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diary
2008年05月28日(水) 蜘蛛の糸
蜘蛛の糸。だと思った。気がついたときにはなにか細いものが首に絡まっている。髪の毛よりも細いくせに、喉を確実に圧迫してくる。息が詰まりそうになる。手で薙ぎ払おうとするのだが、どうやっても手に触れない。どこにあるのかわからない。それなのに、首には確かな感触がある。皮膚ごとその糸を引き裂いてやりたいくらいの心持ちがしてきて、実際喉に爪を立てた。その痛みで一瞬消えた糸の感触はしかしすぐにまた戻る。風にたなびくような、半透明の蜘蛛の糸なのだ。それはきっと。でも、それはどうやっても首から離れない。このままわたしはこの糸にくびり殺されてしまう。このわけのわからない糸に!
なんのきっかけかはわからない。いつからか、たまにわたしはこの糸が首に絡みつくようになってしまった。絡みついた糸の感触があるのはせいぜい2、3分だろう。そのあとは、また、どういうきっかけかわからないが、それをきれいさっぱり忘れてしまう。糸など始めから存在しなかったし、事実そんなものが突然首に絡みついてくるはずがないのだし、そのままそんなことを思い出すこともない。
普段のなにもないときに、この糸のことを思い出そうとするのは、酷く困難だ。それは幻そのものだ。それをわたしは見たことがないし、手に触れたこともない。ただ、首にまとわりつく感触でそれを確かに知っているだけだ。けれど、それがもし、手に触れ、目で確かめることができたなら、それは本当に蜘蛛の糸だろう。半透明で弾力のある、しなやかで強い、微かに粘り気のある、あるかないかわからないくらいに細い、動物性の繊維。きっと、そのものだ。
「わたし、前世はきっと、マリー・アントワネットだったと思うの」
「なんでよ?」
「最近、なにかが首に絡みついて死にそうになるの」
「マリー・アントワネットは絞首刑じゃなくて、斬首刑だよ」
「でも首じゃん」
「首は首だけど。他にも首落とされて死んだひとなんていっぱいいるけど」
「パンがなくてもケーキがあればいい」
「それもちょっと違う気が」
「きれいな服が欲しいなぁ」
「ショッピング行こうか?」
「うーん、バーゲンでいい」
「じゃあ違うよ」
「そうなんだよなぁ」
「その糸は本当にその、半透明のなの?」
「さぁ。見たことないし」
「じゃあ、違うんじゃないの」
「じゃあなんだってゆうの」
「赤い糸」
「首に?」
「自分でゆったくせに」
「そうだったっけなぁ」
こんどまた糸が絡みついたら思い切り引いてみようか。赤い糸だったらもしかして、それを切って誰かの縁が切れるかも。その糸が余りに強ければ、きっとわたしの首が絞まるか千切れるかするかもしれない。
どっちにしろ、自由だわ。
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サキ
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