一橋的雑記所

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2003年02月09日(日) さくっと書き書き。


校門から続く、長い銀杏並木が青々と葉を茂らせている春。
あの子に、出会った。
凛とした背中に流れ落ちる、丈なす黒髪。
迷いの無い足取りで歩く後ろ姿。
いつもの分かれ道。
穏やかな表情で、子羊たちを見守るマリア様の前でその足を止めて。
あの子は、静かに、祈りを捧げていた。
そっとその横に並んだ私の事になんて、少しも気づかない。
その、抜けるように白い頬をそっと盗み見た時。
思えば、あの時が全ての始まりだったのかもしれない。






祐巳は、今日も、いつもより30分ほど早く背の高い校門を潜った。
ここ3日ばかりは空振りだったけれども、今日こそは。
そんな、根拠の無い予感が、胸の中で踊っている。
登校してくる生徒達のラッシュアワーにはまだ間があるから、人影もまばらで。
遠く高い青い空の下、さわさわと音を立ててて揺れる銀杏並木の下を歩くのは、気持ちが良かった。
ううん、と少し伸びをしてから歩き出す。少し、早い足取りで。

――あ。

予感的中。
いつもの分かれ道、マリア様の前に。
今まさに足を止めて、祈りを捧げようとしているあの子の姿があった。
真っ直ぐに伸びた背中を覆う、みどりの黒髪。
隙の無いその後ろ姿を認めた瞬間、思わず口元が綻ぶ。

――いけないいけない。

慌てて唇を引き締める。
今度会えたら、こちらから声を掛けようと心に決めてきたのだ。
只でさえ、紅薔薇のつぼみらしからぬ挙動で日々、お姉さまを始めとする山百合会幹部の皆にご迷惑をお掛けしている身。
この上、下級生を相手に、へらへらと話し掛けなどしたら、何を言われるやら。

――ええと。

不審に思われない様、出来るだけ自然な足取りで、まだお祈りを捧げているその子の斜め後ろに並ぶ。
両手を合わせながら、そうっとその横顔を盗み見る。
抜けるように、白い頬。それが今日は、いっそう透き通って見える。

――……って、ええ……!

驚く間もなく。
祐巳の視野の中で、あの子の肩がぐらりと傾いだ。
倒れる、と思うよりも早く、反射的に伸ばした腕に、ほっそりとしたそれが倒れ込んだ。

「だ、だだだだだ」
「……すみません……」

大丈夫、と言葉にする前に、か細いけれども澄んだ声音が耳元に触れた。
それが、初めて聞いた、声だった。




逆転姉妹のボツ小話でした。ちなみに、完全無欠のミカン製品です(泣笑)。

※最終更新 04.04.26


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