければ、快感はないんじゃないですかね?ただのプレイであっても、そこに信頼関係がなければ成り立たないと思う。女性をいたぶって泣き叫ぶだけを楽しむのは、ただの外道な変態だし、自分にその嗜好がなければ、危険なだけだと思います。グレイは支配者や従属者と言う言葉を使って、自分を解放する方法だと言いますが、そこもバッサリと彼のSM哲学の描写が抜けているのが残念。

ダコタはお父さんにそっくりでびっくり。内容的に全裸の場面も多く、スタイル抜群で、バストが巨乳でなくて美乳なのが良かった(笑)。それも女性観客の視線を気にしてかな?ドーナンは画像で観るよりずっと素敵なので、これもびっくり。二人とも健闘してましたよ。二人に清潔感があるのが、美しく撮られている一番の要因だと思います。

この作品の内容を聞いた時、グレイの役はマット・ボマーがいいなと思いました。現実にアメリカでもその声を多かったようだし。ボマーはゲイをカミングアウトして、同性婚でパートナーありの人なので、その辺でキャスティングされなかった気がします。役柄的にこれは仕方ないかも。降板したチャーリー・ハナムは、私的には全くないなぁ(笑)。

唐突な終わり方に、はぁ?と目が点になりましたが、どうも続編があるようです。私は観てもいいですよ。




2015年02月08日(日) 「さよなら歌舞伎町」




歌舞伎町のラブホテルを舞台に、五組の男女が織りなす群像劇。目新しい目線はないものの、旬のキャスト及びこれから期待されるキャストが演じる事で、新鮮味も出ています。情感豊かな描写が随所にあり、私はとても好きな作品です。監督は廣木隆一。

新宿歌舞伎町でラブホテルの店長をしている徹(染谷将太)は、一流ホテルに勤めていると、同棲しているミュージシャン志望の沙耶(前田敦子)に嘘をついています。韓国から出稼ぎにきているヘナ(イ・ウンウ)は、恋人チョンス(ロイ)には、ホステスをしていると嘘をつき、デリヘルに勤めているが、ヘナの在留許可の日が過ぎ、別れの日が近づいています。ラブホテルに勤めている中年女性の里美(南果歩)は訳ありで、時効間近の康夫(松重豊)を匿っている様子。風俗スカウトの正志(忍成修吾)は、家出娘の雛子(我妻三輪子)と知り合い、エリート刑事同士の理香子(河合青葉)と竜平(宮崎吐夢)は、不倫中。この五組の一日が徹の勤めるラブホテルで描かれます。

135分で五組を描くのは大変だと思いますが、これがきちんと背景やキャラ、心情が浮き彫りになり、交通整理もしっかり出来ていて、よどみなくお話が進むのに、まず感心。一日でこんなにたくさんの出来事が起こるかと言うとのは疑問だけど、これは映画。それは言いっこなしでいいでしょう。

ラブホが舞台なので、当然性描写が頻繁に出てきます。イ・ウンウ、河合青葉など、気持ちの良い脱ぎっぷりで、大胆に艶かしく演じているので、性を通しての喜びや哀しさ、快楽や滑稽さなども、きちんと伝わってきます。もう50代に入った南果歩は、さすがに脱ぎはないものの(これは良識あり)、小柄な彼女が長身の松重豊に飛びつくようにキスするシーンは、年増の深情けを感じさせて、これも生々しくて良かったです。

私が好きなのは韓国人カップルと中年カップルのエピソード。韓国人カップルは、恋人同士で出稼ぎに来たのではなく、日本で知り合っています。異国で恋仲になった同国人カップルは、私の好きなピーター・チャンの「ラヴ・ソング」でもそうでしたが、各々が違う夢を持って異国に来ているので、期間限定の恋人同士になりがちなのでしょう。ヘナも罪悪感からついた嘘のはず。

この二人のお風呂のシーンは、私的にはこの作品中の白眉。「洗ってよ、落ちないかも知れないけど」と言うヘナには、思わず涙がこぼれました。あの客この客、肉体的な快楽だけではなく、心も癒していた彼女を映していたので、そんな事ない!と、スクリーンに声をかけたくなります。

中年カップルの方は、時効を待つと言う執念に溢れているのは、里美だけみたい。康夫の方は早く自首した方が楽だったでしょう。里美が許さなかったと言うより、愛した女の気の済むようにしてやりたかった、と言うのが本音じゃないかな?長身の松重豊が小さくなって、やりきれない表情で狭い押入れに隠れる姿は、哀愁が漂いまくる。日長ぼーっと、息をしているだけの康夫ですが、恋しい男を必死で守れて、里美は幸せだなぁと、私は思います。

この作品の南果歩、本当に普通のおばちゃんに撮ってるんですね。ジャージ着て髪も斬バラ、化粧も適当で、ラブホの掃除に奮闘する姿で、愛する男を守りたい女の一念を見事に演じてるんですね。夫を「世界の渡辺謙」にしたのは、彼女の内助の功もあったはず。偉大な俳優の妻として安住せず、女優としての自分の進化を試みる彼女に、すっかり魅せられました。

五組の数だけ男と女には事情がある。どれも全然違うようで似ているのです。最後の方で沙耶が、「ちっちぇえな!」と、詰るように縋るように徹に訴えた事が全て。隠し事や嘘のない恋人や夫婦っているのかな?それを知った時、己の度量が試される。愛するって、人間の器を大きくさせるもんだと、この作品を観て痛感しました。

AVの仕事を隠れてする妹に「お前、これが初めて(のセックス)か?」と尋ね、「違う」と言われて安堵する徹。「好きな人とやったことがないから、今したい」と正志に言う雛子。本気でヘナに惚れた客の村上淳が、「女の人に香水なんか買ったことがなかったから、選ぶのが楽しかった」と、ヘナに渡したプレゼントなど、陳腐かも知れないけど、私は愛のあるセックスがやっぱり一番だと思う。そうだよ、枕営業くらいなんだよ、許してやれよ、徹!。

前田敦子が出ているので、何とか15Rにしたのでしょう。イ・ウンウや河合青葉、徹の妹役の樋井明日香たちが体張って好演しているので、あっちゃんは少し分が悪かったかも?でも華奢で愛らしいだけではない、女の狡さも出ていたと思いますので、良しとしよう。

たった一つ不満だったのが、震災の事の描き方。徹の実家は震災に合ったと言う設定で、その為学費を払うのに、妹はAVで稼いでいると言う設定です。健気で感心していたら、「前は(安い)ユニクロで買うにも躊躇したけど、今は1万や2万、服にお金払うのも平気」と言うセリフが飛び出します。私は被災者ではないけど、ユニクロは別段安いと思いませんけど?

品質に比べたらお得感があるだけで、ユニクロを買うのは期間限定品だけです。私はお金持ちじゃないけど、世の中被災者でなくても、ユニクロも買えない人はいっぱいいますよ。ここは震災ではなく、どんどん広がる経済格差を訴える設定にした方が良かったと思います。このユニクロ発言で、震災の設定が取ってつけたように感じ、損に思いました。

とまぁ、これも好きな作品なので、惜しい!と言う気持ちが残り、ちょっと書きたくなりました。生々しいセックスシーンも多いですが、薄汚さもないかわりに、透明感もなく、ちょうど良い塩梅に仕上がっています。だから登場人物の気持ちが、手に取るように伝わってきたのだと思います。

会うは別れの始まり。でも別れたくなくて、必死で繋ぎ止めようとする人もいる。罪でも無様でもみっともなくても、それが愛なんだよと思わせるラストシーンがいいです。気持ちよく鑑賞を終えられました。








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