心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年04月26日(火) アスペルガーのイメージ

あなたは学級担任の先生です。そういう設定だと思って続きを読んで下さい。

今あなたは生徒の一人を伴って、学校の廊下を歩いています。その生徒を校長室まで連れて行くのが今のあなたの目的です。ただし、その生徒がアスペルガー症候群であることが、目的達成を難しくします。

さて、廊下の両側にはドアが並んでおり、ドアの奧には部屋があります。ドアが全部閉まっていてくれれば(アスペルガー君がそちらに注意を向けてしまうこともなく)問題はありません。

しかし、運悪くドアが少し開いていて隙間から明かりが漏れていたりすると、それに注意を引かれたアスペルガー君はこう感じてしまいます。「あのドアの向こうに何があるんだろう? ひょっとしてすごく大事なことが僕を待っているんじゃないだろうか」。一度その考えが浮かんでしまうと、もうそれを消すことはできません(ロックオン)。

ドアの隙間から中を覗こうとしているアスペルガー君に、あなたは「いやいや、君の行くところはそっちじゃない、こっちだよ」と校長室の方向を指し示します。しかし、アスペルガー君は相変わらずドアの向こうに興味津々で離れようとしません。そこであなたは、声を大きくして注意する、あるいは肩を掴むなどして、なんとか彼を廊下の先へと向かわせようとします。

「ふう〜やれやれ」と先を急ぎだしたあなたが、ふと振り返ると、後ろをついてきているはずのアスペ君がいません。見やると彼は先ほどのドアの前まで戻って、また中を覗き込んでいます。

イラっとしたあなたは、声を荒げて彼を非難してしまいますが、おそらくそれはさらなるトラブルを招くだけです。口論になるかも知れません。彼は耳をふさいでうずくまってしまうかも知れません。ドアを開けて突進してしまうかも。また外へ飛び出していってしまうかも。渋々あなたに従ったとしても、目標達成(校長室へたどり着く)の可能性はずいぶん低くなってしまうでしょう。

結局ここでも「受け入れることが正解」です。アスペ君がドアの隙間から漏れる光に興味関心を持ってしまったのなら、それを受け入れるしかありません。あなたがドアを開け、「ほらこの部屋は空っぽでなにもないよ」、「こっちの部屋は倉庫で君の興味を引くものは何もないよ」と示してあげれば、彼は納得して廊下の先へ向かうでしょう。

たまには、ドアの向こうが保健室で、保健の先生(♀)が「あら○○君どうしたの? どこか具合悪いの?」なんて優しく声をかけてくれるものだから、アスペ君はそこに長居したがるかも知れません。あなたは彼の手を引っ張って廊下に引き戻さなければならないかも。それでも、ドアを開けて、そこが目的地ではないことを納得してもうらうほうが、ずっと時間の節約になります。(周囲が合わせてあげる必要)。

もうおわかりでしょうか。担任の先生であるあなたとはAAスポンサーのこと。生徒のアスペ君は、やや積極奇異型気味のアスペルガー症候群を抱えたスポンシー。廊下を進むことが12ステップの行動で、校長室はその目標である霊的な目覚めです。

自閉的特性を持ったスポンシーは、時に12ステップの全体像を見失い、些末な、実に些末な細部に囚われてしまうでしょう(こだわり・固着)。仕事でも何でも彼はそうなのです。時にその特性が彼に仕事上の成功をもたらすかも知れません。しかし、12ステップに取り組むに当たっては、障害となってしまうことが多い。その特性は周囲の人々に苛立ちをもたらすことが多いのですが、少なくともスポンサーであるあなたは、一緒になって苛立っていてはいけません。

某ステップ勉強会で緑本を読み合わせていたところ、ヘリエッタ・サイバーリングの名前が出てきました。ビル・Wとドクター・ボブは1935年の母の日に、ヘンリエッタの家で初めて会いました。彼女が二人を引き合わせたのです。そして3人ともオックスフォード・グループのメンバーでした。さらに言えば、AAの12ステップの源流はオックスフォードグループのプログラムを受け継いだものです。

これを知ると、こんな考えが浮かんできます。「ヘリエッタ・サイバーリングとはどんな人だったのか?」「彼女とドクター・ボブとの関係は?」「AAの原理がオックスフォード・グループから受け継いだものなら、オックスフォード・グループの原理を知ればより霊的なことがわかるのじゃないか?」・・・などなど。

何かに興味関心を持つことは良いことです。しかし考えてみて欲しいのは、こういうことは回復のプログラムにとっては単なる周辺情報で、それを追いかけていくとどんどん本質から外れていってしまうことです。普通の人はそれを言えば分かりますが、自閉的特性を持った人には、ドアを開けて、中が目的地(校長室)ではないことを示した方が早いのです。ヘンリエッタやオックスフォード・グループについて、知っているだけの情報を提供すればいいでしょう(知らないなら知らないと言うしかないけど)。彼らにとって「知っていること」に意味があり、安心の材料なのです。

(Henrietta Seiberling については、例えばここに情報があります)
http://www.barefootsworld.net/aaorighenriettas.html

ビッグブックの読み合わせをしていても、そういうことは起こります。そんなときに「なんでコイツは、こんな細けぇことにこだわるかな」とイラだってみても得るものはありません。そのこだわりに付き合うことこそ我が使命、と思い直して前向きに取り組みましょう。

なにしろ彼ら(自閉的特性を持った人たち)は「スッキリしたい人たち」なのです。光の漏れているドアがあれば、開けてみたくてたまらないのです。それをせずに先を急げば、「あのドアの中はどうなっていたのか」というモヤモヤがずっと晴れずに残ります。そのモヤモヤが溜まりすぎれば、先へ進む障害にしかなりません。理路整然としたスッキリした世界が彼らの頭の中に構築される手伝いをしましょう。スポンサー自身の「スッキリしたい」という気持ちを優先させてはいけません。

あと、あらかじめ余計なドアは閉めておくことも必要でしょう(枠組みづくり)。

でもたぶんこんなことは、体得すべきたくさんの「コツ」のうちの一つに過ぎないのでしょうけど。ぶつぶつ。

ビッグブックを書いた人たちの頭の中に理路整然とした世界が構築されていたことは間違いありません。しかし、ビッグブックは視覚化も構造化もまったくされていません。だから、普通の人にもわかりにくいし、自閉的特性を持った人ならなおさらです。どうやったらそれを分かりやすく伝えられるか。そうしたノウハウ作りはこれからも続けねばなりません。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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